はじめにお知らせです。
終わりが見えない戦争をウクライナの人たちはどう受け止めているのか。現地とZOOMで結んで直接ウクライナ人の話を聞いてみませんか。
2月27日(火)よる8時から、去年の取材で知り合ったウクライナの若者、マックスとのZOOM交流会を行います。
ロシアの侵略時、マックスは19歳、ITを学ぶ大学生でした。衝撃を受け、自分は何をすべきか模索した結果、休学してロシアとの戦いを支援する活動に入りました。
週2回は砲弾がいつ落ちるか分からない前線近くを回って、避難できずにいる高齢者の生活を支えます。何度も死にそうな目にあいながら、Tik Tokでカンパを訴え活動を続けています。
なぜ強大なロシアへの抵抗をやめないのか? 死ぬのは怖くないのか? 人生の目的とは? 日本は何ができるのか?・・「何でも聞いて」とマックス。彼とは英語で会話して私が通訳します。希望者は私までご連絡くださればZOOM招待を送ります。なお、ZOOMでは必ず顔出しでご参加ください。
ロシアによるウクライナ侵略から2年がたつ。
前線に膨大な物量と兵員を投入するロシア軍に対して不利な状況に立たされているウクライナ軍。また、連日さらされる空襲の恐怖、増え続ける命の犠牲、失業や避難生活で進む貧困化で疲れ切った市民たち。この現実を前に「もういいかげんウクライナも矛を納めて停戦すればいいのに、占領された地域はロシアに譲って・・」と停戦を主張する声が高まっているようだ。
このさい、ウクライナの戦いをどう受け止めればよいのか、原則的な立場を確認しておきたい。
ロシアの侵略が始まって1カ月半たった一昨年4月10日、NHKがニュースで、日本在住のウクライナの子どもらが語学や文化を学ぶ東京都内の「日曜学校」に、ロシアの侵攻を受けてウクライナから避難してきた人が参加したことを紹介し。その中で、ザポリージャから日本に避難してきたという女性が登場した。彼女の音声つきの映像に「今は大変だけど 平和になるように祈っている」と日本語字幕が付いた。
その翻訳がおかしいとクレームが寄せられ、朝日新聞が確認したところ、音声ではロシア語とウクライナ語を交えて「私たちが勝つと願っています。ウクライナに栄光あれ」と語っていたという。
「勝利」を「平和」に変え、「ウクライナに栄光あれ」というウクライナ人の愛国的な決まり言葉も削除し、まったく異なるニュアンスのコメントに改ざんしたのである。戦うことはいけないことだから、「平和」を願っていますという発言でないと困る、と番組担当者は思ったのだろう。
指摘を受けてNHKは、見逃し配信サービスの「NHKプラス」で放送5日後から「翻訳をより的確な表現に改めました」と明記した上で「いまは大変ですが勝利を希望しています ウクライナに栄光を」との字幕に変えた。いかにも日本的な「事件」だった。
「あらゆる戦争は悪」が絶対の正義と思う日本人は多い。とくにいわゆるリベラル派においては多数派だろう。
ここに、それに反対するリベラル派を紹介しよう。
まずは報道写真家の中村梧郎さん。代表作『母は枯葉剤を浴びた』で、ベトナム戦争で米軍が使用した枯葉剤の被害を告発した。「九条の会」傘下の「マスコミ九条の会」呼びかけ人を務めているからバリバリの護憲派でもある。私は40年前からお付き合いさせていただいている。
中村さんは最新刊『記者狙撃~ベトナム戦争とウクライナ』で、1979年に起きた中国のベトナム侵略の取材中に中国軍による狙撃で『赤旗』特派員・高野功氏が殺された事件を検証している。高野氏と一緒に現場にいた中村さんの筆致はリアルで引き込まれるが、この本ではウクライナ戦争に対する見方もかなりのページを使って論じられている。おそらく「護憲派」の人たちの「正義の戦争はない」論にむけてこの部分を書いたと推測する。
中村さんはベトナム戦争をアメリカの侵略への抵抗戦争と見ており、その同じ構図がロシアの侵略に対するウクライナの戦いにあるとする。侵略戦争と防衛戦争を同列に扱うなというのだ。以下、本書から抜粋。
《長期化するウクライナ侵攻について、「ゼレンスキーが武器を要求するから犠牲者が増えるのだ。ウクライナは戦争をやめるべき」と主張する見解も拡がった。それは、とりもなおさずロシアを擁護し、彼らの侵略を免罪する役割を果した。これは、侵略戦争とそれに対する抵抗戦争を同列に扱って「どちらにも反対」という考え方に立っている。だが、侵略を行う側は、自らの軍事的優位を背景に「俺の言うことを聞け」とばかりに軍隊を侵入させる。そして領土の割譲も迫る。防衛する側は必死の抵抗で国と国民を守るしかない。ここで糾弾されるべきは侵略戦争であり、それへの抵抗はあくまで正義の防衛戦争であるということだ。侵略とそれに対する抵抗を同列のものと見てはならない。対等な戦争ではないのだ。
ウクライナ政府は、家族と国土を守り抜くための武器が欲しいのだ、と一貫して求めてきた。敵国を侵略して占領するための兵器はいらないとも言っている。防衛・抵抗戦争を続ける側のまともな要求である。》
《「戦争反対」「平和を守れ」という善意のスローガンは、しばしば戦争をしているどちらも怪しからんという理解に陥りがちだ。だがこうしたケンカ両成敗論は、必死で抵抗戦争を続ける側にあきらめを強い、侵略した側が“やり得”となることにつながってしまう。アメリカやNATOが背後でうごめいているにせよ、「侵略戦争」には断固反対、「抵抗戦争」は断固支持、の原則に立ち帰って考えなければならないのではないか。攻撃され犠牲となり続けているウクライナの民衆がかわいそうだ、だからすぐに停戦せよ、という善意の運動も起きている。だが、同じ要求を掲げているのがロシアなのである。》
《自衛隊の統合幕僚学校でも教えている伊勢崎賢治・東京外大名誉教授は、長周新聞2022年12月30日号でこう述べている。
「・・・たった1m、2mの『勝った』『負けた』のために何万人も死ぬわけだ。停戦が一日でも早ければ何千人もの命が救える。こんなちっぽけな領土争いのために、なぜ一般市民が死ななければならないのか。日本の護憲派にこそ、そういう考えを持ってもらいたい」
つまり、犠牲を減らすために早く停戦に応じよ、わずかな土地だ、占領された地域はそのまま認めればいいではないか、という見解である。
これはロシアが掲げている要求そのものである。何千人もの一般市民の命が奪われるのはロシアのミサイル攻撃や砲撃によるものだ。それを免罪し、ウクライナ側が停戦に応じないから犠牲者が増える、悪いのはウクライナ側という理屈になっているではないか。日本の護憲派はこうした考えを持て、とも主張している。》
《国土を奪われ、住民を見境なく殺され続けているウクライナにとって、抵抗戦争の終結は、ロシアが侵略以前の位置に戻ることによってしか実現しないはずである。
5月半ば、東京新聞にウクライナでの停戦を呼びかける意見広告が出た。戦争そのものに反対し、平和こそ大事だと考える人々が名前を連ねた。善意の広告資金もカンパした。だがなぜか引っかかるのは、この広告の趣旨がロシアの言う代理戦争論に拠っている点である。
「今やNATO諸国が供与した兵器が戦争の趨勢を左右するに至り、代理戦争の様相を呈している・・・」という説明である。やはり代理戦争論なのだ。東京新聞の「こちら特報部」(6月4日)ではインタビューに答えて「既に中国が停戦を提案している。これにインドはじめ中立の立場をとるグローバルサウスの国々も仲裁に加わることができないか」。「…欧米からのウクライナの兵器供給を停止、あるいは大幅に縮小するとか、大胆な譲歩のカードが必要です」と主張している。これは中国が出した提案と一致している。戦争犠牲者を減らすためにという建前を掲げつつ、ロシア軍の占領地からの撤退は一言も言わず、ウクライナに譲歩せよと求めているのである。この意見広告は、やはりロシアだけが喜ぶ提案となってしまっているのではあるまいか。》(以上P223~230から)
なお、この意見広告のクラウドファンディング呼びかけ人には、伊勢崎賢治/上野千鶴子/内田樹/加藤登紀子/金平茂紀/姜尚中/高村薫/田中優子/田原総一朗(ジャーナリスト)/暉峻淑子/西谷修/吉岡忍/和田春樹といった錚々たるリベラル派が並ぶ。酒井啓子氏、田中優子氏など尊敬する人もこれに加わっていたのはちょっとショックだった。大学時代からの友人の水島朝穂の名もあった。
中村梧郎さんもこれにカンパしてしまったらしい。
ベトナム人民の抵抗の実態を現地で取材した中村梧郎さんにとって、侵略者を追い返すことこそが平和を達成する道であることは自明の理なのである。だから、いますぐ停戦をという要求は侵略者側を利することを意味するのだ。
では、パレスチナの事態はどうなのか。
「今すぐ停戦を!」は間違っているのか?
(つづく)