年の瀬にウクライナとの連帯を訴える

 今年は健康で盛りだくさんな一年だった。ほんとうにおかげさまです。

 1月、中村哲さんが幼い頃暮した北九州市若松区を訪問。

takase.hatenablog.jp


 ウクライナ取材を経て、年末には中村哲という希望』(旬報社)を出版することができた。

中村哲という希望』は佐高信氏との対談と私が書いた解説でできている。12月25日発売。

 仕事納めは、今日午前のウクライナ取材報告の公開だった。

jbpress.ismedia.jp


 充実した一年を可能にしたすべてのこと、人、ものに感謝。
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 年が改まるいま、ウクライナが心配だ。

 ロシアの世論調査で、「特別軍事作戦」(ウクライナ侵攻のこと)を今年の重要ニュースに挙げた人は22%と、昨年の62%から3分の1に減り、侵攻への関心低下傾向を示したとのニュース。侵攻に続いて2位となったのは、経済成長やインフレ、制裁対策、利上げといった「経済関連」だった。発表した「全ロシア世論調査センター」は政府系なので、そのつもりで数字を見ないといけないが、これには驚いた。たった22%か・・・。

 回答者の45%が、来年への期待として、「特別軍事作戦の終結」を選び、「大統領選」(プーチン勝利が確実の)が26%、「経済成長と生活水準の向上」が13%だったという。回答者の63%は来年について、「ロシアにとって良い年になる」と確信、懐疑的なのは33%だったという。(調査は全国の18歳以上の1600人が8~16日に回答)

 14日に開かれたプーチン大統領の年末恒例の大記者会見では、笑顔でジョークをまじえ余裕しゃくしゃくの姿があった。ウクライナ侵攻の目的を聴かれたプーチンは、「我々の目的は変わらない。ウクライナの非ナチ化、非軍事化、中立化だ」と答えたが、これは侵攻時の「目的」そのまま。ロシアは侵攻をやめる気がまったくない。

 ロシアの「余裕」は、一つには、ロシア侵攻が不均衡、不釣り合いな戦争になっていることを示す。戦闘で破壊されるのはもっぱらウクライナで、ロシアは(ドローンがモスクワに飛んできてニュースになったりしたが)傷つかないのだ。欧米はウクライナに対して、ロシア本土を攻撃することを禁止しているからである。そのわけは、ロシアを「刺激」すると、第三次世界大戦を招く、あるいは核戦争になる可能性が高まるからだという。つまり、ウクライナはいわば手足を縛られた状態で戦わざるをえないのだ。

 ミサイルや戦闘爆撃機が発射される敵基地を叩かないと本来の「防衛」にならないのだが、それができない。欧米はウクライナに長い射程の飛び道具を与えてこなかった。だから、ウクライナは、飛んできたミサイルやドローン(無人機)を目標の上空で迎撃するしかない。これは圧倒的に不利である。ロシアは軍事工場も無傷だから、いま兵器弾薬の増産の号令をかけている。

 一昨日の29日、ロシアはウクライナ全土に無人機やミサイルによる大規模な攻撃を行った。ウクライナ当局によると、侵略以降最大規模の空襲で、病院や住宅などの民間施設が被害を受け、少なくとも19人が死亡し、108人が負傷した。

 ゼレンスキー大統領は、ロシアは無人機や巡航ミサイル、長距離地対空ミサイルS300などを使った空襲は、キーウやポーランド国境に近い西部リビウ、東部ドニプロやハルキウ、南部ザポリージャやオデーサなどの広範囲に及んだと明らかにした。軍事施設やインフラ施設のほか、教育機関やショッピングセンターなどが被害を受けた。東部ドニプロでは産科病院や商店、住宅が被害を受け、少なくとも5人が死亡した。リビウ市では1人が死亡。3つの学校と幼稚園も被害を受けた。北東部のハリコフ市では、倉庫や工業施設、医療施設、輸送拠点がミサイル攻撃を受け、1人死亡、11人が負傷した。ウクライナ空軍は、ロシア軍による無人機やミサイルの攻撃総数は158に上り、そのうち無人機27機と巡航ミサイル87発を撃墜したという。

 軍事施設だけでなく、医療や教育関係もターゲットにしている違法なロシア軍の攻撃は相変わらずで、ウクライナは必至の防空戦を戦っているが、158のうち114発しか撃ち落とせていない。

 ウクライナが一方的にやられているというこの構図に加え、欧米はじめ世界のウクライナ支援疲れで防衛用の兵器弾薬が圧倒的に不足する事態が迫っている事情が、プーチンに笑みをもたらしている。

 私はウクライナの前線を取材して、ウクライナ軍が兵器、弾薬と人員で劣り、制空権もロシアにあるという、非常に厳しい状況での戦いを強いられていることを知ったが、先日、東部の拠点マリインカをロシアが掌握したことをウクライナ軍のザルジニー総司令官が認めた。さらに、ロシア軍が大攻勢をかけているアウジーイウカも近い将来「陥落」する可能性に触れた。

侵攻以来初めて記者会見にのぞんだザルジ二―総司令官(NHK国際報道より)

 ウクライナ軍は兵士不足も深刻で、軍は50万人の追加動員が必要とし、ウクライナの国会は年明けの来月には、徴兵年齢の引き下げなどの法案を審議する。首都キーウでは、12月に入り、前線にいる兵士の家族など数百人が集まり、「夫や子どもが無期限で戦地に派遣されている」などと抗議デモも起きている。

 ロシアは刑務所内の受刑者まで戦場に投入し、人命無視の人海作戦で戦闘を継続できるが、言論の自由を謳う民主国家ウクライナでは、追加動員は、社会に分断を招きかねない。

 ウクライナはまさに正念場である。ここまでウクライナが追い詰められるとは思っていなかったが、ロシアの思い通りにさせることは許されない。

 年の瀬にあたり、来年が、ロシアの暴虐に抵抗するウクライナの人びとにとって良い年になるよう祈ります。