ウクライナ"空白地帯”の避難民

 N党の選挙戦術について大きな疑問があった。

 まず、参議院選挙公報のN党候補の文面。

 N党候補者の選挙公報より

《私は、おそらく当選できません。しかし、1票が約250円。つまり、選挙区と比例区の2票で約500円の政党助成金が交付されます。》
 これはいったい何だ??

 次に、東京都選挙区の立候補者34人中、N党から5人もが立候補していること。

 さらに、その5人のうち、公報ではっきりとN党と名乗っているのは一人だけで、他の4人はNHKについて触れもせず、別の政治団体を名乗るものもいる。

 疑問を持って調べようと思っていたら、「毎日新聞」が記事を出した。以下抜粋。

《N党は「NHKから国民を守る党」として臨んだ2019年の参院選で立花氏が比例で初当選(後に参院埼玉選挙区補選に立候補し自動失職)し、選挙区で3・02%の票を獲得して政党要件をクリアした。政党交付金は25年まで受け取ることができ、今回の参院選で2%以上を得たうえで所属議員を維持すれば28年まで延長される。
 総務省によると、22年にN党に支給された政党交付金は約2億1000万円だ。(略)

 N党は21年の衆院選に「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」の党名で挑んだが、選挙区で0・26%、比例で1・39%の得票にとどまった。「NHKをぶっ壊す」と連呼する立花氏の過激な言動や、度重なる党名変更でネット上の注目を集めようとしてきたが、19年の参院選ほどの勢いは見られなかった。

 そこで奇策に打って出たのが今回の参院選だ。
 東京で最多の5人、その他の選挙区では改選数と同じ人数を擁立。北海道、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡でもそれぞれ3~4人のN党候補をあえて立てた

 立花氏は5月27日の記者会見で「(選挙区で)当選したければ候補者を絞る。でも、当選を目的としなければたくさん出した方が有利だ」と強調。(略)

 党首が「当選を目的としていない」と断定する選挙区の候補者たちに、メリットはあるのか。
 選挙区で立候補するには供託金300万円(比例は600万円)が必要だ。立花氏は会見で、候補者がテレビやラジオで主張を伝える政見放送や新聞社の紹介記事、選挙管理委員会が発行する選挙公報を挙げて「300万円で得られる広告効果は計り知れない」と指摘した。

 一般的にメディアは選挙報道で政党ではない政治団体を「諸派」として扱っており、立花氏は自身のアイデアを「諸派党構想」と名付けてさまざまな主義・主張の人物に立候補を呼びかけたという。NHKを視聴したい人だけが受信料を払う「スクランブル化」実現などN党が重視する政策に賛同すれば選挙戦で何を訴えても自由とし、希望者が相次いだ。

 こうして集まった候補者は宣伝目的と割り切っているためか、わざわざ「私の当選は無理です」と宣言したり、選挙ポスターにN党の名前を書いていなかったりする人もいるほどだ。宇宙産業や炭作りの振興、内部告発者保護など訴えるテーマはバラバラ。比例では芸能人の裏話を「暴露」することで注目される国外在住のユーチューバーを目玉候補とした。(後略)》

 とにかく政党助成金を得るために、なりふり構わない手段に出るN党。立花氏自身も前回の「NHKをぶっとばせー!」の強面を引っ込めてソフト路線に転換している。

 しかし、選挙の本来の意味からは完全にはずれている。
 こんな手法を成功させてはならないと思う。
・・・・・・・

 出色のウクライナ報道を観た。 

 TBS『報道特集』(2日OA)の特集「ウクライナ”空白地帯”の避難民」で、私たちが見逃している戦争の現実を深く掘り下げる取材だった。

 ウクライナで故郷を追われて避難した人はおよそ1400万人とされるが、そのうち国外に逃れた難民は近隣国や国際社会が支援の手を差し伸べていて、取材でその実態も報じられている。それに対して、国内の避難民たちが置かれている状況は知られておらず盲点だったと思う。

 取材は日本のNGO「テラ・ルネッサンス」(小川真吾理事長)によるウクライナの国境にあるザカルバッチャ州(ルーマニアハンガリースロバキアと国境を接する)の避難民支援に密着した。

 この州には38万人が東部など他の地域から避難してきた。国境地帯は、国外に逃れることができない多くの人々の「吹き溜まり」になっている。

 なぜ国外に逃げないのか。例えば国民総動員令で国を出ることができない18歳から60歳までの男子が家族にいて、別れ別れになりたくないと思う人々がいる。また、経済的な理由も大きい。避難民の64%が職を失うなか、収入なしで外国で長期間暮らすだけの貯えがないという人もいる。外国に出られるのはむしろ恵まれた人々だということもできる。

 この州はウクライナのなかでも貧しく、支援を必要とする地域で、取材に入ったところでは水道も引かれていなかった。避難民は十分な支援なしに、民家や賃貸アパート、宿泊設備のない公共施設などに長期滞在を余儀なくされている。

ウクライナでも貧しい地域だという。馬車のある風景は10年前訪ねたキーウ北方の農村を思い出させる

 しかもここは国際的な支援が入ってこない「空白地帯」で、避難民には地域の行政機関から1日おきにパンが配られるだけで牛乳も肉も手に入らないという。

 あるべき支援について考えさせられたのは、ある雑貨屋に避難している16人の避難民に対する「テラ・ルネッサンス」の活動だった。
 この雑貨屋は店の建物を避難民の宿泊のために提供しているが、キッチンもシャワーもない。そこに小川さんたちは冷蔵庫、洗濯機、食糧、医薬品さらにはテレビを持ちこみ住環境を改善しようとする。
 さらに小川さんたちは、避難民の心の問題にも配慮していく。
 避難民のなかに2歳の娘を連れたリューダという18歳のシングルマザーがいた。父は予備役として家に残り、母と3人のきょうだいと共に避難してきたという。リューダは学校で調理を習っていたがそれも中断し、今は何の希望もなく避難生活を送っていた。

18歳のシングルマザー、リューダ。2歳の娘アリサと(報道特集より)

夢は持たないように暮らすしかなかった

 アフリカなどで17年間支援活動を行ってきた小川さんはそんなリューダの気持ちに寄り添う支援を提案する。それは調理を勉強した経験を活かして炊き出し活動に参加することだった。

 これは支援を受ける本人が社会参加して対価を受け取るCSCs(社会貢献型現金給付支援)というもの。

 小川さんは、長期に支援に頼る生活をした人たちが無力感に襲われたり、存在意義を見失ったりして、自立して社会復帰することが難しくなる事例をたくさん見てきたという。

 将来のウクライナの復興まで見据えて、避難民一人ひとりに前向きに生きることを促す活動を行っていることに私は感銘を受けた。

 いまリューダは週2回、避難民や地元の貧しい人たちに暖かい食事を提供する「仕事」をしている。彼女がこれをきっかけに希望を持ちながら生きていってほしいと思った。

炊き出しでスープを配膳するリューダ

 爆撃や戦闘の激しいシーンだけでは分からない戦争の悲惨さをこの特集は教えてくれる。取材は私も知っている菊地啓さん(日本電波ニュース社という若手のディレクター。若い取材者たちがこの戦争のリアルな実態を追及することを応援したい。

 なお、テラ・ルネッサンスについては以下。

私は『テラ・ルネッサンス』という漫画を数年前に読んで、よくやっている団体だなと感心した。漫画では小川さんは当時のウガンダ担当で登場している