ウクライナで外国人ジャーナリストが殉職

 ウクライナで取材中の外国人ジャーナリストがロシア軍に銃撃され死亡した。

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ブレント・ルノーさん(NHKより)2014年、「ジョージ・フォスター・ピーボディー賞」を受賞した際の写真

 アメリカ人のブレント・ルノーさん(50)で、ウクライナの首都キエフの中心部から西に20キロほどの街、イルピンで取材中だった。他にも負傷した外国人ジャーナリストがいるという。

 ルノーさんはニュース記事を「ニューヨーク・タイムズ」などの主要メディアに寄稿したことがあるほか、映像作家としても活躍していた。

 兄のクレイグ・ルノーさんはNHKの取材に対し「彼はロシア兵に殺された。首を銃撃された。防弾チョッキを着ていたが、防げなかった。キエフから避難している人たちを撮影していた。彼は自分が伝えようとしていた人たちのことを気にかけていた。私たちは悲しみにうちひしがれている」とコメント。

 事件について、ユネスコ=国連教育科学文化機関のアズレ事務局長は「ジャーナリストは紛争中に情報を提供する重要な役割を担っており、決して標的にされてはならない。ジャーナリストとメディアで働く人たちが確実に保護されるよう、国際的な人道基準を尊重するよう求める」という声明を発表した。(13日)

 また、世界のジャーナリストの権利を守る活動をしている「国境なき記者団」も「深く心を痛めている。この攻撃がどのような状況で行われたのか明らかにするよう求める。ジャーナリストが戦闘の標的にされてはならない」とSNSで非難した。(13日)(NHKニュースより)

 昔は、紛争地では赤十字とPRESSのマークをつけている車両や人物は、紛争に関係しない第三者なので攻撃されないという暗黙の了解があったが、近年は逆に命を狙われるケースが多くなっている。

 都合の悪い事実を明らかにされるという理由で攻撃対象にされたり、シリアなどでISがジャーナリストを狙ったように、身代金目当ての誘拐・殺害も起きている。

 今回の詳しい事情がまだ不明なので断定できないが、ロシアで自由な報道が厳しい弾圧を受けていることを考えると、ジャーナリストと分かって狙った可能性もあると思う。

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兵士に食事を提供するレストランのボランティア。国民が一丸となってロシアを迎え撃とうとしている。(12日の「報道特集」遠藤リポートより)

 プーチンがなぜ今回のような、どこからみても理不尽と思われる戦争をはじめたのか。開戦前から問われ続けるテーマだが、軍事評論家の田岡俊次氏は成り行きでこうなってしまったとと解釈する。

【「キエフ制圧」でもロシアの泥沼は続く、アフガン、チェンチェンの二の舞いに】
田岡俊次の戦略目からウロコ)DIAMOND ONLINE
《(前略)
 プーチン大統領が、ウクライナ国境で大演習を展開した本来の目的はウクライナを威圧し、NATO北大西洋条約機構)加盟を諦めさせると同時に、ウクライナ東部のドンバス工業地帯をロシア支配下に置くことだったと思われる。
 この地域に多かったロシア系住民は、2014年のロシアによるクリミア併合後、「クリミアに続け」とロシアと一体化を目指して蜂起し、州政庁などを占拠、「ドネツク民共和国」「ルガンスク人民共和国」の建国を宣言、ウクライナ政府軍との内戦となった。
 分離派の民兵は3万5000人程度と見られるが、ロシアのひそかな支援を受け、兵力14万5000人のウクライナ政府軍に対し優勢となり、15年にベラルーシの首都ミンスクで調印された「ミンスク合意」では、分離派の支配地域に「特別な地位」(高度の自治権)を認め、選挙を行うことになった。
 だがウクライナ政府は当然不満で合意は履行されなかった。今回の侵攻の背景には、合意がほごにされていることへのプーチン大統領の不満があったことは確かだろう。
 ただ最初から侵攻をするつもりで国境に大兵力を集めたのかどうかは疑問だ。
 兵力15万人規模の演習自体はそれほど特異な現象ではない。ロシア軍は4軍管区の回り持ちで毎年大演習を行い、2018年東部軍管区(司令部・ハバロフスク)主催の「ボストーク2018演習」には中国軍、モンゴル軍も招いて30万人以上の大演習を行った。朝鮮半島での米韓合同演習も参加兵力が30万人以上になることがある。
 だが今回のロシアの演習は、ウクライナ国境に極めて近い地域で行われ、露骨な威嚇とみられたから米国は大々的にこの演習を非難し、「侵攻準備」と警鐘を鳴らした。
 それに支援されたウクライナのゼレンスキー大統領も強硬な反露姿勢を示した。
 プーチン大統領は、振り上げた拳が世界の注目の的となり、何の成果もなく軍を引き揚げれば国内で威信を失うから、ますます強硬策に向かったということだろう。(以下略)》
https://diamond.jp/articles/-/298528?page=2

 プーチンが、「振り上げた拳」が降ろせなくなって侵攻したとの解釈だ。田岡氏は以前からロシアが侵攻する公算は高くないと見ていたので、それと符節を合わせている。

 この解釈には賛成できない。

 以前のプーチンはもっと理性的な判断をしたのに、変わってしまったと語る識者も多いが、これもどうかと思う。

 チェチェンやシリアでは、きわめて残虐で理不尽なことを冷徹に実行してきた。これをもし「理性的」と表現するなら、プーチンは変わっていないと思う。

 今回の事態は、かねてからプーチンの信じるイデオロギーがさまざまな条件のもとで実行に移されたということではないか。そして戦場の実態も、これまでのプーチン流が貫かれているように見える。

 チェチェンでもシリアでも、病院を含む生活インフラを破壊し、住民を無差別に爆撃してとても住めない環境を作り出し、占領することを繰り返してきた。

 いまウクライナで一般市民の犠牲が増大しているのは、この方式が再現されているからだと思う。

 ブレント・ルノーさんの尊い殉職には深く感謝と哀悼を捧げるけれども、ウクライナにいるジャーナリストたちには、戦場のリアルな実態をより精力的に伝えてほしいと思う。