トランプ政権、ICC本体への制裁へ⑤

 トランプ政権がまた、ベネズエラの犯罪組織の麻薬密輸船だとする船を攻撃し4人を殺害した。これは9月以降、4回目の攻撃になる。この船が本当に密輸船だったかの証拠は示されていない。トランプ政権は、麻薬密輸を通じた「アメリカへの武力攻撃」が行われていると主張し、犯罪組織と「非国際的な武力紛争の状態にある」として、攻撃を正当化する文書を連邦議会に通知したという。

 こうして勝手に「敵」をつくっては武力攻撃することを繰り返すと、その先に本当の大破局がやってくるのでは。つくづく恐ろしい時代になっていると思う。
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 孤立するイスラエルのネタニヤフ政権。こちらもいっそう強硬な姿勢を明らかにし、パレスチナ国家の設立を認めず、ヨルダン川西岸地区での国際法違反の入植地を急拡大させている。

ネタニヤフ政権はパレスチナ国家設立を阻止すると明言(NHK

ネタニヤフ首相の演説の前にごっそりと退場

 突然、ここを入植地にするから家も畑も立ち退けと言われ、住む場所も生計の手段も奪われて途方に暮れるオリーブ農家。この理不尽さは言語に絶する。

突然立ち退けと言われ困惑する農民(NHKより)

 「パレスチナ自治区」という呼称自体にも大きな問題がある。西岸地区はエリアA、エリアB、エリアCに分かれていることをご存じだろうか。

 エリアAは、行政も治安もパレスチナ暫定自治政府が担う西岸地区の18%を占める濃い茶色の部分で、エリコや、ラマッラ、ナブルスなどの都市が含まれる。

 エリアB22%を占める薄い茶色の部分で、行政はパレスチナ、治安はイスラエルが権限を持つ

 エリアCは行政も治安もイスラエルが実権を握っている白い部分で、これが半分以上、60%をしめている。見ればわかるように、エリアCがAとBを分断し取り囲んでいる。エリア分けを知らずにのっぺりとした地図を見て「西岸地区って結構広い」と勘違いする人が多いのであえて説明した。

 いまここで、国際法に違反する入植地の拡大が急速に進んでいる。

 特に東エルサレムに隣接するE1という約12平方キロの土地に3,400戸の住宅を建設する計画が進行している。ここが入植地になると、北のラマラと南のベツレヘムの間の交通が遮断され、将来のパレスチナ国家設立にとっても大きな障害になると懸念されている。

NHKより

 この入植地拡大を非難する国際社会の動きをトランプ政権が阻止。どこまで行くのか、この二人三脚。
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 イスラエルも米国もICC(国際刑事裁判所)には加盟していない。じかし、それでもICCの存在は無視できない。

 イスラエルネタニヤフ首相は国連総会演説やトランプ大統領との会談のため、24日にイスラエルからアメリカに向かったが、搭乗する航空機が、欧州の上空を迂回する異例のルートをたどっていた

 

異常な飛行ルート

 通常であれば欧州数カ国の上空を飛行するが、今回は地中海の上空を縫うように飛行してジブラルタル海峡上空を抜けるルートをとった。戦争犯罪の容疑で逮捕される事態を免れる目的で遠回りしていたと思われる。ICCは昨年11月、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑でネタニヤフ首相の逮捕状を出している。もしネタニヤフ首相の搭乗機が欧州のICC加盟国の上空を飛行した場合、強制着陸させられて逮捕される可能性があった。

 さて、2002年設立のICC国際刑事裁判所)は、初めての恒久的な国際刑事裁判所だ。加盟国が増えれば世界中に管轄権が及ぶ。

「この唯一の裁判所がなくなった場合、締約国はどこに訴えられるのか考えてください。あなたのところに戻ってくる問題ですよ」と赤根智子ICC所長は締約国や団体に締約国が増えるよう、ICCの活動を支援するよう訴えている。

 アメリカが同盟国に対してICC国際刑事裁判所)への制裁を支援するよう動くなか、赤根所長はこれに抵抗し、闘っている。その一つがEU欧州連合)がアメリカによるICC制裁に従わないことを求める「ブロッキング規制」の発動欧州議会の委員会で懇願した。

 「ブロッキング規則」とは、EUが米国の対キューバ制裁(1996年導入)や対イラン制裁(2018年再発動)など、EUの合意・承認なく第三国が一方的に科す制裁措置の域外適用から、EUの企業や経済的利益を保護するために設けられたもので、赤根所長はこれにトランプ政権のICC制裁を含めてほしいと言っている。この規則が適用されると、EU域内の企業や個人は、指定された第三国の制裁に従うことが禁止され、外国の裁判所などによる制裁関連の決定もEU域内では効力を持たなくなる。

 危機的状況にあるICCへの支援の声は、グローバルサウスからも多く寄せられている。今年1月、南アフリカとコロンビアを議長国とし、イスラエルパレスチナの紛争に関して国際法の判断を擁護する「ハーグ・グループ」(9カ国)が設立された。ICCやICJ(国際司法裁判所)の判決を擁護し、イスラエルによる国際法違反を止めるために団結し、意見を表明している。2月と6月にはトランプ政権のICC制裁を批判する締約国による共同声明が出された。

 日本はICCへの最大拠出国である。あからさまに国際法が蹂躙される時代、それ自体は誇らしいことなのだが、実質がともなっているかどうかだ。日本は米制裁に反対する6月の共同声明には加わったが、2月のものには署名しなかった。

 赤根所長は「ICCレジリエンスを高めるための協力」を日本に求めているレジリエンス(Resilience)とは、もともとは物体が外部からの力で変形しても元に戻る弾性を意味するが、転じて、困難や脅威に直面した際に、それにしなやかに適応し、速やかに回復・立ち直る力のこと。「回復力」「復元力」「弾力性」などと邦訳される。

 赤根所長が日本に期待する協力とは何か。
(つづく)
ICCぶついては、駒林歩美「法の支配を田絵が守るのか」世界9月号より引用)