「おかしい」と感じたときに声をあげないと自由は狭められていく

 自民党安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティーを巡る事件で、東京地検特捜部は西村康稔経済産業相を任意で事情聴取した。西村氏は安倍派の実力者「5人組」の一人。他のメンバーの松野博一官房長官、高木毅前国対委員長世耕弘成参院幹事長、萩生田光一政調会長に加え、安倍派座長の塩谷立文部科学相も含めた中枢幹部計6人が聴取されたことになる。捜査は今後も広がっていきそうだ。

西村氏のX(ツイッター)のプロフィール写真。安倍氏と一緒を印象づけたいのか

 連日マスコミがこの捜査について精力的に取材しているが、そもそも端緒は去年11月6日の赤旗日曜版だった。主要派閥の不記載2500万円を調べ上げ、これを受けて神戸学院大学上脇博之教授が独自調査を加えて刑事告発したことが今回の検察の動きにつながった。

 しかし、赤旗の報道から1年近く、主要マスコミはこの問題を報じて来なかった。特捜部が動いて初めて食いついてきたのだ。きのうのブログで紹介したジャーナリストの青木理さんは、こんな捜査機関追随型の報道ばかりで、メディアは権力監視の責任を果たせるのか、と疑問を投げかけている。

 一方、ジャーナリズムの力を見せつけたのが、鈴木エイトさん統一協会取材で、早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した。

朝日新聞「ひと」欄より

 9月に「JCJ日本ジャーナリスト会議)大賞」に選ばれたことは本ブログに書いたが、重ねての受賞はすばらしい。

takase.hatenablog.jp


 彼は去年7月の安倍元首相暗殺事件で「時の人」になるが、好奇心と正義感から20年前に統一協会に関わり、細々とSNSで発信したのが出発点だった。2014年には、週刊朝日で安倍政権が選挙で教団の組織票に頼る実態をルポしたが、反響は乏しかった。

 エイトさんが20年もの間、主要メディアに発表できないままで、どうやって収入を得ていたのか、とても不思議だった。彼に親しい人に、不動産関係の仕事をしていると聞いたことがあったが、朝日新聞の「ひと」欄では、より具体的に競売物件をリフォームして貸し出す」仕事が生活を支えてきたと書かれている。取材が売れなくとも暮らしが成り立つとなれば、これは強い。生活のためにペンを曲げる必要はなくなる。ジャーナリズムのあり方が曲がり角に来ているいま、鈴木エイトさんの、「副業」をもちながらジャーナリスト活動をするというスタイルは選択肢になる。

「メディアが権力と教団の関係を監視できていなかったことが、不幸な結果を招いた」とエイトさんは言う。JCJ贈賞式でも同様に「もっとちゃんとメディアが報道していたら、安倍元首相の暗殺はなかったのではないか」と語っていた。大手企業メディアの記者よりもはるかにメディアの責任を正しく認識し、実践している。応援します。
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 年末に観た映画『ヤジと民主主義劇場拡大版』はとてもよかった。

yajimin.jp


 4年前、当時の安倍首相が参院選で札幌市に来て街頭演説に立ったさい、街頭でヤジを飛ばした市民が警察官に囲まれ、強引に移動させられた事件を題材にしている。映像を見ると、警察官が6人も7人も駆けつけ、強制的に身体を拘束する形で移動させている。ほとんど「連行」である。怖くなってくる。

ヤジを飛ばした桃井希生さんはすぐに駆け付けた警察官に排除された。写真に写っているだけで8人もの警察官がいる。2人の女性警官は桃井さんの腕をつかみ、拘束・連行しているように見える(映画の宣伝写真より)

 共産党の街頭演説にヤジを飛ばしても警察が阻止することはあり得ない。きのうのブログにつながるが、これは安倍一強のもとでの公安と政権との蜜月が起こした事件である。

 映画の監督は北海道放送HBC)報道部の山崎裕侍さんで、この元になったテレビ番組を私は観て感銘を受けていた。山崎さんはこう言う。

公安警察は普段から住民運動や労働運動の情報を集めています。「左翼だから」と敵視する声を聞いたこともあります。こうした監視は市民活動を萎縮させ、民主主義を根底から切り崩します。

 戦前の警察には集会を監視し、演説をやめさせる「弁士中止」の権限がありました。そんな時代がすぐに来るとは思いません。しかし「おかしい」と感じたときに声をあげないと、自由は狭められていく。見逃すわけにはいきません。(略)

 メディアの役割は権力監視ですが、簡単ではありません。警察の記者クラブでは、各社が捜査の動きをいち早くつかもうと競争します。警察内部に食い込み、ネタをもらう。警察を批判すると、情報をもらえなくなるかもしれない。ヤジ事件で警察を追求した地元メディアは一部でした。》
 
 この映画では2人の主人公=被害者がいて、その一人は、当時大学生だった桃井希生さん。「増税反対!」と声を上げただけで、すぐに警察官に肩や腕などをつかまれ、後方まで移動させられた。女性警察官らは、両腕に手を回して制止し、その後、桃井さんは1時間にわたって付きまとわれた。

 後になって、私の友人のフォトジャーナリスト、桃井和馬さんから、彼女が彼の娘だと知らされて驚いた。この事件で希生さんは、自ら民主主義の守り手にならなければと考えるようになり、大きく成長したという。頼もしい限りだ。

 どんどん暗い方に向かっているように見える世の中にも、必ず闘う人たちが現れる。彼ら彼女らにとって来年が良い年になりますように。