スウェーデン経済の強みに学ぶ2

 8日放送の番組「中島みゆき名曲集」の録画を観た。

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 同時代を生きたんだなと思わせるフレーズに聴き入った。

世の中はいつも変わっているから 
頑固者だけが悲しい思いをする

シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらないものを 流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため 

 「世情」という歌で、『 3年B組金八先生 』の挿入歌にもなった。
 世直しをめざしながら、それがかなわず挫折する人々の姿を思い浮かべると、涙腺がゆるむ。
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 前回、スウェーデンでは生産性の低い企業を守らずにどんどん淘汰すると書いていて、一昨年、自分の会社「ジン・ネット」が「淘汰」されたことを思い出した。

 会社がつぶれる事情はドキュメンタリー批評誌『f/22』に恥をさらして赤裸々に語ったので関心のある方はお読みください。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20210707

 会社はつぶれそうでつぶれない状況(経済学では「ゾンビ企業」と呼ぶ)が長く続き、月末ごとに金策に悩んだが、そのころの私は「政府は経営の行き詰った企業を守るべきだ」と主張していたものだ。
 政治の世界でも、企業が守られれば、そこにいる労働者を守ることになると、保守もリベラルも同じ政策を掲げていた。しかし考えてみると、これはセーフティネットが貧弱な日本だからの発想で、社会にイノベーションが起きにくくなる結果をまねくのではないか。

 「セーフティネット」というのは、サーカスから来た用語だという。

セーフティネットの語源はサーカスの綱渡りに由来する。綱の下に張られた安全ネットがないと、綱渡り芸人は思い切ったアクロバットができない。この安全ネットを「信頼と協力による安心」に、アクロバットを「市場競争」に置き換えれば、両者の補い合う関係もわかるであろう。(略)

 主流経済学者は、綱渡りの下に張られた安全ネットという規制に守られているために、つまり失敗のリスクをとる自己責任が欠如しているために綱渡り芸人は真面目に働いていないと主張する。彼らの主張にしたがって、アドホック規制緩和を進めてゆくと、少しづつ安全ネットに穴が開いてゆくことになる。(略)

 バブルが破綻した後も、セーフティネットの張り替えが進まないとどうなるのか。前述したように、主流経済学による「小さな政府」や規制緩和論では安全ネットという「信頼と協力の領域」をますます外そうとするだけなので、「市場経済の領域」も危うくなるという逆説が生ずる。この不況が長期化している原因もそこにある》(金子勝セーフティネットの政治経済学』1999年、P57~63)

 20年以上前に書かれた本だが、この指摘どおり、セーフティネットの穴を大きくしてきた日本はバブル崩壊後の傷をずっと引きずっていて、新たな産業や有望なプロジェクトを生み出せていない。安全ネットが頼りないと、怖くて、思い切った「アクロバット」ができないのだ。停滞が続き、日本全体の競争力が低下して閉塞感が強まっている。

 スウェーデン経済は日本とは逆に「ダイナミック」に成長を続けているを

 福祉国家といえば競争力がない、あるいは福祉国家は労働者が首を切られないように保護する、こうしたイメージをスウェーデンはあっさりとひっくり返す。

 リーマンショックからの脱却に成功したスウェーデンの元財務相(06~12)、アンダース・ボルグ氏は社会システムの特徴をこう語る。

「(スウェーデンには)非常にダイナミックな労働市場があります。雇用と解雇のコストが低く、福祉制度の充実が相まって人々は積極的に転職し、起業家精神にあふれた企業に入ることができます。」

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ボルグ元財務相

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スウェーデンリーマンショックのときの落ち込みはひどかった。しかし、その前も後も、日本より1~3%つねに高い成長率を維持してきた(諸富徹『資本主義の新しい形』P166)

 数年前、私の会社(ジン・ネット)がスウェーデン経済の特集を制作したとき、取材したディレクターによれば、解雇された労働者が「まったく不安を感じていない」と言っていたそうだ。失業手当がしっかりしているうえ、政府がより高度な就労機会を得るための訓練を提供してくれるからだ。

 この社会システムと経済政策が優れているのは、これまでの実績で証明される。

 まず、世界屈指の生産性と賃上げ率である。

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賃上げ率の比較(NHKより)

 すでに2018年時点で、一人当たりGDPは、日本の3万8481ドルに対してスウェーデンは4万5740ドルとはるかに上回っていたが、今ではその差はもっと開いているだろう。

 しかもスウェーデンは、経済成長を気候変動対策と両立させているのだ。

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赤が日本、青がスウェーデン。実線がGDPで、点線がCO2排出量。CO2削減が進まず、生産性も上がらない日本に比べてスウェーデンは逆・・(NHK

 日本では、今なおCO2削減をやると景気が悪くなる、みたいな古い議論を政治家までやっているが、スウェーデンの実績をみればグーの音も出ないだろう。
 スウェーデンの気候変動対策は刮目すべきもので、あらためて後日論じたいが、ここではスウェーデンの良好な経済パフォーマンスの秘密とされる経済・産業政策を見ていく。

 スウェーデンには、「レーン=メイドナー・モデル」と呼ばれる独特の仕組みがある。内容は3つ―

1)    産業界と労働組合の交渉で中央決定される連帯賃金(同一労働・同一賃金)
2)    企業・産業の再編で失業する労働者に対する手厚い失業給付
3)    労働者が企業間・産業間で円滑に移動するのを支援する積極的労働市場政策

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すべての企業で同じ賃金(連帯賃金)を支払わなければならないので、左側の赤字企業は倒産または合理化せざるをえず、そこを去った労働者は右の方の黒字企業に移っていく(NHK

 「同一労働・同一賃金」は日本では正規と非正規の賃金格差を解消するための原理として理解されているが、スウェーデンではこの原理は、鉄鋼産業であろうとセメント産業であろうと産業部門の違いを超えて同じ1時間の労働に対しては同一賃金が払われるべきことを意味する。「連帯賃金」と呼ばれる所以である。

 これがどう機能するか。もうかっているA社で働くSさんも、ゾンビ企業のB社で働くTさんも中央の交渉で決まった同じ賃金を受け取る。
 翌年10%の賃金アップとなったとする。A社にとっては楽な賃上げだが、B社は耐えられずに倒産する。すると政府は失業したSさんに対し、2と3に従って生活を保障するとともに、A社のように黒字を出している企業あるいは将来性のある産業に移れるよう、職業教育を含めた支援をするのだ。

 この仕組みは、企業、産業間の淘汰をつよく後押しする。ゾンビ企業あるいは、時代遅れの産業は早く退場せよという政策なのだ。

 結果、利益が上がる企業、有望な産業だけが生き残り、スウェーデンの経済競争力は常に非常に高く保たれ、順調な賃上げも続いていくというわけだ。

 スウェーデンは「企業」を守るのではなく「人」を守っているのである。

(つづく)