東電旧経営陣への無罪判決によせて1

f:id:takase22:20190919094132j:plain

 近所の栗の実が大きくなって、雲も秋らしくなってきた。スーパーで栗が安く出ていたので手が伸びた。茹でてみよう。
 きょうはお彼岸。秋分だ。夜が長くなり、本格的な秋へと向かう。 
 23日から初候「雷乃収声」(かみなり、すなわちこえをおさむ)。雷雲(積乱雲)から秋の雲に変っていく。次候は「蟄虫坏戸」(むし、かくれてとをふさぐ)が28日から。虫たちが巣籠もりの準備にはいる。末候の「水始涸」(みず、はじめてかるる)が10月3日から。これは、田んぼから水が抜かれることだという。柿やキノコが楽しみになる。
・・・・・・・・・・・・
 政府はようやく、台風15号がもたらした被害を激甚災害と指定するという。遅すぎる。非常に強い台風で、鉄道各社が計画運休するほど要警戒だったにもかかわらず、千葉県が大変なことになっている最中、組閣に夢中になって首相は現地を訪れることもしていない。復旧の遅れへの怒りが東電社員に向けられているというが、責任は行政にある。安倍首相は、小泉進次郎環境相につづき、今日からアメリカに外遊だ。
 一方、22日午後10時現在、千葉県内ではなおも、八市町の計約2300戸で停電が続いているという。台風17号の接近にブルーシートを張り直したり現地では不安が募っているようだ。大きな被害になりませんように。
・・・・・・・・・・・・
 東電福島第一原発の事故を巡り、業務上過失致死傷罪に問われた勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の旧経営陣3人に対し、19日、東京地裁が無罪を言い渡した。
 検察は3人を不起訴にしたが、市民で構成する検察審査会の議決で強制起訴された。安全対策を怠り、東日本大震災津波による原発事故を発生させた結果、避難を強いられた入院患者を死亡させるなどした、という内容だ。
 各紙の評価は割れた。読売は社説で妥当な判決だとした。https://www.j-cast.com/2019/09/21368151.html?p=all
 《裁判のポイントは、3人が津波の発生を予見できたかどうかだった。検察官役の指定弁護士は、事故前に「最大15メートル超」の津波の可能性を指摘した試算を根拠に「対策を取るか、運転を停止していれば事故は防げた」と主張した。
 これに対し判決は、試算の基となった政府機関の地震に関する長期評価について、「専門家から疑問が示されるなど、信頼性に欠けていた」と判断した。その上で、津波発生の予見可能性を否定し、3人の無罪を導いた。
 刑事裁判で、個人の過失を認定するには、具体的な危険性を認識していたことを立証する必要があるが、それが不十分だったということだ。刑事裁判の基本に沿った司法判断と言えよう。
 また判決は、「自然現象についてあらゆる可能性を考慮して対策を講じることを義務づければ、不可能を強いることになる」との考え方を示した。当時の原発の安全対策に、「ゼロリスク」まで求めなかったのはうなずける。》

 これと反対に、21日のTBS報道特集はこれを原子力ムラの影響下での判決だとして厳しく批判した。

f:id:takase22:20190922011246j:plain

f:id:takase22:20190922120148j:plain

 裁判では、東電の津波担当の社員が証言台に立ち、試算でこれまでの想定を大きく超える15.7mという高さの津波の可能性を報告したと証言。海抜10メートルの原発敷地を優に超える数字で、2008年6月、当時原子力・立地本部副本部長だった武藤氏に報告した。

 だが武藤氏は翌7月、津波対策を保留する方針を決め、専門家でつくる「土木学会」に試算方法の検討を委ね、対策が実施されないまま事故当日を迎えた。従来想定を上回る津波の可能性については、旧経営陣3人出席の「御前会議」でも示されていた。
 武藤氏の「再検討」決定について、東電の社員Aは「ずっと対策の計算をしたり検討に携わっていましたので、予想していなかった結論で力が抜けました」と裁判で無念を語った。
 また、別の津波担当社員Bは「結局あの計算をしていなかったら心底想定外だと思えたのに、ちょっと計算しちゃってるから、想定外だということに関しては気持ちの整理がつきませんでした」と勇気ある証言をしている。東電内でも、あの津波が「想定外」とは思っていなかった社員たちがいたのである。裁判では、こうした重大な内部事情が明らかになってきた。
 永渕裁判長は判決で、「絶対に事故が起きないレベルの安全性の確保までを前提としていなかった」とし「(防潮堤などの対策が)事故までに完了できたかは明らかではなく、事故を回避するためには原発の運転を停止するしかなかった」と書いた。
 ところが、東電の中にははじめから「万が一」という発想がなかったという。東電の原子力部門の関係者がTBSの取材にこう内情を明かす。
 「そもそも当時の原発の安全思想では『万が一の際の対応を考える』という発想自体がなかったように思う。原子力という性質上、万が一のことが起きた場合の結果は甚大で、そのことを考えること自体が、あたかも安全対策が不備であることを認めるような結果となり、タブー視されているような空気があった」。
 また、15m超の津波予測は、2002年公表の国の長期評価にもとづくものだが、これは、福島県沖を含む三陸沖北部から房総沖の間でマグニチュード8前後の地震がどこでも発生する恐れがあるとし、確率を「今後30年以内に20%程度」と予測していた。この信頼性が論点の一つになった。

f:id:takase22:20190922011556j:plain

 勝俣氏は「信頼性のないものをベースに企業行動は取れない」と主張した。一方、東電の津波対策担当者は「国の機関による長期評価で、多くの学者が内容を支持した。想定に取り入れるべきだと思った」と証言。東電内で、まっこうから評価が対立したが、永渕裁判長は長期評価の信頼性や具体性に疑いがあるとした。

f:id:takase22:20190922011721j:plain

 この国の長期評価作成に関わった東京大学の島崎邦彦名誉教授(原子力規制委員会の委員長代理もつとめた)は、「(長期評価には)客観的な信頼性も具体的な根拠もある。(判決は)結論ありきから、それに有効な証拠を集めているとしか思えない。(武藤氏が再検討を依頼した「土木学会」には)電力会社で原発津波担当社員が委員に入っている。中立性どころじゃない。」といわゆる原子力ムラの存在を指摘し、土木学会という「身内」に検討させるのははじめからデキレースであり、判決には政府の原子力行政への忖度があると批判した。

(つづく)