アフガンの麻薬とタリバン③

 先日のニュースで、ふるさと納税で「赤字」になっている自治体が、ふるさと納税の強化のための人材を募集していることが報じられていた。

 四日市市では、昨年度、日本各地からの寄付が約5000億円あったのに対し、市民の寄付による税の控除が約8億5000万円で、差額の約8億円が“流出”したという。四日市市民がたくさん他の自治体のふるさと納税をしているのに、市にふるさと納税をしてくれる人が少ないということだ。市では、ふるさと納税シティプロモーション戦略プロデューサー」(!)なる専門職員を公募しているそうだ。

 ふるさと納税は、税の納め先を変えるだけで「返礼品」という商品がもらえる、いわば負担金2000円の通販。こっちはブランド牛肉、あっちはシャインマスカットと「返礼品」はよりどり。やらない人は損をしてバカを見ますよといわんばかりの風潮になっている。

今週のベストテンだと・・。これが納税なのか?「さとふる」(ふるさと納税を商売にしている会社)のHP

 自治体も客寄せに必死で、「返礼品」調達と人件費、輸送などのコストがかさんでいるという。

 ”本末転倒”とはこのことだ。もともとの趣旨はというと―

「地方出身者は、医療や教育等の様々な住民サービスを地方で受けて育つが、進学や就職を機に生活の場を都会に移し、現住地で納税を行うことで、地方で育った者からの税収を都会の自治体だけが得ることになる」ので、寄付先を納税者自らが選択できるようにして、都市と地方間の格差を小さくしようというもの。故郷を思う都市住民の気持ちが込められた納税のはずである。                              

    マイナンバーカードのポイントやらコロナ下でのGO TOやら、「お得ですよ」とお金やモノで釣られるとホイホイついていく国民に我々はなったらしい。逆に言うと、「お得」でないと動かない。近ごろは、“さもしい”などという日本語をとんと聞かなくなったなあ。

 昨年末に亡くなった、渡辺京二さんが、日本人のいいところを挙げてこう言っていた。

古事記』以来、日本人は汚い心をとても嫌ってきた。神道でいう「清き心、明(あけ)き心、直(なお)き心」、これこそが日本人の一番の徳目だと思います。

 私も"古い人間"なのかな、と自覚させられる今日この頃である。

 
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 アフガニスタンの麻薬の話の続き。
 
 麻薬と貧困はつながっているなと思ったのが、北朝鮮から脱出して帰国した日本人妻がケシを庭に植え、樹液(アヘン)を鎮痛剤にしていたと聞いたときだった。
 北朝鮮では、建前では医療は無料になっているのだが、お金がなければまともな治療は受けられず、ほとんどの痛みはアヘンで痛みを治めていたという。

 アフガニスタンの首都カブールで、2人の日雇い労働者を取材した。街でよく見かける一輪車で荷物運びをする労働者で、大きな買い物をするお客の荷物などを一輪車で駐車場まで運んだりして手間賃をもらう。彼らのあいだでは、カジュアルな感じで麻薬が使われているらしく、2人とも常習者だった。

 35歳のカイスさん(仮名)は、朝と夕方の2回、ヘロインを吸引する。若いころ石材を扱って腕に大けがをし、ちゃんとした治療を受けなかったせいで、今もときおり激しく痛むという。お金がなく医者にかかれないので、痛み止めがヘロインだ。これなしには働けないという。このほか気分転換にときどきハシッシ(大麻の樹脂)をやる。日々の暮らしの苦しさに「やってらんねえよ」と麻薬に手を出す気持ちはわかる。

 アフガニスタンでは、前政権時代の2010年、はじめてのまともな調査がUNODC(国連薬物犯罪事務所)により行われ、人口の8%!が麻薬中毒という衝撃的な数字が公表された。欧米と国際社会が膨大な資金と軍事力を投入して「民主国家」建設にまい進していたころ、麻薬は国のすみずみまで蔓延していた。

 薬物常習者がたむろするカブール市内のソクタ橋の取材については前々回触れたが、タリバン政権も常習者のあまりの数の多さに、簡単に手を出せないのか、事実上野放しになっている。

 橋のたもとである常習者の話を聞いた。

「家族はどこにいるかわからない、ここに11年間寝泊まりしている」という。橋の下に「住んで」いるというのだ。麻薬中毒問題は、ここ2年、3年の話ではなく、この国が長く引きずってきている、頭の痛い問題であることがわかる。

 主に使うドラッグは、ヘロインと「シーシャ」だという。水タバコのシーシャとは別で、安い覚せい剤系の薬物で、「貧者のドラッグ」と呼ばれ、最近はヨーロッパでも問題視されているようだ。

麻薬の常習者。手に持っているのがシーシャの吸引具で、これを売って暮らしているという(筆者撮影)

 どうやって麻薬を買うお金を得ているのかと尋ねると、ガラス製のパイプを見せて、これを売っているという。客も常習者では、大したお金にはならないだろう。近くの住民によると、常習者による窃盗が頻発していて、とても迷惑しているという。

 第一期タリバン政権(96年~2001年)では、ケシは厳しく取り締まられ、激減した。タリバンは20年ぶりに政権についてからも一貫して麻薬取り締まりをしているという。
2021年8月15日のカブール陥落直後の17日、初の記者会見で、タリバンのムジャーヒド報道官が「統治方針」を発表したが、その中に「ケシ栽培の撲滅」があった。

 さらに、去年22年4月3日にはタリバンのアクンザダ最高指導者がケシの栽培と麻薬の使用を禁止する命令を出している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/63adcd691267eac2de10f76ec27388e7ef48585d

 タリバン政権下での麻薬の現状はどうなっているのか。アフガニスタンの麻薬問題を取材している朝日新聞の石原孝記者のリポートを引用する。

《薬物犯罪事務所(UNODC)などによると、アヘンの生産量はアフガニスタンで2021年に約6800トンに上った。世界全体の86%を占める規模だ。》

22年8月17日朝日朝刊記事

 22年4月のタリバンの禁止令についてある仲買人は―

《ケシの栽培や麻薬の使用を禁止するとの)発表前の昨秋に植えたケシの売買は黙認されているが、今秋以降は認められない可能性が高いと仲買人たちはみている。

 市場近くの畑で、ケシ栽培を30年以上続けてきた農家ムハンマドハッサムさん(65)も、「タリバンが禁止と言えば、栽培はできない。彼らの決定は絶対だ」とこぼした。

 少ない水で育ち、干ばつに強いケシは、他の作物より栽培しやすい。年に40キロほど収穫して数十万円を稼ぎ、14人の家族を養ってきた。「ケシが麻薬になることは知っているが、我々は生活のために栽培してきただけだ。自分たちで使ったことはない」

 ハッサンさんは、タリバンを支持している。駐留米軍や、それが支えていた政府軍と約20年かけて戦い、米軍撤退に追い込んで戦闘を終わらせたからだ。2年前には政府軍が自宅近くを空爆し、まだ若かったおいが死亡したという。

 タリバン暫定政権が貴重な収入源としてきたケシ栽培を禁止した背景には、国内で薬物乱用が増えていることも関係している。首都カブールの橋や広場では、男たちが固まって麻薬を吸引する姿をみかける。

 暫定政権は彼らを専用施設に連れて行き、更生を目指している。施設の代表を務めるタリバンのアブドゥルナシル・ムンカッド構成員(45)は「国内全体の薬物乱用者は少なくとも500万人はいる」という。人口の約13%に上る数だ。紛争で家族を失ったり失業したりした人が多く、つらさを紛らわせるために手を出す人もいるという。(略)

 ただ今後、ケシ栽培の禁止がどれだけ徹底されるかは不透明だ。財政難にあえぐタリバン暫定政権は、戦闘員の給料を十分に払えていない。麻薬取引で自活して生きた一部のタリバン戦闘員にとっては、重要な資金源が断たれることを意味する。タリバンの支持基盤である南部農民たちからも不評を買いかねない。

 さらに、禁止令によって生産量が減ると、希少価値が高まって取引価格が跳ね上がることが予想される。ひそかに栽培をしようとする農家にとって、よりもうけが大きくなる。

 地元記者は「苦しい生活が変わらないなら、隠れて栽培する農家が出てくるかもしれない。欧州など各国の需要も急には減らないだろう」と指摘する。》(22年8月17日朝刊)

 

 戦乱で農村が破壊され、社会構造がズタズタにされた農民たちが、ケシ栽培を生活の基盤にするに至ったアフガニスタン。禁止するだけでは、暮らしがなりたたなくなる。経済危機にあるアフガニスタンで何をどこまでやれるのか。

 麻薬は今後も大きな問題としてこの国を苦しめそうだ。

(終わり)