プーチンの戦争目的は変わっていない

 近所の白梅が開いた。春の訪れが近く感じられる。

 焼酎を吞む日々なれど燗酒を今宵は飲まん「舟唄」思い (観音寺市 篠原俊則)

 コンビニでするめを買ってワンカップ今日はそれだけ亜紀さんしのぶ (大和郡山市 四方 護)

 舟唄を聴くしんしんと冬があり (越谷市 新井高四郎)

 11日の朝日歌壇、俳壇とも八代亜紀追悼の作が多かった。八代亜紀はとくにファンというほどではなかったが、音程が私にはちょうど合っていて、カラオケでは「もう一度会いたい」と「舟唄」を歌っていた。

 訃報におどろき彼女の歌をあらためて聴いてみた。弱い女が、すがって、捨てられて、泣いて、、というド演歌も多いが、「故郷へ・・」、「昭和の歌でも聴きながら」、「心をつなぐ10円玉」など色恋からは離れた歌にほろりとさせられた。

 八代亜紀追悼と並んで、こんな短歌も。

 「この下に人間がいます」と張紙し倒壊家屋の側で待つ家族 (防府市 山口正子)

 戦禍にて生後三日で逝きし子のたった三日も人生と呼ぶのか アメリカ 大竹幾久子)

 これが悲喜こもごもの世の中というものか。
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 ウクライナ戦争をめぐって動きがあった。

 まずゼレンスキー大統領が軍幹部を刷新するとして、ザルジニー総司令官を更迭した。いま内外の問題が山積しているなか、国民から最も信頼されるリーダーをはずすというのはかなりリスクがあり、今後が心配だ。

 ロシアではプーチン大統領に、トランプ氏の「同志」とされる米FOXニュースの元キャスター、タッカー・カールソン氏が2時間にわたってインタビューした。米欧や日本を含む「非友好国」からの単独取材は初めて。

 ここでプーチン氏は余裕たっぷりに2時間自説を語った。
 ウクライナ侵攻の「目的」は「あらゆる種類のネオナチの動きを禁止する」ことで、それは「まだ達成されていない」。「(欧米は)戦場でロシアに戦略的敗北を与えようとしてきたが、実現は難しいと理解しつつあるようだ」。「それに気づいたなら、彼らは次に何をすべきか考えねばならない。我々は対話の準備が出来ている」。そして米国に対して「本当に戦闘をやめさせたいのなら、武器の供給をやめる必要がある。そうすれば数週間で終わるだろう」と述べた。

 カールソン氏はFOXニュースの自分の番組で「米国はウクライナではなくロシアの側につくべきだ」などとロシア寄りの発言を繰り返し、トランプ大統領への支持を前面に打ち出してきたことでも知られる。プーチンの「数週間で・・・」の言葉は、トランプ氏の「大統領になれば24時間で戦争を終わらせられる」などという主張と響き合う。

 米上院では7日、ウクライナ支援を盛り込んだ法案の審議を始めるための採決が否決された。これはウクライナイスラエルへの追加支援とメキシコ国境からの不法移民対策を抱き合わせで盛り込み、妥協の末できた法案で、事前に与野党の交渉で合意していた。ところがトランプ氏が強く反対したため、当初賛成していた多くの共和党議員が反対に回って否決された。トランプ氏はウクライナ支援だけは認めないので、もめ続けることになる。

 カールソン氏のインタビューは、プーチン氏とトランプ氏の思惑が一致して西側のウクライナ支援の世論を掘り崩そうという意図だろう。ますますトランプに注意しなければならない状況だ。なにか謀略が裏で進行しているような、気持ち悪い気配。
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 6日の『朝日新聞』のオピニオン&フォーラム「戦争の語られ方」に作家の佐藤優が登場しておかしなことを語っている。プーチンの戦争目的が変わったし、ウクライナが負けるのは自明のことだから即時停戦すべしというのだ。

6日の朝日新聞朝刊

「(略)ウクライナが目標を達成できないことは相当の人がわかってきている。ならば一刻も早くこの戦争をやめるところにいくべきですが、そこはなかなかメディアが踏み込まない。今までさんざんあおってきたからです」

「これ(戦争)は2期に分かれると思います。境目は2022年9月30日にロシアがウクライナ東部ドネツク州など4州の併合を宣言したこと。それまでロシア側は、ウクライナ東部に住むロシア系住民の処遇をめぐる地域紛争との主張でした。他方、西側連合の考え方は民主主義対独裁。その意味で非対称な戦争でした」

「ところが4州併合によってロシアの目標があいまいになってしまった。と同時に双方が価値観戦争にしてしまった。終わりなき戦いです。価値観戦争は」

「一方で、プーチン大統領は勝敗ラインを明確にしなくなった。実効支配の領域が少しでも多ければ、当初目的は達成できたという形でいつでも停戦できるということです。(略)」

 

 私は年末のプーチン演説について

「14日に開かれたプーチン大統領の年末恒例の大記者会見では、笑顔でジョークをまじえ余裕しゃくしゃくの姿があった。ウクライナ侵攻の目的を聴かれたプーチンは、「我々の目的は変わらない。ウクライナの非ナチ化、非軍事化、中立化だ」と答えたが、これは侵攻時の「目的」そのまま。ロシアは侵攻をやめる気がまったくない。」と書いた。

takase.hatenablog.jp


 先のカールソン氏とのインタビューでも、戦争目的が変わっていないことは明白だ。

 この佐藤氏の妄論について東野篤子氏が一刀両断。

東野氏のXより

《この産経新聞の記事(https://sankei.com/article/20240205-P6NE46NBKVPZFFG3WWLBKUPQDQ/)と、朝日新聞佐藤優氏のインタビュー(https://digital.asahi.com/articles/ASS254H0PS25UPQJ004.html)がほぼ時を同じくして掲載されていますが、両記事を並べて佐藤氏とプーチンの実際の発言とを比較すると、

 プーチン氏(産経記事)は「戦争目的は変っていない(非ナチ化、非軍事化、中立化)」であると明言し、佐藤氏(朝日記事)は「実効支配の領域が開戦時より少しでも多ければ、当初目的は達成できたという形でいつでも停戦できるということです」と述べています。

 佐藤氏はこれまで「一般人には読み解けないロシアの意図を、独自の情報源を通じて受取り日本に伝達する」役割を自認してきた方です。プーチンの意図が読めていないわけはないでしょう。プーチンが停戦の意図を持っているかのような主張は、コメントプラスで駒木さんが指摘なさっているように、控えめに言ってもミスリーディングです
そうであればこの佐藤氏の主張は、侵略の成果をなにひとつ損なうことなくロシアに与えるようウクライナに迫ること、そしてさらにロシアの意向に沿った停戦の許容を日本の言論空間に浸透させることが趣旨とみるのが自然でしょう。》

駒木明義氏のコメント


 そのとおり。そして佐藤氏の意見は、小泉悠氏のいう「が」の出てくる議論の典型だろう。

 なお、産経新聞の記事には以下のような記述がある。

《(前略)プーチン氏は先月16日、ウクライナのゼレンスキー政権が対露交渉を否定していることについて「彼らが交渉したくないならそれでいい。だが、ウクライナ軍の反攻は失敗し、主導権は完全に露軍に移った」と主張。「このままではウクライナは取り返しのつかない深刻な打撃を受けるだろうが、それは彼らの責任だ」と述べ、ウクライナは早期に降伏すべきだとの考えを示した。

 さらにウクライナ全土からの露軍の撤退を前提とするウクライナの停戦条件を「法外な要求だ」と批判。「戦利品をロシアに放棄させようとする試みは不可能だ」とし、占領地域を返還しない意思を明確にした。

 プーチン氏は同1日にも「紛争をできるだけ早く終わらせることを望んでいるが、それはロシアの条件に従う限りでだ」と譲歩に応じない考えを強調した。

 プーチン氏はこの日、ロシアの考える停戦条件には言及しなかった。ただ、プーチン氏は昨年12月、侵攻当初からロシアの目標は「変わっていない」とし、具体的にはウクライナの親欧米派勢力の排除を意味する「非ナチス化」や、北大西洋条約機構NATO)加盟断念を指す「非軍事化」「中立化」だと説明。停戦にはウクライナがこれらの要求に応じることが必要だとプーチン氏が考えていることは明白だ。

 米シンクタンク「戦争研究所」も、プーチン氏の最終目標はウクライナを欧米から引き離し、ロシアの勢力圏下に置くことだと一貫して分析している。(以下略)》

 侵略戦争で獲得した領土は「戦利品」だというプーチン氏は、いったいいつの時代の頭を持っているのか。

 東野篤子氏の4原則、支持します。

ウクライナにいかなる問題があろうとも、軍事侵攻という手段を用いたロシアに明らかな非がある」

「侵略を受けたウクライナは支援されて然るべし」

「非難は侵略された側ではなく、侵略した側に対して行うべき」

「すべてはウクライナ国民の主権と意思と選択の問題」