米朝首脳会談では、トランプが金正恩を「いいやつだ」と褒めまくり、「非核化するようがんばります」というただの努力目標のような宣言をしたうえで、それがあたかもすごい成果のように演出する・・・こうなるんじゃないかなと思っていた通りの展開だった。トランプのドヤ顔ばかりが印象に残った。政治ショーの演出にしか関心がないようだ。
トランプは会談後の会見で、金正恩を「才能がある。(権力掌握時)26歳で、タフに運営してきた人物はほとんどいない。1万人に1人だろう」とまで褒め上げた。金正恩がどれほど酷く国内の人民を虐げてきたかをまったく気にしていない。
トランプは会談で拉致問題も提起したなどと言っているが、たぶん「拉致もよろしく」と挨拶程度だろう。安倍首相はいつもトランプを持ち上げるが、トランプという人は支持者の人気取りと短期的な利害、名声を目指して感情的に動く人なので、すぐに掌を返すだろう。
《非核化を巡る交渉の長期化が予想される中、トランプ氏が難題を先送りし、朝鮮戦争の終戦宣言合意のように「歴史的偉業」として目に見える成果を優先させる可能性が高まる。(略)会談結果は、圧力一辺倒だった日本の対北朝鮮政策を左右する。拉致問題への取り組みも含め、日本の外交は正念場を迎える》(東京新聞12日夕刊、城内記者)この辺が妥当な評価ではないか。
今回の首脳会談で、「おや」と思ったのは北朝鮮のメディアの報じ方だった。
正恩氏ら一行は11日夜、宿泊先のセントレジスホテルを出て、シンガポールの外相の案内で2時間、屋上にプールがあることで有名な「マリーナ・ベイ・サンズ」や、植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」などを訪問した。この様子を労働新聞は12日朝、写真14枚つきの1面トップで伝えた。
《ウェブサイトに掲載されたのは7時過ぎ。過去に北朝鮮が深夜に行ったミサイル発射を労働新聞が報じるのは24時間以上後だったことを考えると、これまでにない速報ぶりだ。
記事の内容も異例だ。正恩氏は今回の観光スポット訪問で「シンガポールの社会・経済的発展について学んだ」といい、(略)正恩氏の発言を「マリーナ・ベイ・サンズの展望台から市内の夜景を楽しみながら、これまで聞いていたように、シンガポールが清潔で美しく、すべての建物がスタイリッシュだと述べた。さらに、今後様々な分野で、シンガポールの立派な知識や経験から多くを学びたい、と述べた」などと伝えた。正恩氏は「今回の視察を通じて、シンガポールの経済的潜在性と発展についてよく知ることができた。シンガポールについて良い印象を持つようになった」とも述べたという。北朝鮮メディアが資本主義国の経済について肯定的に伝えるのもきわめて珍しい。》
たしかに、華やかなシンガポールの夜景と停電の多い北朝鮮の都市では大きな差がある。北朝鮮が国民に、資本主義社会の優位を見せることは過去にはなかった。これは全体主義体制の維持にとってどんな意味を持つのか。
共産圏の崩壊は、ソ連共産党の中枢にゴルバチョフという全く異質なリーダーが出現して自ら共産党を破壊してしまったのがきっかけになった。金正恩が北朝鮮版ゴルバチョフになるとはにわかに信じられないが、今後の北朝鮮の体制の変化を注視したい。