トランプ政権、ICC本体への制裁へ

 米トランプ政権が、国際刑事裁判所ICC本体への制裁を科すというアメリカが国際機関や国際協定から脱退、離脱するのはもう驚かないが、これはもう信じがたい暴挙。

 ロイター通信は22日、トランプ米政権が週内にも国際刑事裁判所(ICC、赤根智子所長)に制裁を科す方向で検討していると報じた。米兵やイスラエル高官の戦争犯罪を追及するICCへの報復措置とみられ、実施されればICCの活動に支障を来すのは必至だ。

 トランプ政権はこれまで、ICCの裁判官や検察官らへの制裁を発動してきたが、ICCそのものへの制裁は行っていない。

 制裁対象に指定された場合、米国内の資産が凍結され、米国人との取引などが禁止される。ICC職員への給与支払いや銀行間の送金が困難になることが考えられる。ロイターによると、ICC側は既に年内分の給与を職員に支払うなどし、制裁措置への備えを進めている。

 ICCはトランプ政権1期目の2020年、アフガニスタンでの米兵の戦争犯罪捜査を主任検察官が行うことを容認。昨年11月には、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラエルのネタニヤフ首相らに対する逮捕状を出していた。【ワシントン時事】
https://sp.m.jiji.com/article/show/3614902

 

 いまウクライナやガザの事態を見るにつけ、世界は「法の支配」が崩れ落ちて、むきだしの「力の支配」がまかり通るかの様相を呈している。国際法の番人であり世界における「法の支配のとりで」といわれるのが国際刑事裁判所ICCである。日本はICCの最大の拠出国であり、日本人の赤根智子氏が所長を務めている。

 ICCは、集団殺害犯罪(ジェノサイド)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪という四つの重大な中核犯罪を犯した個人の刑事責任を追及する裁判所で、2023年7月にはロシアのウクライナ侵略における戦争犯罪の容疑でプーチン大統領に逮捕状を発布し、2024年11月にはガザの事態で戦争犯罪と人道に対する犯罪の容疑でイスラエルネタニヤフ首相に逮捕状を発布した。

 これに対し、ロシアは赤根智子所長を「指名手配」し米トランプ政権は二回にわたりICCの裁判官や検察官九名に制裁を科すという挙に出た。裁かれるべき側が、法の番人たる国際裁判所を攻撃し、存続の危機に陥らせている。とんでもない事態である。
以下の記事は8月の二回目の裁判官への制裁措置。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250821/k10014899211000.html

 これに対して赤根智子所長は、レッドラインを越えたと批判する。

レッドラインを越える攻撃と語る赤根氏(NHK

「制裁によって裁判官としての尊厳、要するに人間性を否定されたことで、本人たちは大きなショックを受けました。職務を遂行していただけで、OFAC(米財務省外国資産管理室)の制裁リストにテロリストと並んで名前を載せられたわけです」(赤根)

 検察官は自分で捜査の対象や範囲を決められるのに対して、裁判官は、検察官が請求した事件が自動的に割り当てられ、事実と証拠を見て逮捕状を出すかどうかを決めるだけだ。この受動的な立場の「裁判官への制裁など、本当に過去に例のないことです」(赤根)

 独立性が保障されるべき裁判官を一方的にテロリストのように扱って裁判所の運営を阻害することは許されないと赤根氏はいう。

「法の支配とは、相手が誰であろうと法を公正に執行でき、裁判所が外部からの影響を受けず、独立して法に基づいた裁判が行なえている状態です。裁判所に対する外からの圧力は、それに反します」(赤根)

 トランプ政権の制裁をより詳しく見ていくと、さらにあの政権の差別主義的な思考が見えてくる。
(以上、駒林歩美「法の支配を誰が守るのか」世界9月号を参考・引用)
(つづく)