ウクライナ取材の現場から6

 私たちはウクライナ東部ドネツク州のクラマトルスクにいる。ドネツク州の東側はロシアに占拠され、プーチンは「ロシアに併合した」と宣言した。ドネツクの州都だったドネツク市もロシア側にある。結果、ウクライナではこちら側にあるクラマトルスクが事実上のドネツク州の「州都」とされている。

 市内のアパートに、同行のジャーナリスト、遠藤正雄さんと通訳と3人で宿泊しているのだが、実はこのアパートもミサイル被害を受けていた。被災アパートがそれだけ多いということでもある。このあたりのアパートは住民の多くが他の町に疎開し、2割ほどしか残っていない。高齢者ばかりで、朝夕数人のおばあさんたちが集まっておしゃべりしている。

アパートの表側。9階建て。

アパートの裏側。ロシア侵攻開始まもなくの去年3月6日にS300ミサイルの攻撃があり、ウクライナ側の防空システムで撃ち落としたさいに被害を受けたという。爆風でガラスが割れている。

中から。窓ぎわをビニールやベニヤ板で補修している。風が漏れて寒い。

 裏側の窓がやられ隙間風が入ってきて寒い。集中暖房が入るのは11月1日からだという。何とかしてと家主に訴えると電気ヒーターと追加の掛け布団を持ってきてくれた。しかし、二つの部屋でヒーターをつけ、電気ポットでお湯を沸かそうとしたらブレーカーが落ちてまっくらに。まあ、こういうトラブルも旅の面白さである。

 それにしても、このあたりにまたミサイルが落ちるとこまるな。一度砲弾が落ちたところには二度と落ちないと信じる兵士もいるそうだが、そのジンクスは効くのか?

 10月20日
 戦車部隊を取材する予定が、国防省のプレス担当からアポの1時間前になって「キャンセル」の連絡。後でわかったが評判の悪い担当者で、たぶん気が向かずにサボっただけのようだ。いまドネツク州だけは戦時の禁酒令が出ていてアルコール類はスーパーでも売っていない。でも蛇の道はヘビでいくらでも酒類は入手できるからプレス担当は二日酔いにでもなったのか。

 1時間前のキャンセルは常識外だと通訳が悪態をつきながら車を運転していたら、道路端に兵隊がたくさん集まっているのが見えた。日本語でいう「炊き出し」だ。リラックスした兵士の表情が見れておもしろかった。

あるキリスト教団体が、欧米に住むウクライナ人たちからの寄付で運営している。月に一度、前線近くの路上で、食料品、衣類、日用品を配る。一日千人ほどにサービスするそうだ。

コーヒーコーナーに並ぶ兵士たち

礼拝も

大鍋でピラフを作っていた。食べて行けと言われ、夕食に持ち帰る。

子どもたちから兵士への絵手紙。「国の守り手のみなさん、成功を祈ります。みなさんの希望がすべて叶いますように。祖国ウクライナに愛を込めて」(小3男子児童)

年配の兵士がいたので話を聞く。53歳。志願して軍に入った。上の息子は兵士になったが体を壊して除隊した。下の息子はまだ学生。 奥さんは心配してないですか?と聞くと「そりゃあ心配だろうね」と笑った。

前線に向かう装甲兵員輸送車。ここから前線までは車で15分くらい。

破壊されたガソリンスタンド。(車内から撮影) 工場、学校、病院、市場、ショッピングモール、発電所など暮らしを支える施設がピンポイントで破壊されている。 ロシアは「軍事目標だけを攻撃している」というが、「誤爆」ではありえない。コメント欄に工場の写真も コメント 高世 仁 いろいろ見てまわると、大きな工場はほとんどやられている印象だ。

大きな工場はほとんどやられている印象だ

バザールにクラスター弾が落ちたときのことを話す商店主。彼女の店の壁(指さす白い壁)が穴だらけだ。人を効率よく殺傷するための兵器だ。

小さい球が鉄板を撃ち抜いている。これはヒトを狙う兵器だ。

 前線の兵士にモノが届かないという話はよく聞く。ウクライナ政府の財政の問題もあるだろうが、庶民はみな、役人の「汚職」で兵士に必要なものが途中で消えているのだという。そこで民間の支援が何かと重宝がられているのが現実だ。

 コーヒー片手に笑ったりふざけたりする兵士たち。彼らは戦争を日常として生きている。

つづく