安倍政権は日本の民主主義を食い尽くした

 「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐる問題で、東京地検特捜部はきのう21日、安倍氏本人から任意で事情を聴き、政治資金規正法違反(不記載)容疑で告発状が出された安倍氏を不起訴処分とする方針を固めたという。

 安倍氏は国会で説明すると言うが、自民党は、証人喚問はおろか、公開ではなく、非公開の議運委理事会でとの腹づもりだという。早いとこ、幕引きしようということのようだ。
 《19、20日朝日新聞社が実施した全国世論調査(電話)で、「桜を見る会」の夕食会の費用の一部を安倍晋三前首相側が負担していた問題について聞いた。この問題に対する安倍氏の国会での説明を「国民が見られる公開の場でやるべきだ」は70%、「そうは思わない」は23%だった》
 衆院調査局によれば、この件での安倍氏の「虚偽答弁」は118回に及ぶ

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よっ!虚偽答弁男!(NHKより)

 政治家の「民度」が問われる。
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 今年物故された方に、歴史家で東京大学の名誉教授の坂野潤治がいる。専門は日本近代政治史で、東大社会科学研究所長も務めた。

 10月14日に進行性胃がんで83歳で死去と死亡記事にあったが、『選択』7月号の坂野氏の巻頭インタビュー《安倍政権は日本の民主主義を食い尽くした》を読んでいたので、ちょっと驚いた。もう病気が進んでいたときだろうから、遺言のつもりで取材に答えたのではないか。そう思って再読すると、迫ってくるものがある。

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坂野氏

河井克行、案里夫妻が公職選挙法違反容疑で逮捕されました。

坂野:目を疑った。選挙制度の透明性はとっくの昔に確保されている。なぜこんなことが、よりによって今の世の中に出てくるのか。明治、大正、昭和の時代でも、封筒で現金を配るということはなかった。仮にカネを渡すのでも、もっと巧妙な手段があった。
 日本の政治家は本来、地方の選挙地盤と深くつながっている。一回限り、ポンと封筒に入ったカネを渡して、票を買おうという、こんな単純な社会は、日本にはなかった。この行為には倫理性のかけらもない。政治家が根無し草になったということだ。政治のどこかが狂っている。

安倍晋三政権のどこが間違っているのですか?

坂野:戦前と戦後の成果をすべて食い尽くしてしまったね。日本の民主主義は、第二次世界大戦後だけのものではなく、明治、大正、昭和と、戦前から長い伝統を持っている。
 安倍首相は「保守」を自任しているが、保守とは、いま日本の目前にある良き伝統を守ることだ。首相は、過去、または古代の「美しい日本に戻る」と言うだけで、それがどんな日本か判然としない。
 本居宣長復古主義のようなもので、首相が本当の保守であったことは一度もない。

戦後民主主義は失敗ですか?

坂野:そもそも戦前に民主主義がなかったという考えが間違っている。
 福澤諭吉は二大政党による政権交代について早々に論じている。
 1925年には、25歳以上の男性の普通選挙制が導入され、政友会や民政党政党政治も存在した。大正デモクラシーだ。戦前には、吉野作造美濃部達吉といった知識人、濱口雄幸高橋是清といった政治家が続々と現れた。今、こういうスケールの人たちは、どこにいますか?
 政治学者の丸山眞男さん(故人・東京大学名誉教授)が、「戦前の日本は真のデモクラシーではない」と唱え、戦後民主主義の寵児になった。
 ところが、戦争責任をすべて戦前の知識層に背負わせて、「民主主義は戦後になって生まれた」とすると、どうしても根っこのないもの、思想のないものになってしまう。「戦後民主主義」が当初言われたほど、輝かしいものにならなかったのもこのためだ。

―戦後世代は、「欧米型の市民社会」という概念も教えられました。

坂野:うん。ただ、今のトランプ大統領を見て、「米国は民主主義だ」と誰が思うのだろうか。最近の英国政治の動向を見て、「素晴らしい民主政治だ」とも思わないだろう。
 欧米のような市民社会がなくても、日本は「ないなりの民主主義」でやってきた。無理に「市民社会」を真似しようとすると、民主党政権のようになってしまう。

―今度、日本の政治が変わる可能性はありますか?

坂野:新しい政治リーダーとか、市民社会が誕生するとかは、ちょっと考えられない。民主党政権の誕生は、都市型野党にとって50年に一度の勝利だったが、思い切った政策を出せずに、守りに入ってしまった。
 日本の伝統的民主主義というのは、あまり魅力があるものではないが、国際政治の嵐の中で、なんとか生き延びていくのではないか。

 

 深い問題提起である。