私たちはウクライナ東部ドネツク州のクラマトルスク市にいる。ドネツク州の東側はロシアに占拠され、プーチンは「ロシアに併合した」と宣言した。ドネツクの州都だったドネツク市もロシア側にある。結果、ウクライナではこちら側にあるクラマトルスクが事実上のドネツク州の「州都」とされている。
市内のアパートに、同行のジャーナリスト、遠藤正雄さんと通訳と3人で宿泊しているのだが、実はこのアパートもミサイル被害を受けていた。被災アパートがそれだけ多いということでもある。このあたりのアパートは住民の多くが他の町に疎開し、2割ほどしか残っていない。高齢者ばかりで、朝夕数人のおばあさんたちが集まっておしゃべりしている。
裏側の窓がやられ隙間風が入ってきて寒い。集中暖房が入るのは11月1日からだという。何とかしてと家主に訴えると電気ヒーターと追加の掛け布団を持ってきてくれた。しかし、二つの部屋でヒーターをつけ、電気ポットでお湯を沸かそうとしたらブレーカーが落ちてまっくらに。まあ、こういうトラブルも旅の面白さである。
それにしても、このあたりにまたミサイルが落ちるとこまるな。一度砲弾が落ちたところには二度と落ちないと信じる兵士もいるそうだが、そのジンクスは効くのか?
10月20日。
戦車部隊を取材する予定が、国防省のプレス担当からアポの1時間前になって「キャンセル」の連絡。後でわかったが評判の悪い担当者で、たぶん気が向かずにサボっただけのようだ。いまドネツク州だけは戦時の禁酒令が出ていてアルコール類はスーパーでも売っていない。でも蛇の道はヘビでいくらでも酒類は入手できるからプレス担当は二日酔いにでもなったのか。
1時間前のキャンセルは常識外だと通訳が悪態をつきながら車を運転していたら、道路端に兵隊がたくさん集まっているのが見えた。日本語でいう「炊き出し」だ。リラックスした兵士の表情が見れておもしろかった。
前線の兵士にモノが届かないという話はよく聞く。ウクライナ政府の財政の問題もあるだろうが、庶民はみな、役人の「汚職」で兵士に必要なものが途中で消えているのだという。そこで民間の支援が何かと重宝がられているのが現実だ。
コーヒー片手に笑ったりふざけたりする兵士たち。彼らは戦争を日常として生きている。
つづく