戦争とアイデンティティ2

 プーチンの核使用の可能性が取りざたされるなか、6月21日からウィーンで核兵器禁止条約の初めての締約国会議が開かれ、各国代表やNGOなどが集結した。

 いまは核兵器禁止運動に「逆風」が吹いているが、それは同時に、より必要性が高まったとも言える。

 去年1月に発効した核兵器禁止条約は65の国と地域が署名・批准を終えた一方、アメリカやロシアなどの核保有国に加え、日本など核抑止に頼る安全保障政策をとる国は参加していない。

 日本政府がオブザーバー参加の要請を蹴って参加しなかった一方、被爆者団体の他に日本の高校生もサイドイベントなどに参加したとのニュース。

(サイドイベントで訴える長崎の神浦はるさん(高3)=右と広島の大内由紀子さん(高3)長崎文化放送ニュースより)

 実は日本と同じ理由で条約に参加していない欧州の国々がオブザーバー参加して、しっかり発言している。

日本同様、米国の核の傘に守られているNATO4カ国(ドイツ、オランダ、ノルウエーなど)がオブザーバー参加し、核兵器禁止のために貢献したいと演説(NHK

 岸田文雄総理は常々広島出身を売りにして核禁条約国と核保有国との「橋渡し」をすると言っているが、会議に参加もしないで「橋渡し」などできるのかと問われればグーの音もでないだろう。

参加しないでどうやって「橋渡し」するんですか?誰でもそう思うよな

参加しない理由をあれこれつけて腰が引けている。

 少なくとも高校生に対して恥ずかしくないくらいのことをやってほしいな。
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 ロシア軍の犠牲者のなかで少数民族の比率が異様に高い。

 この主な理由が、契約軍人制度にあると「国際報道」(NHK)が報じている。
 バイカル湖畔にあるブリヤート共和国はロシアの85ある連邦構成主体(うち共和国が22ある)のなかでも貧しい地域だ。

ブリヤート共和国の位置

 ある家族からウクライナ戦争の犠牲者が出た。亡くなったのは元教師。教師の月給が2万円ほどで、家族を養っていけなかったので、契約軍人に応募した。給料は教師の6倍だった。

亡くなった兵士は元教員だった

悲しむ母親

 この契約軍人制度に応募するブリヤートの若者は多く、村によっては成人男子8人に1人が契約軍人としてウクライナに送られているという。

 また、中央アジア諸国から出稼ぎでロシアに移り住んだ人は780万人以上いるとされ、彼らの弱い立場につけ込んで、便宜供与(国籍取得など)や脅迫(国外退去などの)で契約軍人に仕立て上げるケースも多いという。

 実はロシア軍は徴集兵より契約兵がはるかに多いのだ。

ロシア軍は約70%を契約軍人が占めていて、あとは徴集兵だ。ワシントン・ポストによると、契約軍人は3年間、月の報酬約1100ドル(約14万円)の契約を結ぶのが一般的だという。」(Business Insider)

 プーチンは国民の抵抗も予想される総動員を避けて、契約軍人で失った兵士の補充に充てたいと考えているようだ。
 契約は原則3年だが、最近は補充が追い付かず、3カ月の兵役契約に署名した新兵に月17万ルーブル(約38万円)以上の手当を提示したり、チェチェン共和国では最初の月の給与として30万ルーブル(約67万円)を提示するケースもあるという。

 結果としてますます貧しい少数民族の人々が前線に送られて死傷することになる。

 そこで起きているのが少数民族としてのアイデンティティの高まりとロシア国家への忠誠心の低下だ。

 あるブリヤート人は「自分はロシア人ではないのに、なぜロシア世界を守らねばならないのか」と考えるようになったという。

ロシア国外でブリヤート人の権利について発信するガルマジャポワさん

各国に移住したブリヤート人が声をあげはじめた

 世界に移住したブリヤート人が声を上げはじめ、いま民族的自覚のもと、連帯してロシアのウクライナ侵攻に抵抗する運動が起きているという。

 ブリヤート人モンゴル族の一部で、顔立ちは私たち日本人によく似ている。NHKのニュースでは犠牲になった兵士の葬儀はチベット仏教で執り行われていた。親近感を感じたこともあって、いたく同情させられた。

 ロシア人(民族)の政府への抵抗はもちろん重要だが、ロシア国籍の少数民族の動きにも注目したい。