河野義行さんはなぜ憎まないのか2

 今朝の朝刊を見て、ああ、と思わず声が出た。

f:id:takase22:20190811003258j:plain

 一面に大きく「森友問題 捜査終結」とある。無力感に襲われる。こうなったら、佐川氏を再び証人喚問してほしい。昨年3月の国会の証人喚問で「刑事訴追の恐れがある」ことを理由に証言を拒否したが、刑事訴追の恐れがなくなったいま、事実を語ることができるはずだ。この問題をこのまま終わらせるわけにはいかない。
・・・・・・・・・・
 きょう未明、またまた北朝鮮が「飛翔体」を発射した。
 弾道ミサイルなら短距離だろうが国連安保理決議違反なのだが、トランプ大統領は容認するばかりか、「もっとやれ」というシグナルを北朝鮮に送っているかのように見える。

    北朝鮮は米韓演習への「抗議のために」やっているのではなく、このタイミングを「利用して」ミサイル実験をやって性能を上げているのである。トランプ大統領が演習中ならOKと言っているからだ。

 《発射の約6時間前、トランプ氏は北朝鮮金正恩キム・ジョンウン)委員長から8日に手紙を受け取り、同氏が米韓演習に不満を示したと明かした。「私も好きではない。演習にカネを使いたくない」と同調した。
 トランプ氏は10日、ツイッターへの投稿でも金正恩氏の手紙の内容を説明し「米韓合同軍事演習が終われば、すぐに会って交渉を始めたいと言っている」「演習が終われば短距離ミサイルの試射もやめる、と少し謝っていた」と明かした。「それほど遠くない未来に金正恩氏と会うのを私も楽しみにしている」と首脳会談開催に改めて意欲を示した。
 今回の演習は20日ごろまでを予定している。米国防総省は抑止力維持に演習は欠かせないとみているが、トランプ氏にとっては米軍の負担軽減が優先事項だ。米政府関係者は「トランプ氏の発言が北朝鮮の行動を助長させている」と危惧する。》(日経10日)
 金正恩と同じく自分も米韓演習はいやだと公言したトランプ大統領。こんな指導者に日本が尻尾を振っていたらとんでもないことになる。
・・・・・・・・・・・・
 松本サリン事件の被害者、河野義行さんの話のつづき。
 河野さんは被害者なのに、ほとんどのメディアに犯人と報じられた。私は事件後、河野さんが信頼するジャーナリストと一緒に自宅を訪れたことがあり、河野さんの人格に感銘を受けた。ずいぶん前の日記にこんなことを書いている。
 「尋常でない苦痛の日々を耐えてきた人のなかに、驚くような人格が形成される場合がある。大震災被災地のリーダー、拉致被害者家族などにもそういう人がいる。河野さんの突き抜けた洞察力には教えられることが多い。」
https://takase.hatenablog.jp/entry/20120621
 さて、河野さんが自分にふりかかった理不尽に対し、怒ったり、憎んだりしなかったのはなぜか。理不尽に遭遇しても怒らないためには「許す」ことが必要だ。河野さんは、オウムの信者が、意識不明で病床にあった妻の見舞いに来るのを受け入れ、誤報を打った記者たちを許した。特定の宗教を信じていないという河野さんは、どうしてこういうことができたのか。

 記者の「家族に危害を加えたかもしれない人を人は許せるものでしょうか」という質問に河野さんはこう答えている。
 「病床の妻と子と自分の人生をどうやって少しでも充実させるか、私にとってはそれが大事な課題でした。事件前の元気だった家族に戻りたい、と願うことはできます。でも、どれだけ誰かを恨んでも憎んでも過去は変えられません。ならば人生の時計をちゃんと動かして前に歩いていった方がいい、と私は思いました」
 「恨んだり憎んだりするという行為は現実には、夜も眠れなくなるほどの途方もない精神的エネルギーを要するものです。しかも何もいいことがない。不幸のうえに不幸を自分で重ねていく行為なのです。そんなことをあえて自分から選ぶ必要はないでしょう。ある意味、これは損得の問題です」

 「損得の問題」という一見とても普通の表現に河野さんの深い「智慧」を感じる。
 よくよく考えてみれば、怒ったり恨んだりするのは、自分にとっても、自分の周りの人たち(例えば家族や同僚)にとっても圧倒的に「損」なのだ。

    妻が倒れ、子どもをかかえて世間に排除され「社会的に死んだ」(河野さんの表現)河野さんが辿りついた哲学。ここでいう損得はお金のことではない。真の損得を追及していくのは、一つの人生戦略として非常に有効だと思う。これについてはあらためてまとめて書いてみたい

・・・・・・・・・・・

f:id:takase22:20190807164043j:plain

 ジン・ネットのオフィスのある神田小川町の交差点に恒例の風鈴が登場。猛暑のなか通りかかった人たちにちょっとした癒しになっている。
 危険な暑さが続くようですが、みなさま水分補給を忘れずに!