ウクライナの「勝利」が平和

 ロシアの侵略前からウクライナを取材し続けている、香港出身のジャーナリスト、クレ・カオルさんと先月の講演会で再会した。

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 すぐまたウクライナに取材に行くというので、カンパを兼ねて彼の写真を購入した。負傷したウクライナ兵士を写した一枚だ。

私が購入した負傷したウクライナ兵士の写真(クレ・カオルさん撮影)

 この写真のキャプションは―
《(2022年)5月上旬、ドニプロ。イジューム戦線で、タンク攻撃で負傷した兵士。「あなたにとって平和とは何か」を聞くと、負傷した腕をあげて、перемога!!(勝利!)と答えた》

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 平和とは「ペレモハ」、勝利。この写真がとても印象深かったので選んだ。ウクライナでは政府が人々に抵抗を強制しているのではなく、国民自らがロシアの侵略と戦おうと立ち上がっている。このことが日本ではなかなか理解されにくい。

 

 いつもは観ないNHKあさイチ(朝8時15分から)だが、今朝の特集「カテリーナが届けたいウクライナのリアル」は、ウクライナ市民の本音が聞けておもしろかった。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2023062812590

 日本在留のウクライナ人、ノヴィツカ・カテリーナさんは、NHKのディレクターだ。この特集は、彼女が親しい友人3人に視聴者の疑問をぶつけて答えてもらうという趣向。

今朝のあさイチのスタジオ


 質問のなかに、「あなたは、ロシアに抵抗するウクライナ政府を支持しますか」というのがあった。

アンナさん

 カテリーナさんと同じ日本好きで日本に滞在していたが、ロシアの侵攻開始後、罪悪感を感じてウクライナに戻ったアンナさん(28)は―

「抵抗する道を選んだのは、政府じゃなくて、私たち自身だよ。ロシアは私たちの文化やアイデンティティまで否定している。こんな仕打ちは不条理すぎる。だから戦っている。」と毅然として語った。


 カテリーナさんの大学時代の日本語学科の友人のオーリャさん(27)は、連日のロシアからの攻撃でストレスがたまり、田舎で休養するために移動中。車を運転しながらこう答えた。

オーリャさん

 「まず、私たちの置かれている状況を想像してみてほしいんです。

 例えばもし、アパートの隣人が、ある日突然、ドアを蹴破って、あなたの部屋に入ってきて、『ここは私の部屋だ、ここに住む』と言いだしたら?

 そしてあなたの冷蔵庫の中のものを全部食べ、あなたの妻をレイプし、あなたの子どもを奪ったら?

 これが私たちが置かれている状況です。あなたならどうする?『どうぞどうぞアパートをお譲りします。なんでも使っていいよ』というわけにはいかないでしょ。私たちの家、私たちの国、私たちの歴史を諦めるわけにはいかない。」

 これに関して、カテリーナさんは「『命を守り、生き延びるほうが大切』という考え方はない?」とも質問した。抵抗せずにロシアの言うことを聞いたら少なくとも命は保証されるのでは、と考える日本人が多いことを意識したのだと思う。

カテリーナさん

 これに対して、カテリーナさんの小中高の同級生のオリガさん(27)―4歳の子どもの母親—はこう答える。

オリガさん

 「ロシアは私たちを生かしてはくれない。

 私は一時期、ロシアに占領された村にいたの。そのときロシア兵たちが行った恐ろしい暴力について、みんなが話しているのを聞いた。」

 ロシア軍の支配下では命さえ守れないことをウクライナ人はよく知っている。だから領土の一部でもロシアに占領され、住民がロシアの支配下にある状態での「停戦」を圧倒的多数の国民が拒否する。やはり、勝利こそが平和なのである。

 カテリーナさんの妹は侵攻から3カ月後、カテリーナさんを頼って日本に避難してきた。今年の新年に彼女曰く「今年は『退屈だなあ』と思うくらい平和な一年であってほしいな。『仕事が見つからない』とか『恋人ができない』そういうことが一番の悩みになるような、何の変哲もない一年になるといいな。」

 退屈な日本にいる我々がもっと平和のために頑張らなくては。