トランプ政権、ICC本体への制裁へ⑥

 北朝鮮キム・ソンギョン外務次官は先月29日の国連総会一般討論演説で、「非核化を要求することは、主権と生存権の放棄、憲法違反を迫るに等しい」とし、改めて非核化は不可能との立場を鮮明にした。金正恩総書記が最高人民会議でおこなった、非核化は「絶対にあり得ない」との演説を受けたもの。(北朝鮮から派遣された高官が一般討論演説に登壇するのは2018年の 李容浩(リヨンホ) 外相以来、7年ぶり。19年以降は 金星(キムソン) 国連大使が登壇していた)

 ロシアのウクライナへの全面侵攻以降、国際法や国際的取り決めなどわが国に関係ない!と大っぴらに言える雰囲気になっている。

 先月、パレスチナ国家を承認する国が相次いだ9月21日から22日にかけて、イギリス、フランス、カナダはG7として初めて表明。そのほか、オーストラリア、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルク、マルタ、モナコアンドラサンマリノが新たに表明して約160カ国になった。日本がアメリカに遠慮して国家承認を見送ったのは情けない。

 ただ、9月23日の石破茂首相の国連演説は限界はあるけれど、過去の首相と比べてダントツに良かったと思う。内容、演説態度それに表情も。あれだけアピールする力があるのに、なぜそれを国会で発揮して自らの信念を政策化しないのか、と不思議だ。
30分以上の演説で、石破氏は国連改革から核軍縮まで語ったが、パレスチナ関連でははっきりとイスラエルを批判した。

演説する石破首相(23日)

「議長、パレスチナをめぐる情勢は、国際社会が長きにわたり希求をし、我が国も一貫して支持してきた『二国家解決』の前提を揺るがしかねない、極めて深刻で憂慮すべき局面にあります。今般のイスラエル軍によるガザ市における地上作戦の拡大は、飢餓を含む既に深刻なガザ地区の人道危機を著しく悪化させるものであり、我が国として断じて容認できず、この上なく強い言葉で非難をいたします。作戦の即時停止を求めます。イスラエル政府高官から、パレスチナの国家構想を全面的に否定するかのごとき発言が行われていることには、極めて強い憤りを覚えます。

 ガザの人々が直面する想像を絶する苦難を看過することは、断じて許されません。我が日本国は、これまでもガザの傷病者の方々の日本での治療を始めとする人道支援を通じ、常にガザの人々の命と尊厳に寄り添い続けてまいりました。これからも日本はあらゆる努力を尽くしてまいります。」(略)

 「我が国にとり、パレスチナ国家承認は、『国家承認するか否か』ではなく、『いつ国家承認するか』の問題です。イスラエル政府による一方的行為の継続は、決して認めることはできません。『二国家解決』実現への道を閉ざすことになる更なる行動がとられる場合には、我が国として、新たな対応をとることになることを、ここに明確に申し述べておきます。最も重要なことは、パレスチナが持続可能な形で存在をし、イスラエルと共存することであり、我が国は、二国家解決というゴールに一歩でも近づくような現実的かつ積極的な役割を果たし続けてまいります。」動画でどうぞ。

https://www.gov-online.go.jp/press_conferences/prime_minister/202509/video-302643.html


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 赤根智子ICC所長が、ICCレジリエンスを高めるために日本に期待する協力とは、まず日本が未署名の「ICCの特権・免除に関する協定」に加わることである。ICC職員に外交特権のようなものを与えて、日本が強く支援している姿勢を示すことになる。

赤根智子ICC所長(NHK

 次に、それをもとに、ICCの広報拠点となる事務所を日本に開設できるよう働きかけてほしいという。アジア太平洋地域で締約国は53カ国中19カ国と少ない。日本からの広報活動を通じて認知度が高まれば加盟国増加も期待できる。

 「ICCを知ってもらい、締約国を増やすことがICCを強くします。すべての国が加盟すれば、不法な裁判所などとは誰も言えなくなります。アジアの締約国を増やすのはそういった意味でも重要です。そのように穏やかで、しかし、しっかりと法の支配を標榜する形の応援が日本らしいと私は思っています」(赤根所長)

 もう一つ、日本に求められるのは、ローマ規程にある四つの中核犯罪を処罰できる法律の整備だ。

 ローマ規程(Rome Statute of the International Criminal Court)について書くのを忘れていたので、ここで説明すると、ICCを設立するための多国間条約で、1998年7月にローマで採択され、2002年7月に発効した。ICCの権限、管轄、構造、手続に関するすべての基本事項を定めている。ICCが裁くことができる管轄犯罪は、4つの重大な国際犯罪=中核犯罪で、ジェノサイド罪(集団殺害罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪だ。ICCが機能するための憲章と言える。(説明おわり)

 四つの中核犯罪を処罰できる国内法の整備だが、締約国の大半が、そのレベルはさまざまであるものの、既に整備している。例えばドイツは「普遍的管轄権」を行使して、ICC非加盟国のシリアの戦争犯罪人を国内の裁判所で複数人裁いている。普遍的管轄権というのは、被害者・加害者の国籍や行為の場所にかかわらず、外国で行われた重大犯罪を訴追する法的原則のことだ。

 実はICCは、国内の刑事司法制度が機能しない、または機能する意思がない場合に限って、これら重大な犯罪を裁くという「補完性の原則」に基づいている。中核犯罪を罰する法がない日本はICCに引き渡すしかない。それどころか、他国で戦争犯罪を犯した人が逃れてきても処罰できないため、日本が「中核犯罪者のセーフヘブン(安全な避難先)」になりかねないと赤根所長は懸念している。

 ICCの活動を支え、国際法が尊重されるようにしていくことは、世界のためである以前に日本の国益にかなうことであることを認識すべきだと思う。
(つづく)