日本の若者の心に関して気になる情報が目に付く。
例えば、不登校の生徒の急増だ。去年10月に文部科学省が公表した「令和3年度(2021年度)児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、2021年度は前年度比で不登校生徒が5万6747人(23.7%)増加し、総数は29万5925人と30万人に迫ったという。不登校がいちがいに“悪い”わけではないが、この結果は自己も他者も肯定できずに悩む生徒たちが増えていることを示唆する。
また近年、若者の自殺が増加傾向にあると報じられている。ほんとうに痛ましい。日本には「自殺対策基本法」があり、自殺対策には予算がついて行政も動いているのだが、これには限界がある。「命の電話」など、実行寸前で自殺を思いとどまらせることは、もちろん大事なのだが、あくまで応急措置である。「自殺したい」などと思わないような心を育てることにこそ、社会の目を向けたいと思う。
日本財団の18歳意識調査(2019年実施)を見ると愕然とする。日本の若者が、自身についても、自分の国についても、断トツに悲観的なのだ。自己肯定感の無さということなのだろうか。病的な感じさえする。
若い人の死亡理由で自殺がもっとも多いのも、この意識状況と関係しているに違いない。
若者のせいにするつもりはなく、問題は、こういう世の中、こういう国柄の中で育ち、生きているうちに身に付いたコスモロジー(ざっくり言うと世界観プラス人生観)にあると思う。そこで、以前から若者向けコスモロジーの必要性を考えてきた。
私はサングラハ教育心理研究所のコスモロジー・セラピー・インストラクターとして、若者向けセラピーの一つのひな型を自分なりに作ってみたいと思う。
コスモロジー・セラピーとは―
「空虚感、孤独感、不安感、焦燥感、絶望感といったネガティブな感情は、状況によって誘発されはしても、実は根本的にはネガティブな宇宙観・コスモロジーから発生している」ととらえ、「ネガティブからポジティブへ、科学的根拠によってコスモロジーの根本的転換を促し、ニヒリズムに脅かされている現代人の心を根っ子から癒す」セラピーである。(サングラハ教育心理研究所HPより)
ということで、不定期連載でお届けする。ご感想、ご意見をお待ちしています。
高校生くらいの知識レベルで理解できる内容とし、私が、宙(そら)くんという架空の高校2年の男の子―私の甥っ子―に語っていくという設定で進める。
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宙くん、新年おめでとう。去年の正月に会ったきりだから、1年ぶりだね。どう、調子は?
へこんでるって?コロナでサークル活動もまともにできなかったし、友だちができない。そうか、大変だったね。自分が孤立してるみたいで、生きる気力がわかない、か。
コロナ禍で、宙くんみたいに孤独を感じている人の割合は、日本の全世代平均で37%。20代の若い人が一番高くて42%もいるそうだよ。(NPO法人「あなたのいばしょ」のコロナ下での人々の孤独に関する調査より)
もし、宙くんがよければ、ぼくの話を聞いてみない。どんな話かって?
「宙くんはどうしてここにいるのか」。
笑ってるね、おかしい?自分はなぜ生まれてきたんだろう、何のために生きてるんだろう、そういうのを大まじめに考えてみようってわけ。変な宗教にさそうつもりじゃないから(笑)、安心して。
遠回りなようだけど、心が元気になれると思うんだ。どうかな?
《私たちの体は何でできているのか》
じゃあ、始めようか。
きょうはまず、宙くんもぼくも、みんな「宇宙の子」だっていう話をしよう。まさか、って顔してるね。まあ、これからそのわけを話していくから聞いててね。
ぼくたち人間は、体と心でできているよね。とっかかりにまず、体は何でできているのか、考えてみようか。
宙くんの体は、筋肉、脂肪、血液、骨といろいろなものでできているよね。これらを元素にまで分解していくと、おもに水素、炭素、酸素、窒素の四つになる。この四つの元素で、体重の96%を占めてるらしい。
で、クイズだけど。こういう元素はどうやってできたのでしょうか。
初めから超難問で、ごめんね。これを知るには宇宙の歴史をたどらないといけない。
宇宙には“始まり”があるって知ってるね。そう、ビッグバン。138億年前に、宇宙は“無”からポンと現れて、目に見えないくらい小さいところから一気に拡大して、広がって広がって広がり続けて、今のような大きな宇宙になった。
生まれたばかりの宇宙には、”物質“なんてものはなかった。えっ、何があったのかって?そこ、大事なとこだから、じっくりやるね。
《数千億の銀河がある宇宙》
その前に、宇宙がどのくらい大きいか、ちょっとイメージしてもらおうかな。
ぼくたちのいる地球は太陽系のなかにあるね。太陽系は天の川銀河という銀河のなかにある。銀河はたくさんの星々の集団で、この天の川銀河には太陽のような恒星だけで2千億から4千億個もあるといわれている。渦を巻いて円盤みたいに平べったい形をしてる。
このぼくたちの銀河、天の川銀河の直径はどのくらいあると思う?
あのね、答えは10万光年だって。1光年は光の速さで1年かかる距離。光の速度は秒速30万km。地球の一周は4万kmだから、1秒に地球七回り半の距離を進む。月は地球から38万km離れてるので、月光は1秒とちょっとでぼくたちの目に入ってることになるね。宇宙空間で一番速いのが光。その光のスピードで飛んでいって、天の川銀河の端から端まで10万年かかる。10年じゃないよ、10万年・・おそろしい大きさだよね。
でも天の川銀河は特別に大きな銀河じゃなくて、近くにあるアンドロメダ銀河という有名な銀河は、直径22万光年で1兆個の恒星があるそうだ。宇宙全体には、こういう銀河が数千億あることがほとんど確実になってる。数千じゃなくて数千億。
宇宙って、ぼくたちの想像を絶するくらい大きいんだね。
《“無”から現れた宇宙エネルギー》
こんなに大きな宇宙が“無”から現れたというのは不思議だね。え?“無”の前には何があったって?それは誰も答えられない。だって、この宇宙ができてはじめて時間も空間もできたんだから。
“無”から現れたばかりの極小の宇宙には、物質というものはなかった。何があったかって?そこにあったのは、莫大なエネルギー。これを宇宙エネルギーと呼んでおくね。はじめ宇宙は火の玉のようなエネルギーのかたまりだった。
「エネルギー保存則」って知ってるかな。エネルギーは形が変わっても総量は変わらないという物理学の大原則。例えば、水力発電所では、高いところにある水がもっている位置エネルギーが、落下して運動エネルギーに変わり、それがタービンを回すことで電気エネルギーに変換される。その電気エネルギーは送電線で送られてきて、ぼくたちの家で、光や熱のエネルギーとして使われる。途中で、摩擦や抵抗で減るけど、それを足し合わせると、前と後で、つまりはじめの水の位置エネルギーとそのあとのエネルギーで、総量は変わらないんだ。
宇宙規模で考えると、今の広大な宇宙全体のエネルギーを足し合わせた総量が、宇宙がビッグバンで一点から始まったときそこに集中していたことになる。信じられないけど、そうなってたはず。その一点に集中していたエネルギーが、どんなにエネルギーの形が変わっても今の宇宙の全エネルギーだってことは、エネルギーとしては宇宙ははじめから今までずっと一つってことだね。不思議だけど、そうなるね。
(つづく)