ウクライナ"空白地帯”の避難民

 N党の選挙戦術について大きな疑問があった。

 まず、参議院選挙公報のN党候補の文面。

 N党候補者の選挙公報より

《私は、おそらく当選できません。しかし、1票が約250円。つまり、選挙区と比例区の2票で約500円の政党助成金が交付されます。》
 これはいったい何だ??

 次に、東京都選挙区の立候補者34人中、N党から5人もが立候補していること。

 さらに、その5人のうち、公報ではっきりとN党と名乗っているのは一人だけで、他の4人はNHKについて触れもせず、別の政治団体を名乗るものもいる。

 疑問を持って調べようと思っていたら、「毎日新聞」が記事を出した。以下抜粋。

《N党は「NHKから国民を守る党」として臨んだ2019年の参院選で立花氏が比例で初当選(後に参院埼玉選挙区補選に立候補し自動失職)し、選挙区で3・02%の票を獲得して政党要件をクリアした。政党交付金は25年まで受け取ることができ、今回の参院選で2%以上を得たうえで所属議員を維持すれば28年まで延長される。
 総務省によると、22年にN党に支給された政党交付金は約2億1000万円だ。(略)

 N党は21年の衆院選に「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の党名で挑んだが、選挙区で0・26%、比例で1・39%の得票にとどまった。「NHKをぶっ壊す」と連呼する立花氏の過激な言動や、度重なる党名変更でネット上の注目を集めようとしてきたが、19年の参院選ほどの勢いは見られなかった。

 そこで奇策に打って出たのが今回の参院選だ。
 東京で最多の5人、その他の選挙区では改選数と同じ人数を擁立。北海道、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡でもそれぞれ3~4人のN党候補をあえて立てた

 立花氏は5月27日の記者会見で「(選挙区で)当選したければ候補者を絞る。でも、当選を目的としなければたくさん出した方が有利だ」と強調。(略)

 党首が「当選を目的としていない」と断定する選挙区の候補者たちに、メリットはあるのか。
 選挙区で立候補するには供託金300万円(比例は600万円)が必要だ。立花氏は会見で、候補者がテレビやラジオで主張を伝える政見放送や新聞社の紹介記事、選挙管理委員会が発行する選挙公報を挙げて「300万円で得られる広告効果は計り知れない」と指摘した。

 一般的にメディアは選挙報道で政党ではない政治団体を「諸派」として扱っており、立花氏は自身のアイデアを「諸派党構想」と名付けてさまざまな主義・主張の人物に立候補を呼びかけたという。NHKを視聴したい人だけが受信料を払う「スクランブル化」実現などN党が重視する政策に賛同すれば選挙戦で何を訴えても自由とし、希望者が相次いだ。

 こうして集まった候補者は宣伝目的と割り切っているためか、わざわざ「私の当選は無理です」と宣言したり、選挙ポスターにN党の名前を書いていなかったりする人もいるほどだ。宇宙産業や炭作りの振興、内部告発者保護など訴えるテーマはバラバラ。比例では芸能人の裏話を「暴露」することで注目される国外在住のユーチューバーを目玉候補とした。(後略)》

 とにかく政党助成金を得るために、なりふり構わない手段に出るN党。立花氏自身も前回の「NHKをぶっとばせー!」の強面を引っ込めてソフト路線に転換している。

 しかし、選挙の本来の意味からは完全にはずれている。
 こんな手法を成功させてはならないと思う。
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 出色のウクライナ報道を観た。 

 TBS『報道特集』(2日OA)の特集「ウクライナ”空白地帯”の避難民」で、私たちが見逃している戦争の現実を深く掘り下げる取材だった。

 ウクライナで故郷を追われて避難した人はおよそ1400万人とされるが、そのうち国外に逃れた難民は近隣国や国際社会が支援の手を差し伸べていて、取材でその実態も報じられている。それに対して、国内の避難民たちが置かれている状況は知られておらず盲点だったと思う。

 取材は日本のNGO「テラ・ルネッサンス」(小川真吾理事長)によるウクライナの国境にあるザカルバッチャ州(ルーマニアハンガリースロバキアと国境を接する)の避難民支援に密着した。

 この州には38万人が東部など他の地域から避難してきた。国境地帯は、国外に逃れることができない多くの人々の「吹き溜まり」になっている。

 なぜ国外に逃げないのか。例えば国民総動員令で国を出ることができない18歳から60歳までの男子が家族にいて、別れ別れになりたくないと思う人々がいる。また、経済的な理由も大きい。避難民の64%が職を失うなか、収入なしで外国で長期間暮らすだけの貯えがないという人もいる。外国に出られるのはむしろ恵まれた人々だということもできる。

 この州はウクライナのなかでも貧しく、支援を必要とする地域で、取材に入ったところでは水道も引かれていなかった。避難民は十分な支援なしに、民家や賃貸アパート、宿泊設備のない公共施設などに長期滞在を余儀なくされている。

ウクライナでも貧しい地域だという。馬車のある風景は10年前訪ねたキーウ北方の農村を思い出させる

 しかもここは国際的な支援が入ってこない「空白地帯」で、避難民には地域の行政機関から1日おきにパンが配られるだけで牛乳も肉も手に入らないという。

 あるべき支援について考えさせられたのは、ある雑貨屋に避難している16人の避難民に対する「テラ・ルネッサンス」の活動だった。
 この雑貨屋は店の建物を避難民の宿泊のために提供しているが、キッチンもシャワーもない。そこに小川さんたちは冷蔵庫、洗濯機、食糧、医薬品さらにはテレビを持ちこみ住環境を改善しようとする。
 さらに小川さんたちは、避難民の心の問題にも配慮していく。
 避難民のなかに2歳の娘を連れたリューダという18歳のシングルマザーがいた。父は予備役として家に残り、母と3人のきょうだいと共に避難してきたという。リューダは学校で調理を習っていたがそれも中断し、今は何の希望もなく避難生活を送っていた。

18歳のシングルマザー、リューダ。2歳の娘アリサと(報道特集より)

夢は持たないように暮らすしかなかった

 アフリカなどで17年間支援活動を行ってきた小川さんはそんなリューダの気持ちに寄り添う支援を提案する。それは調理を勉強した経験を活かして炊き出し活動に参加することだった。

 これは支援を受ける本人が社会参加して対価を受け取るCSCs(社会貢献型現金給付支援)というもの。

 小川さんは、長期に支援に頼る生活をした人たちが無力感に襲われたり、存在意義を見失ったりして、自立して社会復帰することが難しくなる事例をたくさん見てきたという。

 将来のウクライナの復興まで見据えて、避難民一人ひとりに前向きに生きることを促す活動を行っていることに私は感銘を受けた。

 いまリューダは週2回、避難民や地元の貧しい人たちに暖かい食事を提供する「仕事」をしている。彼女がこれをきっかけに希望を持ちながら生きていってほしいと思った。

炊き出しでスープを配膳するリューダ

 爆撃や戦闘の激しいシーンだけでは分からない戦争の悲惨さをこの特集は教えてくれる。取材は私も知っている菊地啓さん(日本電波ニュース社という若手のディレクター。若い取材者たちがこの戦争のリアルな実態を追及することを応援したい。

 なお、テラ・ルネッサンスについては以下。

私は『テラ・ルネッサンス』という漫画を数年前に読んで、よくやっている団体だなと感心した。漫画では小川さんは当時のウガンダ担当で登場している

 

プーチンのサハリンⅡ「接収」命令

 岸田文雄総理、NATO首脳会議に日本の総理として初めて参加してロシア制裁に足並みを揃える姿勢を明らかにし、さらに日本の防衛力を5年以内に抜本的に強化することを表明した。

NATO首脳会議に参加した岸田総理

 これへの報復としてロシアが放ったのが「サハリンⅡ」の「接収」命令だ。

プーチン大統領は6月30日、日本の商社も出資するロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡するよう命令する大統領令に署名したウクライナ侵攻をめぐり対ロ制裁を強める日本への対抗措置とみられ、日本側が事業の権益を失う恐れが出てきた》(朝日新聞

大統領令は、日本の三井物産三菱商事が出資する現在の運営会社「サハリンエナジー」の資産を、露側が設立する新会社に引き継がせるとしている。外国企業は新法人の株主として参画できるが、露側が示す条件に同意する必要がある。受け入れなければ、サハリン2からの撤退を余儀なくされる。》(産経新聞

 ロシアが提示する条件ですべての資産、運営権をロシア側に引き渡せというもので、事実上の「接収」命令だ。

 これに関連してプーチンの過去をひもとくと、まずは1990年から96年までサンクトペテルブルクの改革派市長のサプチャークを支えた時代にさかのぼる。

 プーチンは副市長・対外経済委員会議長として、外国の金融機関や企業を誘致してサンクトを西側に開かれた窓にした。だがプーチンは経済自由化一辺倒ではなかった。

 とりわけ2000年に大統領に就任してからはエネルギー産業の国有化に舵を切った

 ユコス事件」という有名な事件がある。

 ユコスはロシア国内の石油生産量の20%を占める最大級の民間企業だったが、03年10月、「石油王」と呼ばれたカリスマ的オリガルヒ(新興財閥)、ユコスCEOのホドルコフスキーが、所得税法人税等の脱税及び横領容疑によりロシア政府に逮捕された。ユコスは破産に追い込まれ、その主要な子会社はプーチン側近が会長をつとめる国営企業に買収されたのだった。欧州議会はホドルコフスキーの逮捕は不当だと抗議するも、プーチンは事実上の国有化を押し切った。

 これを皮切りに、石油・ガスなどのエネルギー産業が次々に国営企業支配下に置かれるようになった。その直後、原油価格が急騰したが(1998年の1バレル10ドル以下から08年には一時140ドル超に)、これがプーチンの独裁化を後押ししたといわれる。

 「サハリンⅡ」というのは、1990年代に結ばれた生産物分与計画(PSA)で、米国と日本の企業に生産、加工、販売のすべての権限が与えられた。要は日米の民間企業がすべてを仕切るプロジェクトで、ロシアで初めてとなる液化天然ガスLNG)生産プラント建設やサハリン島を縦断するパイプライン建設も含むものだった。


 ところが06年、ロシア政府は、サハリンⅡが環境を破壊しているとの口実で、国営天然ガス独占企業「ガスプロム」の参画を提案。結果的に株式の過半数ガスプロムが習得することになった。事実上のプロジェクト乗っ取りである

2009年4月に「サハリンII」で産出した液化天然ガスが初めて日本に到着した。

 実は、プーチンサンクトペテルブルク時代に、ある論文で博士号をとっている。

 「市場関係形成という条件下での地域における鉱物原料の基盤再生について「の戦略的計画策定 サンクトペテルブルクレニングラード州」という長い表題の論文だ。

 この内容を簡単にいうと―

「国家に十分な資金がなく、管理したり計画したりする余裕がない最初の段階では。そうした能力をもつ企業に鉱物資源の管理を任せるべきだが、その後、国に余裕ができた段階で、調整役としての役割を強化すべきだ」というもの。

 サハリンⅡの「ガスプロム」による乗っ取りはまさにこの論文を地で行くものだったが、今回の運営譲渡命令までいくと、外国企業は危なくてロシアに投資できなくなるだろう。

 プーチンという人物は、手段を選ばないから、何を仕掛けてくるかわからない。これからが問題だ。

 こういう時代だからこそ、エネルギー自給率を抜本的に高める方策を採らなければならない。

(上記プーチンの論文等については朝日新聞国際報道部『プーチンの実像』(朝日新聞出版2015年)を参考にした)

戦争とアイデンティティ2

 プーチンの核使用の可能性が取りざたされるなか、6月21日からウィーンで核兵器禁止条約の初めての締約国会議が開かれ、各国代表やNGOなどが集結した。

 いまは核兵器禁止運動に「逆風」が吹いているが、それは同時に、より必要性が高まったとも言える。

 去年1月に発効した核兵器禁止条約は65の国と地域が署名・批准を終えた一方、アメリカやロシアなどの核保有国に加え、日本など核抑止に頼る安全保障政策をとる国は参加していない。

 日本政府がオブザーバー参加の要請を蹴って参加しなかった一方、被爆者団体の他に日本の高校生もサイドイベントなどに参加したとのニュース。

(サイドイベントで訴える長崎の神浦はるさん(高3)=右と広島の大内由紀子さん(高3)長崎文化放送ニュースより)

 実は日本と同じ理由で条約に参加していない欧州の国々がオブザーバー参加して、しっかり発言している。

日本同様、米国の核の傘に守られているNATO4カ国(ドイツ、オランダ、ノルウエーなど)がオブザーバー参加し、核兵器禁止のために貢献したいと演説(NHK

 岸田文雄総理は常々広島出身を売りにして核禁条約国と核保有国との「橋渡し」をすると言っているが、会議に参加もしないで「橋渡し」などできるのかと問われればグーの音もでないだろう。

参加しないでどうやって「橋渡し」するんですか?誰でもそう思うよな

参加しない理由をあれこれつけて腰が引けている。

 少なくとも高校生に対して恥ずかしくないくらいのことをやってほしいな。
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 ロシア軍の犠牲者のなかで少数民族の比率が異様に高い。

 この主な理由が、契約軍人制度にあると「国際報道」(NHK)が報じている。
 バイカル湖畔にあるブリヤート共和国はロシアの85ある連邦構成主体(うち共和国が22ある)のなかでも貧しい地域だ。

ブリヤート共和国の位置

 ある家族からウクライナ戦争の犠牲者が出た。亡くなったのは元教師。教師の月給が2万円ほどで、家族を養っていけなかったので、契約軍人に応募した。給料は教師の6倍だった。

亡くなった兵士は元教員だった

悲しむ母親

 この契約軍人制度に応募するブリヤートの若者は多く、村によっては成人男子8人に1人が契約軍人としてウクライナに送られているという。

 また、中央アジア諸国から出稼ぎでロシアに移り住んだ人は780万人以上いるとされ、彼らの弱い立場につけ込んで、便宜供与(国籍取得など)や脅迫(国外退去などの)で契約軍人に仕立て上げるケースも多いという。

 実はロシア軍は徴集兵より契約兵がはるかに多いのだ。

ロシア軍は約70%を契約軍人が占めていて、あとは徴集兵だ。ワシントン・ポストによると、契約軍人は3年間、月の報酬約1100ドル(約14万円)の契約を結ぶのが一般的だという。」(Business Insider)

 プーチンは国民の抵抗も予想される総動員を避けて、契約軍人で失った兵士の補充に充てたいと考えているようだ。
 契約は原則3年だが、最近は補充が追い付かず、3カ月の兵役契約に署名した新兵に月17万ルーブル(約38万円)以上の手当を提示したり、チェチェン共和国では最初の月の給与として30万ルーブル(約67万円)を提示するケースもあるという。

 結果としてますます貧しい少数民族の人々が前線に送られて死傷することになる。

 そこで起きているのが少数民族としてのアイデンティティの高まりとロシア国家への忠誠心の低下だ。

 あるブリヤート人は「自分はロシア人ではないのに、なぜロシア世界を守らねばならないのか」と考えるようになったという。

ロシア国外でブリヤート人の権利について発信するガルマジャポワさん

各国に移住したブリヤート人が声をあげはじめた

 世界に移住したブリヤート人が声を上げはじめ、いま民族的自覚のもと、連帯してロシアのウクライナ侵攻に抵抗する運動が起きているという。

 ブリヤート人モンゴル族の一部で、顔立ちは私たち日本人によく似ている。NHKのニュースでは犠牲になった兵士の葬儀はチベット仏教で執り行われていた。親近感を感じたこともあって、いたく同情させられた。

 ロシア人(民族)の政府への抵抗はもちろん重要だが、ロシア国籍の少数民族の動きにも注目したい。

戦争とアイデンティティ

 うちに泊まりにきた長野の旧友が信濃毎日新聞を置いていった。見ると一面トップがリニア新幹線工事に疑問を投げかける特集だ。

信毎6月29日付一面

社会面

 商業新聞がここまではっきりと批判的な記事を書くのは珍しい。リニア新幹線は国策のプロジェクトで、多くのマスコミは批判を抑えている。JRは有力な広告主でもあり民放テレビや雑誌でも忖度がはたらく。

 

takase.hatenablog.jp

リニア新幹線へはいろいろな角度からの批判があるが、私は主に経営的に大赤字になるのが目に見えていて国力を削ぐことになるという点で反対だ。

 ともあれ、このまま進めさせてはならないので、他の地方紙もがんばってほしい。
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 連日の猛暑は記録づくめで、節電要請が常態化している。テレビでは「節電のためスタジオをいつもより暗くしています」などとお断りが流れる。

 いまウクライナ戦争の影響で、食糧やエネルギーの供給が逼迫しているが、これについても選挙戦でしっかり示してほしい。

 日本のエネルギー自給率は1割ちょっとしかない。安全保障政策ではいの一番に取り上げるべき問題だ。

これでは万が一の事態にお手上げになる


 1960年頃は石炭と水力が主な電力源で、自給率は6割ほどあったが、石油・ガスそしてウラニウムの輸入を増やした結果2014年には6.4%まで下がった。今は自然エネルギーが増えて自給率がようやく1割を超えるようになった段階だ。

 欧州などでは選挙の主な争点にエネルギー転換と気候変動、(本当の意味の)SDGsの政策が上がるが、日本ではそれが全くない。この問題は次の有望産業をどう育てるかということに直結している。つまりは、次世代の働き口をどう確保するのかだ。いま乗り遅れると大変なことになるのだが・・・。
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 ウクライナ戦争に関する情報では、市民たちの声に考えさせられることが多い。

 ETV特集ウクライナ危機~市民たちの30年」(4月30日)に登場したウクライナ市民が「ウクライナ人がここまで一丸となったのは初めての経験です」と語っていた。これに似た表現を何度か聞いたが、これは危機にさらされた国の運命を自分の運命に重ね合わせているからだ。ロシアとの戦いが、ウクライナ人としてのアイデンティティを強め、愛国心を高めている。

ETV特集より

幼い娘が(誰かに指示されることなく)描いた絵。彼は「栄光は皇帝や独裁者にではなく、ウクライナの国に向けられたものです」と続けた。愛国心の出発点を示唆する

 これは闘う香港の市民たちやクーデターに抵抗するミャンマーの人々と共通する。

 香港の市民たちが、民主化運動に参加することで、香港人としてのアイデンティティと一体感をもち、集会で出たゴミをみんなで片付け合ったりしていたのを思い出す。彼らは「こんなに自分が香港を愛していることに気付いて自分でも驚いている」と語っていた。中国共産党が押し付ける「愛国教育」には激しく反対して闘っていた。何が本当の愛国心なのかを考えさせられる。

2014年マイダン革命に参加した若者。この闘いで、ウクライナ人としてのアイデンティティ、仲間意識が一気に強まった

 ETV特集では、16歳まで日本で育ち今はキーウからyoutubeウクライナの情況を発信しているボグダンさん(35歳)が流暢な日本語で心境を語ってくれた。翻訳と違って、細かいニュアンスも伝わってきた。

ボグダン・パルホメンコさん

「『ロシアを怒らせた』という表現が、僕たちからすると分からないんですよ。だって僕らは別にロシアの資産じゃない。ペットでもないですよね。ロシアの属国でもないわけですよね。独立国家じゃないですか。
 『怒らせた』?、何を怒らせたんですか。だって、僕らは91年に独立したわけじゃないですか。」

 さらに
「国民全体がボランティア。それがウクライナの強さ。だからロシアに負けない。正しい方向に進んでいるんだなということを毎日感じながら前進してます。」

 まっすぐにこう言い切れるのはすごいなと思う。

 ロシアがウクライナ侵攻に踏み切ったのにはウクライナにも「落ち度」がある、もっとうまく立ち回ってロシアを怒らせないやり方もあったのではないかという意見の人に聞かせたい言葉だ。これって、レイプされる側にも「落ち度」があるというのに近いのでは。

 国際情勢の変化を一つのメカニズムと捉えて分析することは学問的にも、今後の教訓を得る上でも重要だと思う。ただ、それはもう少し距離感をもって眺められるときにやればよいと私は思っている。今はとりあえずウクライナ支援に心を寄せよう。

 同じ番組で、フィンランドにいるロシア人留学生の女性も登場。ロシアに帰っているときにウクライナ侵攻が起き、このままだと外国に行けなくなると思って急いでロシアを出国してフィンランドに来たという。

フィンランドに留学しているロシア人学生。ロシアを捨ててきたという

 ロシアでは、ウクライナとは逆に、国家や民族などの価値観から離れ行く若者も多いようだ。

 戦争は両国の国民のアイデンティティにそれぞれ大きな影響を与えている。
(つづく)

 

参院選ではもっと産業政策の議論を

 きのう、6月で40度超を群馬・伊勢崎市で記録した。観測史上初だという。

 きょうも猛暑。近く客が来るので、この機会にと障子の張り替えをする。つれあいに「こんなに暑いのにバカ」となじられながら、汗だくで4枚張り替えた。一人でやるのはけっこう大変だった。
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 24日の金曜は、タイから一時帰国した作家の笹倉明さんを囲んで飲み会。

笹倉明さん。今秋、還俗するという


 笹倉明さんは1989年、ジャパゆきさんの殺人事件をテーマにした『遠い国からの殺人者』で直木賞を受賞した。私はその前に笹倉さんと知り合い、彼がフィリピンに取材に来たときに案内したりとお付き合いがあった。

 酒の席での私の話を笹倉さんがおもしろがり、小説にした。フィリピンで起きた実際の事件が基になっていて、主人公のジャーナリストのモデルは私。『報復コネクション』(集英社 1989)という小説だ。

takase.hatenablog.jp


 笹倉さんは2015年からタイで仏僧となってチェンマイの僧院に入っていたが、この秋に還俗(げんぞく)するとのこと。また物書きになるという。

笹倉さんと

 7年近い修行は何をもたらしたか。今後どんな作品を書くのか。
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 この間のニュースから。

 ロシアのウクライナ侵攻からはや4カ月がたった。

 激しい包囲戦が続いていたウクライナ東部の要衝セベロドネツクが25日、事実上ロシア軍に陥落したようだ。これでロシア軍はルガンスク州のほぼ全部を支配したことになる。マリウポリのように大量の兵士が捕虜になることはなかったようだが、ウクライナ側は守勢に立たされている。

 軍事的な意味より政治的な意味あいが大きいとされロシア側の士気にもプラスに働くだろう。

 ウクライナ政府によれば東部ドンバス地方での火力はロシアがウクライナの10倍以上で、西側からのさらなる武器支援を求めている。

 いまさかんに「正義派」(ウクライナが勝つまで戦争を続ける)か「和平派」(とにかく一刻も早く和平を)かという議論の構図が提示されることが多いが、篠田英朗先生によるとそれは「親露派の偽りの問い」だという。

 ウクライナに「正義」を放棄させる「和平」はありえないと。

篠田vs東郷

 篠田氏の論戦は続く。

篠田vs東大作

 私は以前からロシアのウクライナ侵攻は、米国がベトナムから撤退するパターンで考えていた。世界はロシアを撤退させなければならない、と。

 米国が武器援助を続ければ戦争を長引かせるだけだという主張があるが、いまのウクライナはレイプしようとするロシアに必死に抵抗しているようなもので、その抵抗は支援されなければならない。

 一方、ウクライナ軍からの逃亡が増えているとのリポートがある。

英国国防省「ここ数週間、ウクライナ軍からの兵士の逃亡が起きているようだ。もっともロシア軍の士気の低下は酷いままで、兵士が命令を拒否したり将校とにらみ合うなどの事態も起き続けている。」(19日)


 圧倒的な火力で劣勢に置かれた兵士が戦線を離脱したくなるのは人情。ロシアへの制裁とウクライナへの軍事を含む支援は継続されなくてはならない。
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 参院選が始まった。

 どの党も「給付金」「補助金」「減税」などバラマキの横並びに見える。

 安倍元首相が去年、アベノミクスを擁護してトンデモ発言を繰り返したのをこの時期思い出してほしい。
「子どもたちの世代にツケを回すなという批判がずっと安倍政権にあったが、その批判は正しくないんです。なぜかというとコロナ対策においては政府・日本銀行連合軍でやっていますが、政府が発行する国債は日銀がほぼ全部買い取ってくれています」
「みなさん、どうやって日銀は政府が出す巨大な国債を買うと思います?どこかのお金を借りてくると思ってますか。それは違います。紙とインクでお札を刷るんです。20円で1万円札が出来るんです」(!!)

 まるで飲み屋で与太話している感覚だが、膨大な国債発行と異次元の金融緩和が常態化して、政治家もみな日本の危機的な財政に麻痺してしまったのか。

www.asahi.com

 私は個人的には「分配」よりも、将来への経済プラン、とくにどんな産業を伸ばしていくのか、どういう産業で日本が食べていくのかで争ってほしい。

 一例を挙げれば、日本経済の最後の牙城とされる自動車産業がいよいよ危ない。EV(電気自動車)化で差をつけられつつある。日本はEVの性能、価格、充電設備どれを取ってもヤバい。

www3.nhk.or.jp

先進国で充電スタンドの数が減っているなんて、日本以外ありませんよ!EVの数が少なすぎて採算が合わないという理由もあるという

www.nikkei.com

EVの畜電池生産でもずるずると後退している。CATL(中国)の伸びがすごい。今月、航続距離が1000km超で10分で8割充電という世界最高の電池パックを発表したという。

www.asahi.com

 電気機器、半導体、携帯電話、太陽光パネルなど、日本が先頭を走っていた産業で次々と競争力を失うパターンがいよいよ自動車に及んできた気配がする。

 これは政府の産業政策の誤りによるもので、いまだに脱炭素化への大胆な踏切をためらっている。このままだと、自動車産業を失うばかりか、次世代の産業開拓でも出遅れてしまうだろう。

 さかんにSDGsがどうのと一応口では言ってみても、政策で裏打ちしなければ、スーパーにはマイバッグを持っていきましょうレベルの話で終わっちゃうよ。

 「骨太」の産業政策の議論を望む。

横田夫妻とウンギョンさんの写真公開の真実2

 21日の『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』の出版記者会見の動画がアップされたのでご案内しよう。

www.youtube.com


 「拉致問題がどうなっているのかが見えず悶々としていたが、今回の出版でよくわかった」との声がたくさん寄せられている。

 メディアが伝えるのは、「全ての拉致被害者の即時一括帰国」を求める拉致家族の声と首相や閣僚の「最重要課題として」努力するとの決意表明、それにもかかわらず何年も進展が見られない現実だけだ。これでは何がどうなっているのか分からないのは当たり前。

 「救う会」、「家族会」、内閣の三位一体のもたれあいが政府に不作為=外交努力をサボらせることを招いている構造に切り込まないメディアの責任は大きい。
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 さてきのう、西岡力救う会」会長による有田芳生北朝鮮拉致問題~極秘文書から見える真実』(集英社新書)への批判を紹介したが、きょうは、これがいかに事実を誤認しているかを指摘したい。

 まず、「看過できない」という三つのポイントのうち、①極秘文書を公開していいのか、②拉致被害者5人に了解を取っていない、については本書を読めばすむのでパス。

 付け足すと、2002年の帰国直後に行われた聞き取りの際は、まだ家族が「人質」になっており、「聞き取り」が漏れると北朝鮮に遺してきた家族の奪還に影響が出る可能性があるので、内容を公開しないよう強く要求していた。
 拉致被害者の家族のうち最後まで北朝鮮に残っていた曽我ひとみさんの夫ジェンキンスさんと二人の娘が来日したのは04年7月。そしてそもそも拉致被害者から「聞き取り」が行われたのは、拉致問題を進展させる交渉に使うためだった。そこから18年間も経ったがいまだに「外交」が不在のまま、「極秘文書」は宝の持ち腐れになっている。そこで有田さんは、機密文書を公に分析する方が公共の利益になるという判断にいたったわけだ。

 西岡氏がもっとも強調していたのは、横田滋さん、早紀江さんが2014年3月にモンゴルで孫娘のウンギョンさんと会ったときの写真を有田さんが公開したことの不当性だった。

 まず、根本的に間違っているのは、モンゴルの面会時の写真が2種類あると西岡氏が認識していることだ。つまり横田夫妻が撮影した写真のセットと有田さんが持っている写真のセットがあると。

 この認識を前提に、「横田さんたちが(有田さんが持っている)その写真を見たら、滋さんが撮った写真ではなくて、北朝鮮側が撮った写真だったんです。アングルが違う。有田先生は横田家からもらわないで、(北朝鮮から)もらった写真だということが明らかになったんです」と言っている。前提から間違っている。

 まず横田滋さんはモンゴルで写真を撮っていない。つまり、「滋さんが撮った写真」などないのだ。横田夫妻が持っている一連の写真は、有田さんが持っている写真と全く同一のコピーである。

 だから、横田夫妻が持っている写真が有田さんの写真と「アングルが違う」(!)わけがない。だいたい西岡氏は、「(写真を)私も見てないです」と言っていたではないか。見ていないのに「アングル」が違うと断定できるとは・・。
 こういうのを「見てきたようなウソ」という。

 有田さんの持っている写真と横田夫妻の持っている写真が同一のものである(つまり同一のモンゴルの写真が2セットある)ことは、私もかつて当ブログで何度も指摘してきた。

 イロハのイの事実であって、ここを誤認しているから立論全部が間違いとなる。

takase.hatenablog.jp

 次に、西岡氏は横田夫妻がモンゴルの写真を絶対に公開しないと言っていると主張するが、以前当ブログで紹介したように、いま新潟市川崎市のバスが、堂々とモンゴルでの写真を展示しながら走っている。これは早紀江さんがどうぞ使ってくださいと許可したからだ。早紀江さんは、モンゴルで幸せな時間を過ごしたことを多くの人に知ってほしいのである。

takase.hatenablog.jp

 

 「虎ノ門ニュース」で読み上げられた2016年6月8日の横田夫妻のコメントは、写真を公開したことを糾弾され、強い圧力によって追い詰められて出させられたものだ。横田夫妻は、写真を公開したのは自分たちの意志ではなく、有田さんが勝手にやったことで、今後は有田さんと縁を切りますと言わざるをえなくなったのだ。

 それは1回目、2回目(6月8日付)、3回目のコメント(6月10日付)とより強く「救う会」の意に沿った内容になっていることで一目瞭然である。

横田夫妻の最初の声明。有田さんへの言及はない。「とても嬉しい時間」、「その時の喜こびをご支援して下さった方々にも知って頂きたい」、「面会の喜びの写真」などの表現がある。さらに、孫が写真公開に同意してくれたとも記している。

6月8日付の2回目の夫妻の声明。全文言い訳になっている。

2日後の6月10日付の夫妻の3回目の声明(救う会ニュースより)。おそらく誰かの作文だろう。夫妻の心中を思うとかわいそうでならない。

 西岡氏の発言を追っていくと、モンゴルでの横田夫妻の孫娘一家との面会を喜んでいない本音が露骨に現れている。

 「北朝鮮側はこの写真を有田先生に渡して、何らかの意図があるわけですね。それを公開してもらう。横田家は満足してると、こんなにニコニコしてると、良かったねと。(百田氏の「プロパガンダに使われたんやね」との発言を受けて)という風に思われるんじゃないか」。

 ウンギョンさんやひ孫と会って「ニコニコ」したら「(北朝鮮の)プロパガンダ」になる(!)というのだ。どうやら西岡氏らからすれば、横田夫妻は孫娘一家と初めて面会しても喜んではいけないらしい。

 しかし、多くの人々は反対に、モンゴルでの面会から帰国しての会見で横田夫妻の見せた笑顔に感動し、辛いばかりの二人の人生にキラ星のように輝く時間が持てたことを祝福した。むしろ求められているのは、限られた時間を生きる家族たちに、できるかぎりの人道的な配慮をすることではないだろうか。

 モンゴルでの面会が2か月後の14年5月の「ストックホルム合意」への伏線となり、拉致問題をむしろ進展させる結果になったこともあらためて付け加えたい。

takase.hatenablog.jp

 さらに、西岡氏の「この写真を(有田氏が)持ってることは横田さんたちと近いとされる恐れがある」とのコメントには、横田家をふくむ被害者家族を自らの「なわばり」と見なす心象が露呈しているように思われる。「家族会」は「救う会」が囲い込み、有田さんなど「よそ者」には近づかせてはならない、と。
 本来、「家族会」は「救う会」のあやつり人形になってはならないのだが。

 

 「救う会」はじめ拉致問題にかかわる人々には、今回のことで早紀江さんにまた残酷な圧力をかけて苦しめることのないよう望みたい。モンゴルでの時間を早紀江さんの心の中に美しい思い出のまま留まるようにしてほしい。

この週刊文春の記事に強烈なバッシングが。

こんなに幸せそうな表情を喜ばない人たちがいた

ひ孫のチウンちゃんと横田夫妻。「別のアングルの写真」などない

一人のお祖母ちゃん(ほんとはひいおばあちゃん)になって無心に遊ぶ早紀江さん

滋さんが生きている間にウンギョンさん一家との面会がかなってほんとうによかったと早紀江さんは思っている

滋さんのご冥福を改めてお祈りします

滋さんにとっても至福のときだったようだ


 横田夫妻とウンギョンさん一家との写真の問題については6年前の「週刊文春」事件のときに私も当ブログで連載したが、今回、あらためて有田さんがFBとツイッターで当時を振り返っているので、以下引用する。

横田夫妻とウンギョンさんの写真公開の真実】
 2016年6月9日。モンゴルでの写真と私の原稿を掲載した「週刊文春」が出る前日。見本誌が出回り報道各社から問い合わせが殺到した。写真を欲しいというのが目的だが、週刊誌が発売になれば渡すと回答。横田夫妻にコメントを出してもらう。早紀江さんから電話があり、発表コメントを確認された。一か所だけ削除してもらった。写真の管理は有田に任せているという部分だ。私と横田夫妻の距離を明らかにすれば、お互いが攻撃対象になると判断したからだ。

 私は間違っていた。「週刊文春」発売前夜、横田早紀江さんに異常な電話が殺到する。私を攻撃することが目的だ。面々は「救う会」幹部、拉致対策本部の幹部、女性評論家、女性国会議員(当時)、「政府の偉い人」である。評論家は2度も電話をしている。「早紀江さん、あんな写真を公開したら、めぐみさんも他の被害者も殺されてしまいますよ!」。女性評論家の声はいつもの柔和な声でなく、まったく別人のようにきつい言い方だったという。のちに横田早紀江さんはある知人にそのときの声色を真似ている。

 しかし、そのときすでに滋さんと早紀江さんのコメントは公表されていた。そこにはウンギョンさんから写真公開の承諾があったと書かれている。写真を公開したい。横田夫妻が逡巡したのは、ウンギョンさんとモンゴルで次のような会話があったからだ。日本に戻って写真を公開していいかと聞くと、「出さないでほしい」。それから2年。横田夫妻は兄や知人にも見せなかった「うれしい時間の写真」を多くの人に知ってもらいたいと思い続けた。しかも拉致問題は動かないままだ。

 私はつてを辿ってウンギョンさんに横田夫妻の意思を届けた。そして2016年4月に本人直筆の公開を了承する手紙が届く。夫妻は喜び、私が持参した写真から選んだ6枚を「週刊文春」掲載した。これが経過のあらましだ。そして圧力が早紀江さんに殺到した。早紀江さんは強い要求に屈し、私が勝手に写真を公開したかのような事実でないコメントを出した。参議院選挙の前だったが、当時の私は耐えるしかなかった。不条理だとは思ったが早紀江さんではなく、圧力を加える者たちに非があったからだ。

 早紀江さんのコメントには、写真は横田家から一枚も出していないとある。それはそうだ。私が持参したものを夫妻と相談して6枚出そうとなったのだ。さらに「救う会」ニュースが早紀江さんコメントを恣意的に利用して私を批判した。そこでは早紀江さんの言葉として「有田先生」という表現があるが、横田夫妻はこの20年間、1回も私を「先生」と呼んだことはない。「救う会」による作文だ。

 早紀江さんの2回目のコメントには写真を「今後も出しません」とある。だが日本テレビは横田家にある写真を複写した。川崎市のバス(22年6月まで)、新潟市のバス(同10月)にはモンゴルでの写真が掲示されている。いずれも横田早紀江さんが提供した。5月の国民集会で早紀江さんはモンゴルでのウンギョンさんとの出会いを「物語のような時間」で「幸せ」だったと語っている。ある知人には「あのモンゴルがなかったら、滋さんにはいいことが何もなかった」と饒舌に語った。だが再会を阻んだ勢力がいる。

 『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)の「おわりに」で事情の一端書いた。モンゴルでの写真問題について最小限のことを書いたのは、関係者による6年前の圧力で、横田滋さん、早紀江さんがあまりにもお気の毒だったからだ。「救う会」も「家族会」も、そして周辺の政治家たちも、横田夫妻の心の奥にある本音を知ろうとしない。私は人道問題から日朝交渉をこじ開けることができると思っている。それを閉ざしている者たちとはこれからも闘っていく。(2022/6/22 参議院選挙の公示日に)

横田夫妻とウンギョンさんの写真公開の真実

 6月23日は沖縄線の戦没者を悼む「慰霊の日」。

 今年は「平和の礎(いしじ)」に刻まれた犠牲者すべての名前を読み上げる取り組みが行われた。礎に刻まれた戦没者は、今年追加された55人を含め24万1686人で読み上げが終わったのは23日午前。1500人が参加して250時間かかったという。

 あらかじめ戦没者名簿と配信時間を各参加者に割り当て、12日から毎日午前5時~翌午前4時半、それぞれが自宅やカフェ、学校などからオンラインで、一人当たり10~500人を順番に読み上げた。参加者は保育園児から80代以上の践祚体験者におよび、米国、アイルランド、コロンビアなど海外から参加した人もいたという。
 22日からは平和の礎がある県平和祈念公園で夜通し読み続けられた。

 今年1月末に平和の礎を訪れたときを思い出す。

平和の礎。日本全国だけでなく米国、英国、朝鮮半島、台湾などさまざまな出身地の戦没者の名前が記されている。今年1月高世撮影

個人名が分からない犠牲者もいる

 誰それの妻、長男などと記された人々がいる。

 犠牲者の個人名を特定できないということは、その家族の成員の名前を知っている人たちがみな死亡したか行方不明になったこと意味する。いかにすさまじい惨状であったかを思って慄然とする。

23日夕刊の朝日新聞一面。左の写真は、22日平和の礎の前で名前を読み上げる高校生

 

朝鮮半島出身者のコーナー。新たな名前が追加されていく

 

 この読み上げを聞いて、ウクライナで毎日多くの人々が亡くなり負傷していることを思い浮かべた人も多いだろう。

 犠牲者が「何人」と数字で報じられるが、えてしてそこには一人ひとりの生があったことに思い至らないだけに、全ての犠牲者の名前を読み上げる試みはとても意味があると思う。
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 有田芳生北朝鮮 拉致問題~極秘文書から見える真実』(集英社新書について、「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)の西岡力会長が論評したので、紹介したい。

 ネットニュースの「虎ノ門ニュース」6月7日放送で、西岡氏が百田尚樹、居鳥一平の両氏とともに座談。

www.bing.com


 番組開始から1時間40分ごろ、拉致問題の進展を妨げる国会議員がいる」有田芳生さんを取り上げ、「西岡さんによれば、拉致被害者家族の立場からするととても看過できない活動があるそうです」(居鳥)との紹介で本が登場する。

虎ノ門ニュース6月7日。西岡氏(左)と百田氏。番組提供はあのDHC

 この本に「見逃せない点があるそうです」(居鳥)とふられた西岡氏。「まだ中身を見ていないが」と断ったうえで問題点を三つあげた。

1.    非公開の政府調査の聞き取り内容を暴露した(西岡氏「ジャーナリストならスクープしてよいが・・」とも)
2.    聞き取られた5人の拉致被害者の了解をとっていない。
3.    「有田氏が横田家以外から入手してあたかも横田夫妻の依頼で自分が公開したかのようにみせかけた写真」(モンゴルでのウンギョンさん一家との面会時)を使っている。

  西岡氏はとくに3点目の写真の問題を強調した。

(西岡氏)「この写真は実は横田家は公開していないんです。(居鳥氏「えーッ!」) 

 なぜなら横田さんも帰ってきたとき公開したいと思ったけれども、孫が絶対に出さないでくださいと言ったと。だから自分達だけで眺めていたと。私も見てないです。

 ところがちょうど6年前、当時も改選だったんですが、『週刊文春』にこの写真を有田先生が出して、横田家から依頼されて出しますと、安倍政権がちゃんと取り組んでくれないんで世論を喚起するために出しますというト書きがついてたんです。

 だけど横田さんたちは『自分たちは孫との約束があるから、出したいんだけど出さない』と。『有田先生は別のところから入手して、孫が出していいと言ったんですね、それは私たちは関知しません』と言ったんです。ところが横田さんたちに頼まれて出したというのはおかしいんじゃないかということなんですよね。」

(百田氏)「クズやね!」

(西岡氏)「だから2016年当時、横田さんたち手記をだしてるんです。」

 居鳥氏が6月9日の全国協議会ニュースで公開された横田夫妻の「手記」(コメント)全文を読み上げる

横田夫妻の手記(虎ノ門ニュース6月7日より)

(西岡氏)「横田さんたちがその写真を見たら、滋さんが撮った写真ではなくて、北朝鮮側が撮った写真だったんです。アングルが違う。有田先生は横田家からもらわないで、(北朝鮮から)もらった写真だということが明らかになったんです。それをここ(本)にも載せてる。

 つまり北朝鮮側はこの写真を有田先生に渡して、何らかの意図があるわけですね。それを公開してもらう。横田家は満足してると、こんなにニコニコしてると、良かったねと。(百田氏のプロパガンダに使われたんやね」との発言を受けて)という風に思われるんじゃないか。まあ、横田さんたちが写真を出していないのは事実なんです。」

(百田氏)「しかし、北朝鮮からもらった写真を流用したにもかかわらず、これを横田家からもらったと嘘をついたと」

(西岡氏)「まあ、そのように読めるようにね、横田さんに依頼されたというようなことが書いてあって。だから私どもは依頼してませんと。いうことになったわけです」

(百田氏)「これ、完全に北朝鮮のスパイですね」

(西岡氏)「横田さんご両親にも肖像権というものがあるわけですし。それはよしとしても、この写真を(有田氏が)持ってることは横田さんたちと近いとされる恐れがあるので、この写真を見る方は先ほどの横田さんたちの声明、お手紙も一緒に見て、有田先生の行動を評価してほしいと私は思います。」

そのあと、百田氏が獅子身中の虫やね」とコメント。

 百田氏のいくつかの短い「合いの手」が、この座談の結論を端的に言い表している。

 百田氏の「完全に北朝鮮のスパイ」のコメントなど、明らかに名誉棄損で訴えうるレベルの悪罵だが、その前提の西岡氏のコメント自体が事実を完全に誤認したものだった。
(つづく)