北朝鮮の偽札は米国製?3

takase222008-11-20

スーパーノート級の偽札を製造するには、巨額な資金、一定数の優れた人材(技術)と本格的な設備が必要だ。小さな山小屋で数人でこっそりと、というわけにはいかない。かなりの規模のギャング団や宗教組織でも無理だ。
松村喜秀さん(写真)はブログにこう書いている。
これほどの品質の偽札を作るには極端な話、一国の造幣局と同じ規模の技術者、施設が必要となる。
早い話が「国家ぐるみ」となる。偽札製造という犯罪を国家ぐるみでやれるとなると、普通の独裁国家では難しい。消去法で全体主義北朝鮮となる。(「普通の独裁」と「全体主義」の違いについてはhttp://d.hatena.ne.jp/takase22/20080128
そして実際にスーパーノートがらみの摘発が進むにつれ、北朝鮮の影が見えてきた。
北朝鮮外交官もしくは外交旅券保持者が、さまざまな場所で、大量のしかも続き番号の偽ドル札(多くは新札)を所持・使用して摘発されるようになったのだ。
北朝鮮がらみの摘発例としては、94年、マカオで35万ドル分(北朝鮮国営商社)、96年、カンボジアで12万ドル分、ロシア(北朝鮮との国境ハサン)で1万ドル分、モンゴルで10万ドル(外交官)、97年、日本で18万ドル分(北朝鮮籍の船)、98年、ロシアで3万ドル分(外交官)などがある。
しかし、これは氷山の一角だと私は考えている。金額がそれほど多くない場合、あるいは、偽札使用が北朝鮮の友好国でばれた場合、見逃されたケースが多いと見られるからだ。
私たちの取材班が独自に追跡した例がある。96年1月のベトナムホーチミン空港の事件だ。二人の北朝鮮外交旅券保持者が、ホーチミン空港からプノンペンに飛ぼうとした。そのさい、X線検査でトランク一杯の100ドル札、新札で300万ドルを発見され、大問題になって一晩留め置かれたのだ。これはすぐに北朝鮮大使館が「カンボジア大使館の経費だ」と言い張って介入し、ベトナム当局は二人を見逃したのだが、偽札であった可能性は極めて高い。大使館の経費がトランク一杯の100ドル新札で運ばれること自体、普通のカネではないことが明らかだ。
そもそも北朝鮮本国からこれほど巨額の大使館経費が送られるはずがない。
76年、北欧四国で北朝鮮大使館員の麻薬、酒などの密売事件が起きて、大使をふくむ大使館員十数名が国外退去になった。これを皮切りに、各国の北朝鮮大使館で同様の不祥事が起きる。北朝鮮はすでに70年代から極度の外貨不足で、大使館の維持費すら自力でまかなうことを強いられていたのだ。
さらに90年代後半の300万人が餓死した経済危機は、北朝鮮から大量の難民を密出国させた。これら脱北者が、これまでなかった北朝鮮の秘密の一部を暴露しはじめた。偽ドルに関わる証言をした者も数人に上る。
ただし、脱北者・亡命者の証言には注意しなくてはならない。質問者に取り入って、喜ばれる答えをする者もいるからだ。もとは普通の労働者だったのに、「工作員」だと偽って、日本人拉致被害者を見たなどと証言した亡命者に会ったことがある。
脱北者・亡命者については、まずは北朝鮮での履歴が本当かどうか、それを確認できるかどうかが大事だ。
亡命者のなかでは、元外交官で金正日の通訳もつとめた高英煥(コ・ヨンファン)、元首相の娘婿の康明道(カン・ミョンド)などは身元が確かな証言者といえる。彼らはまた、権力上層部の事情にも詳しいが、私のインタビューに、ともに北朝鮮が国家として偽札作りをしていると証言した。(インタビューは『スーパーKを追え』に掲載)
これでは、北朝鮮犯人説で決まり、だろう。
ところが、ここにすごい説が現れた。スーパーノートが「国家ぐるみ」と見るのは同じだが、その国家とは北朝鮮ではなく、なんとアメリカだという。自分の国の通貨を自分で偽造するというのだ。
金正日は影武者だという話よりずっと面白い。
(つづく)