北朝鮮の収容所で生まれたシンさん

takase222014-01-28

きょう、シン・ドンヒョク(申東赫)さんを迎えての集会が参議院議員会館で開かれた。
はじめに、有田芳生さんがあいさつで、私も一緒にやった「意見広告7人の会」(http://jinken.asia/)の活動に触れた。
北朝鮮による拉致問題を海外に訴えようと、ネットで募金を呼びかけ、2002年と2009年に「ニューヨークタイムズ」などに意見広告を出した。そのとき、私たちは、日本人の拉致と政治犯収容所に象徴される北朝鮮民衆の人権侵害は一つのものだと強く訴えた。
例えば、韓国三大紙(朝鮮日報東亜日報中央日報)に出した意見広告には以下のような文章がある。

《私たちは過酷な政治体制のもとで苦しむ北朝鮮の人々を助けたいと思っています。拉致と北朝鮮の民衆の奴隷化は、人権の否定という同じ根を持つ悲劇だからです。
90年代後半、人口2000万の北朝鮮で300万人が餓死したと推定されています。その一方で、北朝鮮の指導者はこの時期、核兵器とミサイルの開発に巨額の資金を投入していたのです。破産国家の北朝鮮で、これを可能にしたのは、民衆が声を上げることを許されない政治体制があるからです。衛星写真で確認された6か所の政治犯収容所には、20万人もの人々が、人間としての最低の扱いを受けることなく、いまなお死に直面しています。
民衆への自由の否定が戦争への危険を生んでいるのであれば、日増しに強まる北朝鮮の平和への脅威を根本から取り除くには、基本的人権の拡大こそが必要です。
私たちは民主主義、基本的人権北朝鮮に行き渡らせることが、拉致被害者を救出するだけでなく、北朝鮮民衆の幸福と東アジアおよび世界への安全をもたらすと信じます。さらに、平和的で円滑な朝鮮半島の統一は、北朝鮮民主化されてはじめて可能なのではないでしょうか。》

このとき訴えた、北朝鮮国内の人権侵害、日本人など外国人の拉致、核・ミサイル開発などが北朝鮮の体制という同じ根っこから派生しているという認識は確実に広がっている。

そのシンさんは、きのう、横田夫妻と一緒に会見した。
北朝鮮の人権弾圧のもっとも酷い被害者と日本人拉致被害者の親が会って、連帯を誓うという図。私にとっては、とても感慨深い会見だった。
北朝鮮政治犯強制収容所から脱出した体験を証言するシン・ドンヒョクさん(31)=韓国在住=が来日し、東京・有楽町の日本外国特派員協会で27日、北朝鮮による拉致被害者横田めぐみさんの両親と対面した。
 シン・ドンヒョクさんについては以前、この日記に書いた事がある。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20081216
 シンさんは「娘さんを拉致されたご両親の精神的苦痛も、収容所で私が受けた苦痛も、同じ独裁体制によるもの。横田さんと同じ立場に立って、国連の場で訴えたい」と話した。
 国連の北朝鮮人権調査委員会は昨年8月、東京やソウルで公聴会を開き、横田夫妻やシンさんらの証言を聞いた。最終報告書がジュネーブの国連人権理事会に提出される今年3月にも、シンさんは北朝鮮の人権問題について証言する予定。
 めぐみさんの父、滋さん(81)は「(報告書を受けた)国連での強い決議が、これからの世界を動かすと思う」と期待。母、早紀江さん(77)も「人間としての自由を奪われたのはシンさんも私たちの娘も同じ。力を合わせて国際的に訴えていきたい」と語った。
 韓国統一研究院によると、北朝鮮には5カ所の政治犯収容所があるとされ、推定8万〜12万人が収容されている。シンさんは平安南道の「14号管理所」で生まれ、2005年に脱出。強制労働や飢え、拷問、家族の公開処刑といった過酷な半生を描いたドキュメンタリー映画北朝鮮強制収容所に生まれて」が3月に東京、名古屋、大阪で公開されるのを前に来日した。》(朝日新聞

シンさんは、収容所の中で生まれた稀有な人で、その体験は想像するのも困難なほどだ。なにせ、人生で最も早い記憶は何かとの質問への答えが、「公開処刑があって、その銃声がすごく大きな音だったことを憶えている」というのだからすさまじい。たぶん4歳くらいのころだという。
6歳から重労働、11歳で母親から離され寮へ。普通の家庭というものはない。とくに父親とは一緒に住んだ事がなく、特別な愛情や親しみは感じないという。拷問と重労働の痕跡がいまも体中に残る。
新しく収容所に入ってきた男から、外の世界の食べ物を知らないなんてかわいそうだと言われ、トウモロコシ飯以外のうまいものが食えるなら死んでもいいと、23歳のとき、命がけで脱走した。一緒に逃げたその男は脱走に失敗して死んだ。
生まれてこの方、収容所の中しか知らないシンさんが、最も衝撃を受けたのは、中国に出たときでも韓国に来たときでもなく、北朝鮮の社会、つまり「外」の世界を見たときだった。
人々が笑ったり、子どもが大きな声をだしてはしゃいだり、警察官がいても挨拶しないでいたりすることが信じられなかったという。
彼の壮絶な半生を描いた映画『北朝鮮強制収容所に生まれて』が3月1日から上映される。ナチス強制収容所より酷いとされる収容所の実態をぜひ知ってください。
http://www.u-picc.com/umarete/