ウクライナ侵攻でもっと議論を

 お知らせです。

 高世仁のニュース・パンフォーカスNo.26「プーチンとはいったい何者なのか?」を公開しました。

 今回の侵攻は「プーチンの戦争」と個人名を付して語られます。彼がどのような人物なのかを知ることは、今後のロシアの出方を知るうえで必須です。今回から連載で、私の取材をまじえながら、いま世界でもっとも注目されているプーチンの人物像に迫ります。
 今回はまず、プーチンがどのようにして権力の座についたのかを見ていきます。

www.tsunagi-media.jp

 
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 ゼレンスキー大統領がまた、国際舞台で存在感を見せた。

 17日に開幕したカンヌ国際映画祭の開会式に、ゼレンスキー大統領がキーウからオンラインでサプライズ登場。ナチス・ドイツヒトラーを風刺したチャプリンの代表作「独裁者」を引き合いに「戦争を前に映画が沈黙していないことを証明するには新たなチャプリンが必要だ」「独裁者は敗れると確信している」と強調。満場の拍手を浴びた。

NHKニュースより)

 人の心をつかむのがうまい。現在の世界のリーダーの中では、最もパフォーマンスに優れていると思う。苦しい中、国民を一つにし、国際的支持を得ていくうえで得難い資質をもつリーダーだ。

 会期中にはウクライナでロシア軍に殺害されたマンタス・クベダラビチュス監督の遺作「マリウポリ2」が特別上映される。

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 17日、マリウポリでの82日間の戦闘の任務が終了したとしてアゾフスターリ製鉄所に籠城していたウクライナ軍が退避をはじめた。事実上の投降だ。

 ロシア国防省によると19日午前までに累計1730人が投降したという。ここはロシア側が「ネオナチ」として最も敵視したウクライナ内務省系の軍事組織「アゾフ連隊」が抵抗の拠点としていたところ。

 完全にロシアに包囲されて地下に潜む人々がどうなるか心配していたが、とりあえず、生きて出てきたことにほっとした。

 ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は18日、ロシアの支配地域に移送された捕虜の解放について「交渉は非常に難しいものになっている」と認めた。ロシア側が酷いことをしないよう、赤十字はじめ国際機関が監視してほしい。

篠田英朗氏が「もっと早く投降すればよかったのに」という橋下徹氏を批判。早く逃げるべき、投降すべきという論者はたしかに、敗戦時の日本のアナロジーで論じている

 

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 福田充氏と和田春樹氏の立場の違いがSNSで話題になっている。


 毎日新聞がこれについて記事を載せた。

《ロシア軍とウクライナ軍は即時停戦し、停戦交渉を正式に始めよ――。3月下旬、こうした主張を披露した声明が、ツイッター上で物議を醸した。声明を発表したのは、日本でロシアなどの歴史研究を担ってきた東京大の名誉教授ら14人。反発したのは、現在大学の一線で教壇に立つ若手の研究者たちだ。即時停戦を主張した先達に、若手が猛然と反対の声を上げたのはなぜか。双方に取材すると、正義や人権、戦争の終わらせ方などを巡り、研究者の間に横たわる世代間の溝が浮き彫りになった。【金森崇之】

「今回の戦争に対する報道のあり方についても、2人の考え方の違いは鮮明だ。
 和田氏は「防衛省のOBや軍事専門家がテレビで解説するのも構わないが、連日というのはどうか。若い研究者の人たちも、(ロシアを押し戻せなどの)同じような意見の人が多い。一色になってはいけません。もっといろいろな人の意見を取り扱うべきです」と訴える。
 一方の福田教授は「一つの意見が絶対的に正しいということはなく、違う意見も取り入れていくことは大切なこと」と、和田氏と同様の考え方を基本にしつつ、「しかし、許されない価値観があるということも日本人は学ぶべきです。例えば、『ナチスにも正義がある』と言うことは欧州では許されません。今回の戦争についても、悪いものは悪いとメディアははっきり言っていいのです」と一歩踏み込んだ。

 最後に、福田教授はネット交流サービス(SNS)で展開された今回の論争についてこう締めくくった。

 「和田さんの声明に端を発した世代間の闘争、主張が違う人たちの戦いは、ツイッター上で討論が見える化され、非常に興味深かった。こうして研究者らの議論が見える化されて、一般の人も比較検討しながら自分の理念や理想を構築し、更に最大公約数的な善を作り上げていくのは、民主主義が進化する一つの過程だと思うのです。研究者も政治家もジャーナリストも、今後もいろいろな意見を言い合ってダイナミックに交流していくべきではないでしょうか」》

とにかく早く停戦をという意見への石田氏の批判

 私は福田氏らの立場に賛成する。

 私の大学時代からの友人の水島朝穂(親しいので君と呼ばせてもらう)が、パネリストとして出る「戦争とメディア~21世紀の世界と日本国憲法~」というシンポジウムをネットで観た。メジャーな顔ぶれで楽しみにしていた。なお、水島君は憲法学者で、9条擁護論の第一人者だ。
【パネリスト】
加藤陽子東京大学教授・日本近現代史)/青木理(ジャーナリスト)/高橋純子(朝日新聞編集委員)/水島朝穂早稲田大学法学学術院教授・憲法学)
司会:藤森研(日本ジャーナリスト会議代表委員)
主催:学問と表現の自由を守る会 日本ジャーナリスト会議

www.youtube.com

 たしかによく調べてあって、とても勉強になったのだが、水島君のいくつかの発言が気になった。以下、大意。

#アゾフ大隊はマリウポリの市民を人質にしてロシア軍と戦った。だからあれだけ人が死んだ。NATOウクライナを人質にしてロシアと戦っている。バイデンはNATOを人質にして、プーチンとトランプと戦っている。

#軍需産業は10年に一度、兵器の在庫一掃と新規発注のために禅僧を必要とする。いまウクライナで在庫一掃をやっている。

NHKはじめメディアは同じ報道をして(日本人をウクライナに)同情させている。

#ロシアは東部から攻めると見られていたのに、バイデンだけは「北部から攻める」と言っていた。知っていたのに止めずにわざとロシアに攻めさせて相手の非を拡大させる手を使ったように見える。北部からの侵攻の一番のコーディネーターはバイデンだ。

#ゼレンスキーにも、ミンスク合意を守らない点で責任がある。

#ロシアのメンツを考え、追い込みすぎないことが大事だ。云々

 ちょっと驚いた。どっちもどっち、アメリア(と軍需産業)がウクライナにやらせている戦争、の見方になっている。この戦争はロシアがウクライナとではなくNATOと戦っているとの趣旨の発言は、プーチンがいつも言っているプロパガンダそのものではないか。
水島君の話のなかでは大学時代、先日大宅壮一賞受賞を紹介した樋田毅さんと同じ学年で、川口君が殺された日は、相模原補給廠に米軍戦車をベトナムに送るなと座り込みにいったと話していた。あの当時は彼もベトナムの抵抗戦争を応援したはずなのに。
水島君、いったいどうしちゃったの?

 私は意見が違うことでその人間を敵視することはしないようにしている。「罪を憎んで人を憎まず」はとても大事だ。左翼にも右翼にも友人がいるし、何時間激論しても友情が壊れたりしない。
 福田教授がいうように、議論するのはいいことだ。この機会に、戦争と平和憲法と安全保障、国際連帯と国際貢献、日本における自衛と国民の役割などさまざまなテーマで多くの人が考えるようになればいいと思う。

畑いじりをはじめて3年。今年はさやえんどうが豊作だ。