十数年にわたって金正日のお傍につかえた日本人の「料理人」がいる。テレビにバンダナとサングラスで登場する藤本健二氏だ。
彼によれば、重村説では金正日が病に倒れて車椅子になったとされる2000年、将軍様はぴんぴんしていたという。藤本氏がすぐそばで接した将軍様は、妻である高英姫(コ・ヨンヒ)や息子の正哲(ジョンチョル)、ジョンウンらと同じ屋根の下で暮していたのだから、ニセモノではありえない。現在の将軍様も本物に間違いないと彼は断言する。
惠谷治氏は、時間の経緯によって、金正日の髪の生え際の後退するさままで詳しく研究しているジャーナリストだが、影武者説を一笑に付す。また、耳の形、目鼻の位置など顔の細部にわたって、金正日の過去の写真を比較した法人類学者も、本人であって全く矛盾がないという。各国情報機関も独自に過去に遡って金正日の映像分析を行なっている。ニセモノであるわけがない。
あれほどマスコミに露出し影響力のあった専門家が、金正日は影武者だと荒唐無稽な説を唱えるとは、いったいどうしたことか。
最近私は、北朝鮮を分らなくしているのは、実は専門家と言われる先生方ではないのかと思うようになってきた。
ところで、このブログの読者は知っていると思うが、私は北朝鮮の専門家ではない。
以前、よくテレビのスタジオに呼ばれて、「きょうは北朝鮮問題に詳しい高世さんにお話をうかがいます」などと紹介されるたび、「視聴者を騙しているのではないか」と思ったものだ。しかし厚顔にも、日本人拉致から核・ミサイル問題、脱北者、政治犯収容所、はては水害予測から金正日の後継者まで「解説」していたので、専門家と思われたようだ。
あるとき、日本テレビの「バンキシャ」という番組で、北朝鮮の収容所の看守だった安明哲(アンミョンチョル)氏と一緒にスタジオ出演することになった。番組前の打ち合わせで、プロデューサーはじめ十名近いスタッフが勢ぞろいした。そのとき、安氏につくはずの通訳が遅れるとの報が入った。するとプロデューサーが言った。
「じゃあ、すみませんが通訳さんが来るまで、高世さんに通訳していただきましょう」。
「あのー、韓国語は全然できないんですけど・・」と私。
「えっ、ウソでしょう!」と仰天したプロデューサーの声。スタッフのみんなの驚いた目が私に集中する。まるで私が悪いことをしたかのようだ。やっぱり、誤解されていたんだなあと反省し、最近はテレビのお誘いを受けても、拉致や脱北者、偽札など以外のことについては、「北朝鮮の専門家ではないので」と断ることが多くなった。
ここでは、私は素人として北朝鮮を論じていく。
(つづく)