ジョンウンに後継指名の気配

金正日の後継者は誰か、さまざまに取りざたされてきた。労働党幹部の話、中国筋あるいは日朝関係筋の情報などから、主に長男のジョンナム、腹違いの次男ジョンチョル、三男ジョンウンのどれかが有力だとか指名されたと報じられた。たいていが怪しい話で、すぐに立ち消えになっていった。
しかし、ここにきて、どうやら後継指名がなされた気配が出てきた。サンプロでも紹介したのだが、指名されたのはジョンウンのようだ。
この情報をもたらしたのはアジアプレスの石丸次郎さん。彼は北朝鮮にジャーナリズムを育てるという大事業に取り組んでいるのだが(http://d.hatena.ne.jp/takase22/20071221)訓練中のジャーナリストの一人、李氏(仮名)と3月末に中国で会った。
そのとき、李氏はこういったという。
「友人が軍の幹部から聞いた話では『後継者が出た』そうだ。『もう一人の若い将軍様が出た』という」。
石丸さんが「名前は?」と聞くと李氏は「キムジョンウン」と答えた。
これは軍のなかで非公開で伝達されたことで、それが友人や家族から噂になって流れているようなのである。
金正日が後継指名するのは自分の息子しか考えられないが、一般の人々はロイヤルファミリーについて何も知らされていない。将軍様が誰と結婚していてどんな子どもがいるかを知らない。
その北朝鮮で、民衆のあいだで一人の息子の名前が後継者として広まっているということが確認されたのは初めてのことである。もっとも、その噂では、ジョンウンは三男ではなく「次男」とされているという。
以前、私が元人民軍エリートの亡命者にインタビューしたとき、金正日の息子がジョンナムだと知っていたので驚いたが、ジョンナムだけは軍の一部に存在を知られていたという。
今回は、はっきり「後継者」として軍に伝達されたということだから、意味が異なる。ただし、9日からの最高人民会議で後継者がお披露目されることはまだないだろう。
北朝鮮儒教の伝統があるから、跡継ぎは長男で決まりだという人がいるが、必ずしもそうではない。ハングル文字を作った英明な王として知られる世宗(セジョン)は第三王子だったし、三星サムスン)のカリスマリーダー、李健煕(イゴニ)氏も三男である。
ジョンウンでは年齢が若すぎるからおかしいと言う人もいるが、指名するのは私たちではなく、あくまで将軍様である。
ジョンウン説を強力に主張していたのが、将軍様の料理人、藤本健二氏だが、さすがに長年ロイヤルファミリーを見てきただけのことはある。
ただ、後継指名されたということで、さあジョンウン体制で、核はどうなる、拉致問題はどうなる・・と騒ぐのは早すぎる。後継指名即スムーズな後継体制づくりにはならないと思うからだ。
北朝鮮はますますがたがたの国家になっている。多くの民衆が金正日を嫌うなか、どこの誰かもしらない若造(いま26歳)に支配階級も人民もすんなり従うだろうか。
李氏から具体的な名前が後継者として噂されていることを聞いた石丸氏はこう思ったという。
「その裏側には、金正日総書記の、この10数年間の失敗した政治が変わってほしいという願望と、また息子が後継者になって同じ政治が続くんではないか。苦しい時代がまだまだ続くんではないかという恐怖。それがない交ぜになったような印象を持ちました。」