先日、香港出身のジャーナリスト、クレ・カオルさんの講演会に行ってきた。
彼はウクライナに、ロシアが侵略する前から入って、いまも取材を続けている。去年、彼の話を聴いて感銘を受けた。
今回、彼の写真の中で印象的だったのは、97歳のアンナさんというおばあさんが、ホロドモール当時の家族写真と一緒に映る一枚。
ホロドモールは1932~33年にウクライナで少なくとも200万人が犠牲になったという大飢餓。ソビエト政権による人為的な食糧危機だった。
アンナさんはその生きのこりで、当時、親戚の子どもが誘拐されて食べられたという。「武器なき殺人」だった。アンナさん「私たちが武器を持っていないと、またホロドモールが起きてしまう」。
実際、ロシア軍はいま食糧倉庫を狙って攻撃し、またホロドモールをやろうとしているのかとウクライナ人が怒っているという。今年はホロドモール90年。
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広島でのG7首脳会議では「核兵器のない世界の実現に向けた力強いメッセージ」を発信するなどと意気込んでいた岸田首相。核軍縮をめぐる初のG7首脳文書、「軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を出したものの、その内容は、「核の先制不使用」すら入らない、これまでと変わり映えしないもので、被爆者たちは失望しているという。
21日のTBS「サンデーモーニング」ではゲストらがそれぞれ鋭く批判した。
畠山澄子さん(ピースボート共同代表)は涙声でこう語った。
「世界を回って非核の声を届ける活動をずっとしていて、サーロー節子さんとも世界を回ったことがある。今回の広島サミット、被爆者のみなさん、ほんとに期待してたんですよ。被爆の実相をみれば何か血の通った言葉が最終成果文書に入るんじゃないかと思ってたんです。
ふたを開けたら成果文書には「核の廃絶」という文字もない。「核兵器禁止条約」という文字もない。「被害者援助」の話もない。これまでのものと何ら変わらない。中国、ロシアを責めるのもいいですけど、G7諸国は核軍縮義務をちゃんと取り組んでいるのかと、被爆者の方、怒ってるんです。
記者会見で被爆者のみなさん、口をそろえて「でもあきらめない」とおっしゃってたんです。だから、私もあきらめたくない。核のない世界のために、核はダメだって事を被爆者のみなさんと一緒に言い続けます。」
これを受けてジャーナリストの青木理さん。
「岸田首相、今回も保有国と非保有国と橋渡しするんだと言ってて、それだけ聞いているとがんばってるのかなと思うかもしれないけれども、オバマ大統領が核の先制不使用を検討したときに、一番強く反対したのが実は日本だった、という事実もあるんです。
広島、長崎という道義的責任を日本は追っていると思うんですけど。これをほんとうに果たしているのか、ある意味今回、非常に政治的な首相の地元のサミットが盛りあがったよね、首相の政治的なアピールになったよね、ということで済ましてはいけない。後退したんじゃないかという畠山さんの指摘はかみしめなくちゃいけないと思う。」
寺島実郎さん。
「日本はアメリカの核の傘で守られてるんだから、核兵器禁止条約には入らないし入れないという判断をとっているわけですね。だけど世界では92カ国が署名して、68カ国が批准しているわけですよ。入れないにしても、この広島を機に一歩でも日本は踏みこんだのかというところを見せなきゃいけない。ビジョン語ってる場合じゃなくて行動。
核兵器禁止条約をよく読んでください。第6条に核の被害者、被災地への援助というのがある。かりに条約に入れなくても、世界にはチェルノブイリ、南太平洋の核実験のあとの被災地だってあるわけですね、それを真剣に支援するというところで日本がスタンスを見せるなんていうのも半歩前進なんですよ。やれないことはないんですよ。ですからビジョンだけ語ってる場合じゃないよということだけ日本人としてよく自覚すべきだと思います。」
目加田説子(もとこ)さん(中央大教授)
「今回のG7を見ていても、核軍縮という問題に安全保障という面からばかりアプローチしてるんじゃないかと感じる。
いま世界で注目されているキーワードに「ポリクライシス」がある。複合的危機と訳される。要するに戦争であったり気候変動であったり難民の問題であったり、あるいはパンデミックであったり、単体でも一つ一つがものすごく巨大な危機なんだけれども、それが同時に起きると1たす1が2ではなくて10にも30にもなって、より巨大なリスクを引き起こすという考え方なんですね。たとえば何らかの紛争が起きてそれがエスカレートして核戦争になってしまうと、地球全体の寒冷化を引き起こして食糧危機に陥るということで、核の問題をもっともっと複合的に広い視座でとらえながら議論していくことが文字通り本来であればG7で試みられるべきだったんじゃないか。それが目先のことばかりに核軍縮を捉えてしまうところに、発想の限界があるのではないか。」
それぞれ、考えさせられるコメントだった。