冬を迎えて困窮するアフガニスタンの庶民

 喪中はがきが届き始めた。今年もはやく過ぎたなあ。

 いま、アフガン人の人権活動家、ファティマ・ギラーニさんが来日していて、NHKのインタビューに答えていた。

ファティマ・ギラーニさん。7日の「国際報道」より

 ファティマさんは、前政権で赤新月社赤十字にあたる)の総裁をつとめ、2018年からは和平交渉団の一員としてタリバンとの交渉にあたった人だ。

 女性の権利拡大にも努力してきた彼女が、タリバンへの敵視政策ではなく、関与を強めるよう国際社会に求めている。このことがとても興味深かった。

 まず、アフガニスタンの現状についてー

「人々は苦しんでいます。銀行は閉鎖され仕事はありません。アフガニスタンの中間層は飢えています。最大の懸念は不確実性です。次に何が起こるのか、毎日わからないのです。」

 そして、タリバンによる女性の権利制限を憂慮する。タリバンは女子の中等教育を禁止するだけでなく、最近は特定の公園や遊園地への女性の立ち入りを制限している。

アフガニスタンには教育を受けた女性たちがいます。女性たちには国のために奉仕する責任があります。それを妨げるのは間違っています。
 ただ国際社会は(女性の問題を)政治的な争いにしないでほしい。問題解決に向けて(タリバンとは)入念に計画した上での巧みな交渉が必要です。」

 女性の権利の問題だけに注目して制裁を科し続ける国際社会への批判である。

「いま直面している問題からまずは向き合い始めましょう。少しづつでも進めば国の正常化国際社会からの承認へと前進します」

 インタビュアーが、こうなったのは誰の責任ですか?と聞くとー

「みんなの責任です。タリバン、前の政権、各部族の指導者や長老たち、そして男性も女性も全員にアフガニスタンを立て直す責任があります。当然、大国の責任でもあります。」

 ファティマさんは、タリバンと対立するIS(イスラム国)の台頭を懸念し、国際社会はタリバンとの対話を急ぐべきだという。

「好きであろうと嫌いであろうとアフガニスタンの現政権はタリバンです。関与しなければ現状を改善できません。改善は(タリバンに)関与して初めて可能となるのです。」

 この結論は、私がアフガニスタンの取材で思ったこととほぼ一致している。

 日本がアフガニスタンにどう向き合ったらいいかについては、おいおい書いていこう。

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 アフガニスタン・リポート続きー

カブール俯瞰

11月17日(木)

 アフガニスタン4日目。今朝は水たまりに氷が張っていた。もう冬だ。

 取材許可が出たので、きょうから本格的にカメラを回せる。

 出がけに近くの部屋の青年(たぶん18歳くらい)に廊下で挨拶。米国に移住するため一家でこのゲストハウスに滞在しながらパキスタンのビザ手続きをしているのだという。懸命に勉強したのだろう、英語がとても上手だ。

 うまくいくといいね、と笑顔で別れたが、これから大変なこともたくさんあるだろうな・・。

 

 そもそもの話をすると、日本はこの国の前政権を20年間にわたって7500億円超という莫大なお金を支援して支えつづけたのだった。日本国民一人当たり7000円。米国に次ぐ最大のスポンサーだった。

 日本が全面的にバックアップした政権が崩壊、というよりほぼ自壊したことで、無数の人々の運命を狂わせているのだ。去年の政変は、日本にとって他人事ではない。当事者の一員と言ってもいいのではないか。

 どのように「責任」をとったらいいのかを考えなくてはならないと思うのだが、みなさんはどうでしょうか。

 きょうはアフガニスタンの厳しい経済状態、人々の大変な暮らしの一端を紹介したい。

 カブールは渋滞がひどい車社会だが、ガソリンの急騰(2.5倍)が輸送関係の店や人を直撃している。穀物を扱う店で聞くと小麦は政変以降2.5倍にコメや食用油は2倍に値段が上がっているという。

 取材中の私たちに、小さな女の子2人がガムを買ってくれと近づいてきた。学校には行っていないという。なぜと尋ねると、お金がなくてカバンやノートが買えないから、お父さんが病気だから、と答える。

ガム売りの少女たち

 その話が本当かどうか分からないが、私たちの通訳は黙ってガム2個を買い、帰りかけた少女たちを呼び止め、買ったガムをそっと返していた。その一連の動作が実に自然で、この国の人には喜捨が身についているのだなと感心する。

車に近づいてきて煙を吹きかける少年。厄除けの意味があり、これでお金をくれという。ここでも通訳は喜捨していた。

 バザールを訪れた。これまで見たことのない広さと人の多さに心底驚く。

バザール。これはほんの一部で、私がこれまで見たことのない規模だった。

 私が行ったイスラム圏はイランやリビア、トルコ、ヨルダン、UAEなどごく限られているが、ここまでの規模のバザールが他国にあるのかどうか。世界一なのでは?

 通訳が、ここはアフガニスタン全土への卸売りセンターで、「無いものは無い」と言う。印象的だったのは愛玩用の小鳥を売っている一画。四方八方から鳥の鳴き声に包まれて歩くこと数十メートル。異次元のような空間だった。

 ここに過去にはない売り物が登場した。食べ残しのナン(パン)である。

バザールで食べ残しのナンを売る商人。7キロ袋で約300円。

 私が入ったレストランではほとんどのお客がナンをの切れ端を残していた。これは普通に見られることのようで、大量の食べ残しつまり残飯は捨てられるか、家畜の餌になっていた。

 ところが、今は生活苦のために食糧として購入する人が増えているのだという。社会の新たな需要はまずは「無いものは無い」バザールに現れるということだろう。

 ほんとうに貧しい人たちは、この食べ残しナンを買い、細かくしてお湯にいれふやかして飢えをしのぐそうだ。

 これから冬が来ると、食べることの他に、暖房の心配もしなくてはならない。

薪や石炭を売る会社。石油が高騰し、庶民は薪を求めるので売れ行きは良いという。向こうには冠雪した山々。


 国連機関は、アフガニスタンへの緊急支援を訴えている。

 「私と関係ない、遠い国の話」で済ませていいのか。