「天安」沈没事件によせて2

takase222010-05-22

北朝鮮は「改革開放」に舵を切ったと、これまで何度か変化を指摘されたことがあった。しかし、結局それはいつも期待はずれに終わった。あの体制は、本質的に「改革開放」を受け付けないし、個別的な「軟化」政策はマヌーバー(計略)でしかない。
全体主義政権は相手の妥協性に対して一層の敵意をもって応ずる」とアーレントは書いている。
実際、北朝鮮の軍事的な敵対行為が起きたのは、融和局面の時期が多かった。

例えば、金大中時代に潜水艇撃沈事件(98年12月)や黄海海戦北朝鮮側30人以上死亡)、02年6月の海戦(韓国側15人、北朝鮮側13人死亡)が起きているし、核実験で世界に衝撃を与えたのは、北朝鮮に対して最も好意的だった盧武鉉時代だった。
太陽政策下、韓国が北朝鮮に大量の援助をつぎ込み、金剛山に観光客を送り込み、開城工業団地に企業を進出させても、北朝鮮の敵対姿勢は変わらなかったのである。
そこで我々、外の世界は、北朝鮮の「狙い」が読めなくなる。中には、深読みを進めて、金正日は影武者だなどと解説する専門家も現れた。
そんな北朝鮮をめぐる理解の混乱については「北朝鮮はそんなにすごいのか」という題で以前ブログに書いた。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080930
また、全体主義は、「合目的的な考慮や単純な権力慾にわずらわされ」ない。政治は合目的性に依拠するはずだと思う我々には、全体主義の「一切の政治的行動」が「まったく予測不可能なもの」とうつった。
そこで、全体主義の「物的な力を過大評価するあやまちにおちいった人々と」、「(全体主義)権力のポテンシャルを軽視する人々とに分れた」全体主義の起源?P192)
まるで、デジャブーのようだ。

「単純な権力慾にわずらわされ」ないという点は興味深い。金正日は権力の座にしがみつくことしか考えていないと主張する人がいるが、かつて、ヒトラースターリンについても同様の見方があったようだ。本当にそうだったら、ヒトラーは「世界戦争」を開始したりしなかったろう。
今、北朝鮮に対峙する我々にとって重要だと思うのは、あの体制の目標を忘れないことだと思う。その目標とは、あくまで南(韓国)を呑みこんで「統一」することだ。
後継問題を解決して金王朝の権力を維持することでも、米国と不可侵関係を築いて体制を安定にすることでもない。ここを誤解するから、北朝鮮が強硬策を採るたび、何か特別な狙いが潜んでいるのではないか、と余計な斟酌をしてしまうことになる。
ところで、「天安」沈没事件で、「金融制裁をふたたび」との声が上がっている。2005年の米国の「金融制裁」は非常に効果があったが、それがなぜ効果的なのか、正確には知られていない。
関心のある方は、拙著『金正日「闇ドル帝国」の壊死』(光文社・写真)をお読みください。手前味噌ですが、金融制裁の仕組みを最も分かりやすく説明した本だと思います。