人類はみんなアフリカ人だ

 「最強寒波」というのが来ているそうだ。ベランダのメダカの鉢にも氷が張った。窓の側に置いてあって、これまで氷が張ったことはないのだが。雪の被害が各地で出ている。山形の実家の雪下ろしを頼まないといけないな。
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 この人物が本当にアメリカの大統領なの?と聞きたくなるような暴言をまたトランプがやらかした。移民政策をめぐる超党派上院議員らとの会合の場で、アフリカ諸国やハイチ、エルサルバドルからアメリカに来た在留者を指してこう言ったというのだ。
  “Why are we having all these people from shithole countries come here?”
 「そんな『クソツボ』のような国々の連中を、なぜ受け入れるのだ?」
 「汚い便所」「野外便所」と翻訳してある記事もあるが、むしろ「クソツボ」「クソダメ」が適当な訳だろう。災害や紛争などでアメリカに逃れてきた人々に、一時的に在留資格を与える制度「一時保護資格」(TPS)があり、それをめぐってのやり取りで出た発言だという。アフリカ諸国が激しく反発するのも当然だ。
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 トランプには「私たちはみんなアフリカ人である」という言葉を贈りたい。
 
 人類史をDNDの分析によって解き明かしてきた分子人類学者の篠田謙一さん(国立科学博物館副館長)の説くところはとてもおもしろい。
 180万年前、アフリカには我々の先祖にあたる「原人」がいた。それが二つのグループに分かれる。一つは、アフリカを出て拡散し各地に適応していったグループ。この一部が進化して、ヨーロッパや中東に暮らすネアンデルタール人中央アジアのデニソワ人になった。もう一つは、アフリカに残ったグループ。こちらが我々現生人類「ホモ・サピエンス」につながる祖先である。アフリカは、現生人類への進化のゆりかごとも言える。

 ホモ・サピエンスとはっきり分かる一番古い化石は16万年前のもので、エチオピアで発見された。そして6万年前にその一部が「出アフリカ」を果たす。その「グレートジャーニー」は、2万年前ベーリング海峡(当時は陸橋)を越え、1万5千年前に南アメリカ南端に到達した。ものすごいスピードで広がり、その過程で肌の色や体型なども多様になっていった。しかし、
 「ここで大切なのは、私たちは長い時間をアフリカで過ごし、その間に遺伝子の突然変異を蓄積したということです。出アフリカ当時、少なくとも40系統におよぶミトコンドリアDNAの多様性がすでにありました。実はこの時、アフリカを出て行った最初のホモ・サピエンスは、40系統のうちたった2つの系統だけだと言われています。実際、現在のアジア人やヨーロッパ人のDNAを分析すると、遺伝的な多様性は大きくありません。これは相当に狭い地域から5千人から2万人程度の規模の集団がアフリカを出て行ったからだと推測されます。そのため、人類の遺伝的な多様性のうち85%までは出アフリカを経験しなかったアフリカ系の人たちが持っているのです」
 「私たちはどうしても肌の色などに囚われてアフリカを一つのカテゴリに括りがちですが、それこそアフリカの人はひょろっと背の高い人からものすごく筋肉質の人、平均身長が世界で一番低いような人まで非常に多様性がある。皮膚の色など見た目に通じる遺伝子は全体のごく一部でしかないんです」(篠田さん、引用は『ビッグイシュー』350号より)
 またアフリカ大陸には、砂漠、サバンナ、湿地帯、高山地帯など多様な環境があり、そこで長い時間をかけて進化し、適応力を準備したからこそ、祖先の一部がサハラ砂漠を越えて世界中に拡散できた。
 その意味で「私たちはみんなアフリカ人である」ことを忘れてはならない。
 篠田さんが説く人類史の壮大な物語を聞くと、人類同士のいさかいがばかばかしくなる。
(つづく)