子どもたちの自殺を食い止めるには2

 大使館員はいち早く撤収し、日本からはるばる飛ばした大型輸送機2機で邦人一人と他国から依頼されたアフガン人十数人を運んだ、アフガンでの退避作戦を、今朝の朝日川柳はこう詠んだ。

輸送機はやめてセスナでよかったに (大阪府 小倉三歩)

大使館あとは見捨ててドバイ着 (神奈川県 高橋貞子)

棄民する国なりコロナもアフガンも (静岡県 飯田健彦)

 日本に協力した現地スタッフと家族からなる、置き去りにされた退避希望者500人が心配だ。日本が受け入れることにして進めることは可能だと思うが、政府はどうする?

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 9月は東京都を含む多くの自治体で、自殺対策強化月間になっている。

 東京都は「自殺総合対策計画~こころといのちのサポートプラン~」を作成し、「平成27年と比較して30%以上減少/自殺死亡率 17.4→平成38(2026)年までに 12.2以下/自殺者数 2,290人→平成38(2026)年までに 1,600人以下」と数値目標まで立てて取り組んでいる。 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/tokyokaigi/jisatsutaisaku_keikaku.files/zentai.pdf  
 その重点は、「広域的な普及啓発」「相談体制の充実」「若年層対策の推進」「職場における自殺対策の推進」「自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ」「遺された人への支援の充実」で、どれも反対するものはないが、これらは自殺したい人がたくさんいることを前提とした「対策」だ。しかし、そもそも自殺したくなくなる心をつくるという、いわば予防に踏み込むことが必要だと私は思っている。
 そして、学校でニワトリを飼って「生き物係」が世話して・・といったやり方では対応できないと思う。

 日本の若い人たちの自己肯定感が、世界的にみてもきわめて低いことは多くの調査で明らかにされてきた。

takase.hatenablog.jp


 若者の自殺をくいとめる基本はここで、「自分に自信がない」心をなんとかしなくてはならない。

 もっとも根本的なのはコスモロジーだ。コスモロジーとは、宇宙がどうなっているのか(秩序・条理・法則)を了解する、いわば「世界観」「宇宙観」だが、これは人生観と裏腹になっている。「生きる価値もない、つまらん世の中だ」という世界観なら、人生観も当然希望のないものになる。コスモロジー=宇宙観をどう作っていくかはこのブログでも何度か書いてきたが、きょうは個人レベルでの、より実践的なセラピーについて考えてみる。

 若者が自信を喪失している最大の原因は、行き過ぎた相対評価にがんじがらめになっていることだ。

 例えば、学校で勉強またはスポーツが「できる」と評価されるには、クラスの上位1割に入っていないといけない。そうなると「自分はできない」と思ってしまうのが9割。つまりほとんどの若者は、ずっと卒業まで、「負け組」と自分を卑下しつづけることになる。自分だけがそう思うのではなく、周りからもそう評価されるから、劣等感は強化される。

 社会に出ると、こんどは経済的「業績」で、他者、他社とつねに競争にさらされて生きていかなくてはならない。

 大人は「業績」、子どもは「成績」を基準に、相対評価され続けて、「自分には価値がない」と自信を喪失するのである。(なぜ現代日本でこの傾向が著しいのか―日本の文化状況、資本主義の特徴など―についてはきょうは触れない)

 つねに他との比較、相対評価にさらされることで失われた自信を取り戻すキーになるのは、絶対評価しかない。

 自信の構成要素としては大きく自己能力感(自分は~ができる)、自己価値感(自分が生きていることには意味がある)がある。つねに他人と比べて自分はできない、自分には良いところがないと思わされてきたのを、絶対評価でひっくり返すのだ。
 絶対評価で自分の能力に気づくセラピーについては以前ここで触れた。

takase.hatenablog.jp

 当たり前すぎていつもは気づかないが、「自分は何もできない」と自信のない多くの人たちにも、すばらしい能力がそなわっているのである。

 パラリンピックをテレビで見る機会が多い今は、自分がもつ能力の絶対評価に気づきやすい環境にある。

 目でものを見ることができる、耳で音を聴くことができる、歩くことができる、走ることができる、手で物をつかむことができる・・・さらには、呼吸することができる、食べ物を消化することができる、などなど。

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手がないので足でボールをトスし、ラケットを口にくわえてプレーする卓球選手(エジプトのハマドトゥ選手48歳)

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 これでどうやってスポーツ競技ができるのか、想像できない選手もいる。それにひきかえ、自分にはいろんな能力がしっかり備わっている・・これだけですでにありがたいことだ、とあらためて気づかされる。

 自己価値観については、岡野守也先生のワークショップのやり方を紹介したい。

 「自分のいいところ」をありったけ書くようにするワークをすると、自分のいいところなんて一つも思い浮かばない、一つも書けないという人がかなりでる。そこで、いいところを発見するよう手助けする。

《まず、「あなたはまじめです。まじめでなければ、こんなワークショップに来たりはしないですよ」と言う。しかし、自信のない人は自信がないという信念をもっていたりして、「私はそんなにまじめではない」とか「まじめすぎると言われます」などと言うことがある。
 それに対して筆者は、「そんなにまじめではないというのは、まるでまじめではないということでしょうか、それとも少しはまじめだということですか」と聞いたり、「まじめすぎるのは、まじめさがないということですか」と聞いたりすることにしている。そして、多くても少なくても、すぎてもすぎなくても、「あるものはある」と気づいていただく。
 そのうえで、「あなたにはまちがいなく、まじめさといういいところがある」と強く指摘するのである。そうするとたいていの人が、「そうか、私ってまじめなんだ。いいところがあるんだ」と気づいてくださる。
 同じように、「好奇心」や「積極性」、「行動力」や「理解力」、そして「向上心」があることを指摘する。「好奇心がなければこんなところに来たりしないよね」とか、「積極性がなければわざわざ参加したりしないでしょう」などと言う。(略)そして何より、「向上心があったからこそこんなことを学ぶ気になったんでしょう。向上心は、長所の中でも特に長所です」と強調する。》岡野守也『生きる自信の心理学』PHP新書P244-245)

 ワークやセラピーの手法はさまざまでいいが、自分を人と比べることなく、絶対評価することで認めていく。ナンバーワンではなくオンリーワンの自分を発見していく。

 こういうセラピーを、何らかの形で学校教育に取り入れられないものだろうか。