ロシア軍の実態が説得力を失わせる「即時停戦」論

孔明のように安倍氏が動かして (徳島県 井村晃)

 20日の朝日川柳より。
 「死せる孔明、生ける仲達を走らす」。岸田文雄総理のやる事なす事、安倍元総理の背後霊がついているのではないかと思わせる。

 杉田水脈衆院議員総務省政務官への起用には、多くの人があきれている。

 彼女の非常識な言動は多々指摘されているとおりだが、かつて私が驚いたのが、「安倍首相ヨイショ記者」山口敬之氏が伊藤詩織さんをレイプした事件への言及だった。

またウソばっかり・・・TBSニュースより

 数人の女性が事件を論評するネット動画のなかで、詩織さんを「枕営業大失敗」と嘲笑、杉田水脈氏が「女性に落ち度がある、詩織さんは嘘を言っている」とコメントした。こういう人物を、言葉の真の意味で「恥知らず」という。

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 「枕営業」というのは、伊藤詩織さんが、TBSワシントン支局長だった山口氏に仕事をもらいたいとの思惑で自分から近づいていったということで、詩織さんを侮辱する許せない暴言だ。

 杉田氏は一昨年、自民党の性暴力対策の予算などを議論した会議で「女性はいくらでもウソをつけますから」と発言して物議をかもしたが、こういう言動は、右とか左とか政治的な立場の問題ではなく、人格の低俗さを露呈するものだ。

 安倍元総理のお気に入りということだけで議員になれたこういう人物を取り立てるとは、岸田政権は亡き安倍氏の傀儡政権と言われても文句は言えまい。
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 ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「和平派」と「正義派」の論争があった。

 3月と5月にロシアとウクライナ双方に即時停戦を呼びかける声明を出した「憂慮する日本の歴史家の会」(代表・和田春樹東京大名誉教授)は、「和平派」の動きだったが、侵略した側とされた側を同列に扱うのはおかしい、などと批判された

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 私もこれを批判した一人だが、その会に参加した富田武・成蹊大学名誉教授が、軌道修正ともいえる論説毎日新聞(12日朝刊)に出した。

 ロシアの一方的で残忍な侵略の実態が明らかになるにつれ、即時停戦論は説得力を失ってきたように見える。
 
《ブチャなど各地でロシア軍による虐殺が明るみに出た。(略)ドンバス地方で、マリウポリをはじめ破壊の限りを尽くした。

 この段階で、会の内部に「即時停戦一本やりではロシアを利する」「戦争の行く末を見すえた公正な講和」を提示すべきだという意見が出た。ベトナム反戦運動の先例が想起された。

 「ベトナムに平和を!」は、侵略国アメリカに北爆(北ベトナムへの爆撃)中止や米軍の撤退を要求し、日本政府には戦争協力=「侵略加担」をやめよと訴えるスローガンだった。米本土を含む全世界の反戦運動は米軍と戦うベトナム人民と連帯し、パリ和平交渉も支持しつつ、ついに米軍をベトナムから撤退させた。》

 ここはベトナムウクライナを並べて侵略された側の抵抗を支援すべしとする私の考えと重なる。さらに富田氏はこう続ける。

 《私たちは、国際的な反戦世論でウクライナの抵抗を支援して交渉のテーブルを設け、早急な停戦と公正な(両成敗ではない)講和を目指す。「年内に戦争を終わらせたい」とするウクライナのゼレンスキー大統領を支持》する。

 はっきりと「とにかく停戦を」という即時停戦論から転換している。

 

 同じ紙面に、東野篤子・筑波大教授の「ウクライナだけに決定権」と題する論考が載っている。

 説得力ある(もっというと常識的で分かりやすい)議論なので紹介したい。

毎日新聞17日朝刊

 まず東野氏は冒頭《即時停戦論は現実から乖離している》とズバリ指摘する。

《日本には、ロシアに停戦を呼びかければ、戦闘がきっちりやんで平和が訪れると信じる人もいるが、これまでロシアに攻撃されてきた国や地域は、むしろ停戦・休戦後、悲惨な事態に直面している。》

 チェチェンの悲劇がその代表だが、かつての共産圏の国々が懸命にウクライナの抵抗戦争を後押しするのは、その恐怖をよく知っているからだ。

《ロシアに(領土などの)「お土産」を渡さないと戦争は終わらないとする論者もいる。なぜ「お土産」でロシアが満足すると言い切れるのか。1938年のミュンヘン会談で、英仏などはナチス・ドイツチェコスロバキア領の一部割譲を許した。これでドイツは増長し、第二次大戦を招いた。

 おお、東野氏はロシアを1938年のナチスと同列に論じている。

 今のロシアはそのくらい悪質な侵略者だと見ているわけだが、今の世界ではこの見方は受け入れられるだろう。

《いずれにせよ、戦争を継続するか否かを決定できるのはウクライナだけだ。他国に「戦争をやめろ」という権利はない。その後に起こりうる殺りくや破壊も受け入れろと言うのと同義だからだ。こう主張するだけで、「徹底抗戦させる気か」と非難する人もいるが、その人たちは停戦を強制された後の事態に責任が取れるのか。

 東野氏、かなりのファイティングポーズで論じているが、ロシア軍占領下の地域で起きている残酷な事件の数々を見れば、戦闘停止が住民の安寧を保障しないことは明らかだ。

 日本でロシアを信用しすぎたり融和的な意見が出たりする背景には「根強い反米意識」があると東野氏は指摘する。

《米国への反感のあまり、極端に言えばウクライナが米国に操られていると思い込み、結果としてロシアの肩を持つ。

 この思考は、ウクライナの主体性を軽視していないか。(略)小国の行動原理の根底には、恐怖と安全の希求がある。ロシアから見ればNATOの東方拡大は約束破りだろうが、欧州の小国はそのロシアを恐れるからこそ、米国との軍事同盟であるNATO加入を求めた。》

 《日本外交は「中小国が大国に脅かされない秩序を守るには、武力による現状変更を黙認してはならない」と、愚直に説き続けるべきだ。》との東野氏の結論に賛成する。

 自分に都合のよいイメージで論じるのではなく、ウクライナの現実にもとづいた議論を深めていきたい。