沈黙を破りたいと加害者に対峙したアディ

takase222015-06-05

3日夕方、早稲田大学小野講堂で、ドキュメンタリー映画『ルック・オブ・サイレンス』の試写会があった。
http://www.los-movie.com/

先月すでに観たのだが、きょうは試写会のあと、来日しているジョシュア・オッペンハイマー監督が登壇するのだ。友人が関係者を知っているので、報道関係者の席を一つ取ってもらった。
この映画は少しでも多くの人に観てほしいと思い、付き合いのあるTBSのプロデューサーに、監督のインタビューを手配できるので取材しませんかと持ちかけた。彼は前作『アクト・オブ・キリング』を観ており、インタビューを即断。会場に松原耕二キャスターが来た。
7日(日)よる9時からの「週刊報道LIFE」(BS−TBS)で放送される予定だ。
この番組、愚直に社会問題を取り上げ、気骨を見せている。あさってのメインの特集は、「安保法制を問う」第二弾「アフガン、イラク戦争 現場からの教訓とは」だ。
http://www.bs-tbs.co.jp/syukanhoudou/life/

前作の『アクト・オブ・キリング』は、私がこれまでに観たドキュメンタリー番組の中で、もっとも衝撃的な作品だった。
1965年に、スハルトが軍事クーデターを起こし、スカルノ大統領から権力を奪った。この過程で、スカルノの最大の支持基盤だった共産党が弾圧され、50万とも300万ともいわれる膨大な数の人々が虐殺された。9月30日事件である。
スカルノ大統領の第三夫人、デヴィ夫人(Dewi Sukarno)がインドネシアを脱出しフランスに亡命することになった事件でもある。

9月30日事件で、家族を失ったアディ・ルクンという主人公が、兄を虐殺した側の人たち5人を次々に訪ねていき、対峙する。
そのアディ氏が、サプライズ・ゲストとして、オッペンハイマー監督とともに会場に現れた。実は、事前に彼が来日することを発表すると出国を妨害される恐れがあり、伏せたままで招聘したと聞く。
インドネシアでは、事件のあと、検事総長が、これについては殺人の罪に問わない」とした。スハルトが追放された後も、軍、警察、地方行政機関などの権力構造は変わらず、9月30日の虐殺者は英雄視されつづけている。軍がそそのかして虐殺を行わせたのは、村の青年団などで、今も同じ村のなかに兄を殺した人々が住んでいる。社会全体で、事件の真相を調べることはタブーとなっていた。

アディさんはこう言う。
兄を虐殺した加害者たちに会い、映画に出るのは、怖かった。しかし、ずっと口を閉ざし続けるのを終わりにしたかった、沈黙を破りたかった。対峙して、無理難題を突き付けるのではなく、話し合いたかった、向こうが謝れば許すつもりでいた。そして事件のことはおしまいにして、みな隣人として暮らせるようになりたかった。と。
彼の苦労は報われた。
前作『アクト…』は、インドネシアで4000回以上、上映され、無料でダウンロードできるようになっている。これまでの「沈黙」を映画が破り、とくに若者が発言し出した。このことに非常に勇気づけられているとアディさんは言う。
(つづく)