神社で止まる津波5-東電が貞観津波を試算

東電は、最大で5.7メートルの津波しか来ないと想定し、今回の13メートルの高さの津波を「想定外」としてきたが、実はちゃんと5.7メートルよりはるかに大きな津波が来る試算をしていた。25日の朝刊が一斉に書いた。
東京電力東日本大震災前に、福島第一原発が想定を超える津波に見舞われる恐れがあると、経済産業省原子力安全・保安院に説明していたことがわかった。保安院の森山善範・原子力災害対策監が24日の会見で明らかにした。震災4日前には10メートルを超える可能性も文書で伝えていたが、対策には生かされなかった。東電の経営陣も把握していた。
 保安院や東電によると、2002年の政府の地震調査研究推進本部の評価に基づき、大地震三陸沖から房総沖にかけてのどこかで発生する想定で、東電がマグニチュード(M)8.3級の地震で福島第一、第二原発に来る津波の高さを08年春に試算した。
 その結果、福島第一5、6号機の海側で10.2メートルで、1〜4号機も8.4〜9.3メートルとなり、いずれも最大5.7メートルの設計での想定を上回った。場所によって15.7メートルまで津波が駆け上がると見積もられた。
 福島第一原発では海面からの高さ4メートルの所に冷却に必要な海水ポンプ、高さ10メートルの所に原子炉建屋などがある。今回の震災の津波の高さは海岸付近で13メートルで、建屋付近では11.5〜15.5メートルに達した》(朝日新聞

この記事では「マグニチュード(M)8.3級の地震」と書いているが、これは貞観地震のこと。産経新聞では貞観地震と明記してある。しかも試算は2度にわたって報告されていたという。

保安院によると、報告は政府の地震調査研究推進本部の見解や869(貞観11)年の貞観地震を想定した断層モデルで、津波の高さを解析した結果という。報告は平成19年の新潟県中越沖地震を受けて、国が電力各社に対し、耐震安全性評価の再評価を指示しており、その報告の一環として1枚紙の資料が提出されたという。その際、対応した保安院の担当者が「設備面での対応が必要ではないか」と口頭で指導した。
また、これとは別に東電は平成21年にも学術論文の見解をもとに、最大9・2メートル以上の津波が福島第1原発に到達する可能性があると試算、口頭で保安院に報告していたという。このときは、保安院から東電への指導は行わなかったという》

この会見、報道特集の放送が影響していたりして・・・。
番組では東電の「想定外」をこう取り上げた。以下、番組のナレーション;
東京電力は、今回の津波は「想定外」だったとしている。しかし、大津波に備えよという警告はすでに発せられていた。
2009年、経済産業省で開かれた、福島第一原発地震評価を審査する場で、委員のひとりが貞観津波を取り上げ、こう指摘したのだ。
「西暦869年でしたか、少なくとも津波に関しては…非常にでかいものが来ている」
「それに全く触れられていないところはどうしてなのかということをお聴きしたいんです」》

これは『総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 議事録』に載っている発言で、発言した委員は、貞観津波の研究では定評のある、産業技術総合研究所活断層地震研究センター長 岡村行信氏だった。
2006年、原発の耐震指針が改訂され、それに沿って、各電力会社は耐震評価をし直す作業に入った。東京電力が09年、福島第一原発で起こりうる最大地震と耐震対策の中間評価を国に提出したさいにこの岡村発言が出たのだ。
私たちは、東電に貞観津波をどう評価しているのかと電話で聞いた。答えたのは広報で、電話の声をそのまま放送することを拒否してきたので、番組では内容を伝えた。

東京電力は、電話での取材で、同じ年(09年)に福島沿岸で、貞観津波の調査を行なったことを明かし、「大きな津波が発生したという積極的な証拠は得られなかった」と述べた》

きのうのニュースによれば、08年にも09年にも貞観地震による津波を試算していたというのだ。私たちに対して、東電広報は、調査の結果、大きな津波が発生した「積極的な証拠は得られなかった」と答えたのだが、これは嘘だったのか。
先の岡村発言は興味深いので、09年6月4日の「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会 地震津波、地質・地盤合同WG(第32回)議事録」
からそのまま引用しよう。
東電が、「福島地点での検討用地震」として「プレート間地震としては塩屋崎沖地震の7.5、7.3の2つ、それから、内陸地殻内地震としては双葉断層による地震、海洋プレート内地震としては、敷地下方に7.1の地震を想定する」(P10)としたことを岡村氏が批判した。
《○岡村委員 まず、プレート間地震ですけれども、1930年代の塩屋崎沖地震を考慮されているんですが、御存じだと思いますが、ここは貞観津波というか貞観地震というものがあって、西暦869年でしたか、少なくとも津波に関しては、塩屋崎沖地震とは全く比べ物にならない非常にでかいものが来ているということはもうわかっていて、その調査結果も出ていると思うんですが、
それに全く触れられていないところはどうしてなのかということをお聴きしたいんです。
東京電力(西村) 貞観地震について、まず地震動の観点から申しますと、まず、被害がそれほど見当たらないということが1点あると思います。あと、規模としては、今回、同時活動を考慮した場合の塩屋崎沖地震マグニチュード7.9相当ということになるわけですけれども、地震動評価上は、こういったことで検討するということで問題ないかと考えてございます。
○岡村委員 被害がないというのは、どういう根拠に基づいているのでしょうか。少なくともその記述が、信頼できる記述というのは日本三大実録だけだと思うんですよ。それには城が壊れたという記述があるんですよね。だから、そんなに被害が少なかったという判断をする材料はないのではないかと思うんですが。
東京電力(西村) 済みません、ちょっと言葉が断定的過ぎたかもしれません。御案内のように、歴史地震ということもありますので、今後こういったことがどうであるかということについては、研究的には課題としてとらえるべきだと思っていますが、耐震設計上考慮する地震ということで、福島地点の地震動を考える際には、塩屋崎沖地震で代表できると考えたということでございます。
○岡村委員 どうしてそうなるのかはよくわからないんですけれども、少なくとも津波堆積物は常磐海岸にも来ているんですよね。かなり入っているというのは、もう既に産総研の調査でも、それから、今日は来ておられませんけれども、東北大の調査でもわかっている。ですから、震源域としては、仙台の方だけではなくて、南までかなり来ているということを想定する必要はあるだろう、そういう情報はあると思うんですよね。そのことについて全く触れられていないのは、どうも私は納得できないんです
》(P16〜17)
このあと、岡村氏は再び発言する。
《○岡村委員 先ほどの繰り返しになりますけれども、海溝型地震で、塩屋崎のマグニチュード7.36程度で、これで妥当だと判断すると断言してしまうのは、やはりまだ早いのではないか。少なくとも貞観の佐竹さんのモデルはマグニチュード8.5前後だったと思うんですね。想定波源域は少し海側というか遠かったかもしれませんが、やはりそれを無視することはできないだろうと。そのことに関して何か記述は必要だろうと思います》(P29)
http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/107/3/032/gijiroku32.pdf
(つづく)