NHKのデモニュース「差し替え」疑惑をめぐって

 4月8日に国会前で行われた大きなデモをNHKが報じなかったが、それは放送直前に「上」からストップがかけられた可能性が高い。

 これを朝日新聞編集委員の田玉(ただま)恵美氏が取り上げていた。

「NHK、国会前デモの放送を直前に差し替え 自主的判断というけれど」
2026年4月25日
https://www.asahi.com/articles/ASV4R1RS0V4RUPQJ00FM.html?iref=pc_extlink

井上樹彦NHK会長

 田玉氏はさらに取材を進め、NHK会長に再度質問して以下のコラムを書いた。

「デモの放送差し替え NHK会長「伝聞の情報にコメントできない」」
2026年5月30日
https://www.asahi.com/articles/ASV5X0GD3V5XUPQJ016M.html

《NHKが4月8日夜、憲法改正や戦争に反対する国会前デモの放送を直前に差し替えた話を前回ここで書いた。NHKはこれまでに肯定も否定もしていない

 報道局内に取材を続けると、変更のアナウンスがあったのは放送開始の約10分前だったことがわかった。代わりに流れたのは、夕方6時の全国ニュースで放送ずみの別の話題だった。新しいニュースが入ってきたわけでもなく、別の話題を優先させるべき事情があったわけでもないのに、こうした土壇場で差し替えるのは異例のことだという。

 放送を直前にとりやめたことがその後になって判明した以上、改めて経緯を確かめる必要がある。当日の判断に関与していないか、5月20日の定例会見で再び尋ねた。

 井上会長はこう語った。

 「ニュースの判断とか放送の判断というのは、放送局のもっとも重要な大事なところなんですね。そういったことについて、こんな話があった、こんなことを聞いてる、これはどうかというふうなですね、そのこと自体が事実かどうかも我々は確認できませんし、一つ一つ答えるということもできない。これは普通に考えていただいたらわかると思うんですけれども」

 4月の会見では「(個別のニュースに)一つ一つ関与しているわけではありません」と述べていたが、5月になったら「答えることができない」に変わっている。

 報道機関が編集過程の詳細をむやみに明かせないのは私もわかる。時に権力からの介入を招くおそれもあるからだ。だがそうだとしても、「我々は確認できない」という言葉は引っかかる。何を確認できないのかと尋ねた。

 「田玉さんがなんかNHKの中のほうから聞かれたんでしょうか。途中で差し替わったとか、局長以上の判断じゃなかったのかとかね。そういうことは事実かどうか分からないじゃないですか。我々も確認できないし、そういうことについて、我々が言及することもできないということです」

 「あなたのおっしゃる情報がいかなるものかがわからない。だって、その場に田玉さんがいらっしゃったわけじゃないわけだから、そういったいわば伝聞の情報について我々がコメントできないということを言ってるわけです」

 差し替えがあったのか、誰の判断なのか。会長なら5分で確認できそうなものだが。ならば、デモを放送しなかったことを2人はいつ知ったのか、と質問を変えた。

 「私自身は……」と答え始めた原専務理事を井上会長が遮った。

 「いや、そういったこともここでお答えできないんですよ。だってそれ編集の話だから。我々が出したものがすべてなんです。ニュースも番組も。その中身がどういう背景があった、どういう経過があったかというのは、どこも言わないです。普通のメディアとしては情報源の秘匿と同様に、途中の編集判断というのは言わないです。それはもう普通のことですから」
(略)

 それにしても「伝聞の情報にコメントできない」という言葉には驚いた。

 井上会長は今年1月の就任にあたり「政治的圧力に屈したり、忖度(そんたく)したりすることは、報道機関の生命線を切り捨てること」だと述べている。まさにそこにかかわる重大な疑惑について、事実を知りうる立場の人だから聞いたのに、正面から答えない

 それは政治家が使うまやかしの話法だろう。公共放送のトップが平然と便乗するのを見て、暗く空しい気分になっている。》

 「伝聞の情報にコメントできない」とは、井上樹彦(たつひこ)会長の答えはまるで高市首相の国会答弁そっくりだ。彼はNHK政治部記者出身で政治部長までつとめたが、政治家の悪い性癖にまで染まっているのか。

 ところで、この日本で起きているデモを「みなさまのNHK」が国民に知らせない一方で、海外では広く報じられている。

「筆者は在英ですが、公共放送BBCもほかのテレビ局もデモの様子をよく報道しています。」(在英ジャーナリストの小林恭子氏)

 平野啓一郎氏(作家)は田玉氏のコラムについて

「こういうことは、社会がNHKを批判すべきなんです。じゃないと、内部の良心的な職員が孤立無援になってしまうから。世論の反発は、中でがんばってる人たちへの応援になります」と語っている。

 NHKは以前から政治的に機微なニュースや報道番組の放送直前に、上部が改変や取りやめを命じたことがあった。その後外部からの批判と呼応するように、内部から告発や抵抗の動きが出てきた。NHKの中にも、なんとかしなければと思っている職員はいるはずだ。今回の問題を機にNHKの権力忖度への批判を広げなくては、と思う。

 小熊英二氏(歴史社会学者)は「報道は信なくば立たない。報道の検証は、報道の信頼を維持するうえで大切だ」という。

 高市首相の中傷動画に関する疑惑についてもNHKの「政府広報」化が見過ごせないレベルにきている。国会での追求とともに、NHKはじめマスコミがまともな報道をしているかの批判・検証が重要である。