新型肺炎めぐって噴き出す「言論の自由」の叫び

 新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が止まらない。中国の専制的な政治体制が初期対応を誤らせたことは明白だ。これは「人災」だとして、体制批判につながる気配が出てきた。
 《改革派の弁護士や学者が李克強首相らに対し、言論の自由を求める書簡をインターネット上で公開した。感染の発生に早くから警鐘を鳴らした湖北省武漢市の眼科医李文亮さん(33)の死去を受けたもので、感染拡大を「人災」と批判している。》

 李文亮(Li Wenliang)医師(34)は、早くも昨年12月に新型ウイルスについて警鐘を鳴らしたが、湖北省当局から訓戒処分を受け、これ以上「違法行為」をしないとする合意書への署名を強制された。李医師は、今月1日にウイルス感染が確認されたこともSNSで公表していたが、6日亡くなった。

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李医師。いまSNSでは「英雄」である

 書簡は、《李首相や共産党ナンバー3で全国人民代表大会常務委員長の栗戦書(リーチャンシュー)氏、「全国の同胞」に宛て、8日に公開された。著名な人権派弁護士の王宇氏や北京大学法学部の張千帆教授ら改革派の弁護士や学者ら28人の署名が記されている。
 今回の感染の拡大について「言論の自由の圧殺が招いた『人災』だ」と指摘。「言論の自由の抑圧は社会にとって最大の災難である」と記している。その上で、思想や言論などが原因で処罰を受けた人の釈放や、自由な報道やネット上の自由な言論の開放などを要求。警察が李さんを訓戒処分としたことに対し、湖北省武漢市の責任者が公開謝罪することも求めている。》(朝日新聞 北京=高田正幸)

 2月6日を「言論の自由」の日にしようという声も上がっているとのことで、この動きに危機感をもった当局が弾圧に乗り出したという。

 また、高まる体制批判の声に対する検閲も強まっている。
 《6日夜、ウェイボーではハッシュタグ「李文亮医生去世」(李文亮医師が死去)が検索ランキングで首位となり、閲覧回数は10億回、コメント数は110万件を超えた。だがこのハッシュタグは7日朝までにトレンド上位20位から姿を消した。香港大学で中国の検閲パターンを研究している傅景華准教授はAFPに対し、「ランキングは操作されたようだ」と指摘した。
 傅氏によれば、李医師死亡のニュースの扱いは、中国共産党を批判し獄中死したノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏死去時に行われた検閲と「類似している」という。》(AFP)


 閲覧回数10億回!李医師が英雄視され、中国共産党への不満がわだかまるのを抑えようとしているのだろう。

 それにしても、弾圧、検閲で異論を抑え込もうとする権力に対して、声を上げ続ける人々がいることは希望であるし、尊敬に値する。日本からも連帯の思いを伝えたいものだ。

 国際的にも、新型ウイルスの対策会議から台湾を排除するなどの中国の対応が批判され、ようやく今日から台湾も参加することになった。
 《11日から始まった世界保健機関(WHO)の緊急会合に、中国の圧力でWHO会合から締め出されていた台湾の専門家も参加が認められた。
 台湾の専門家は「台北」からの参加と位置づけられ、テレビ会議の形式で参加が認められた。》(朝日新聞)

 

 中国がらみで映画の話を。
 『淪落の人』という香港映画が、今月から日本で上映されている。
 2014年の「雨傘革命」を支持し香港政府を批判したため、中国、香港の映画界から干された名優アンソニー・ウォン(黄秋生)がノーギャラで主演しているといういわくつきの映画だ。

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 「一国二制度」がゆらいで香港の自由が危機に立たされているが、それは映画界にも及んでいる。中国政府による検閲があるうえ、本土の資本を頼る合作映画が増加。急成長する中国映画と裏腹に香港映画は衰退しているという。
 仕事がなくなって経済的にも苦境に立たされたアンソニー・ウォンだが、32歳の新人女性監督による低予算映画『淪落の人』にほれこみ、ノーギャラで出演することに決めた。


 ストーリーは・・
 突然の事故で半身不随となった男がアンソニーが演じる主人公。妻とは離婚、息子とも離れて暮らし、人生に何の希望も抱けないまま、ただただ日々を過ごしていた。
 そこにフィリピン人女性が新米の家政婦としてやってくる。言葉も通じずに男はイライラを募らせるが、女性がある夢を追い求めていることを知った男はそれを応援しようと思い立つ・・というもの。
 人間っていいものだな、と素直に感動できる佳作だと思う。香港の四季の情緒も堪能できてとてもよかった。
 「ぴあ映画初日満足度1位」(2月1日ぴあ調べ)になったとか。お勧めです。

 

(有本恵子さん拉致の全貌、つづきは次回に)