千鳥ヶ淵戦没者墓苑をめぐる

 東京は36度の猛暑。「危険な暑さ」のなか、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行った。実はきのう参拝しようと思ったのだが、着いたのが午後5時の閉門時間をわずかに過ぎて入れなかったのだ。私にとっては、ここに参拝にくることが年の一つの節目になっている。
暑さもあって、さすがに人影はまばらだったが、私がいた間に20人ほど参拝者があった。ちょっと意外なことに、若い人が多かった。

f:id:takase22:20190817152729j:plain

 千鳥ヶ淵前没者墓苑には、日中戦争および太平洋戦争の海外での戦没者240万人(軍人・軍属・一般邦人)のうち、引き取り手のない遺骨およそ37万柱を安置している。戦没者のうち、6割が戦病死・餓死だったとされる。戦場で勇敢に戦って散ったというイメージとは程遠い現実だった。あの戦争をはじめたことだけでなく、多くの兵士を無駄死にさせた無謀極まりない作戦指導もまた大きな戦争責任ではないか。
 戦没者の運命を思うと、幸運な世の中に生れあわせたことに身が引き締まる思いがする。私がフィリピンで「発見」した数百の遺骨もここに納められていることを思うとなおさらだ。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20080913
 千鳥ヶ淵前没者墓苑のことをあまり知らない人もいると思うので、ここで少し紹介してみたい。http://www.env.go.jp/garden/chidorigafuchi/
 ここはいわば日本版無名戦士の墓(軍属や民間人の遺骨もあるが)で、遺骨とは無縁な靖国神社とは性格を異にする。
 米国大使はじめ各国要人が献花に訪れ、皇室もここに参拝する。靖国神社には皇室は行かない。靖国神社は危機感を持っているようで、「靖国神社が昨秋、当時の天皇陛下に2019年の神社創立150年に合わせた参拝を求める極めて異例の「行幸請願」を宮内庁に行い、断られていた」というニュースが流れた。(13日、共同)

f:id:takase22:20190817152936j:plain

天皇皇后の花籠があった

 墓苑の施設の中心には六角堂がある。六角形の納骨堂である。中央の陶棺の下に戦域別の六部屋に分けた地下室があり、遺骨が安置されている。平成3年以降は増設された地下納骨室に納められるようになっている。

f:id:takase22:20190817155344j:plain

 昭和天皇御製の碑。御苑創建の昭和34年(1959年)に御苑のために詠んだ歌である。(書は秩父宮妃)
「くにのため いのちささげし ひとびとの ことをおもへば むねせまりくる」
 「むねせまりくる」は英語の解説文では”Our heart ache with with deep emotion”(心が痛む)となっている。深い反省の気持ちがうかがえる。

f:id:takase22:20190817155304j:plain

 上皇御製の碑。「終戦60周年を迎えるにあたり、新春「歌会始の儀」で詠まれた上皇陛下の御製」。(常陸宮妃の書)
「いくさなきよを あゆみきて おもひいづ かのかたきひを いきしひとびと」
 自分は戦争を知らないけれど、戦争の悲惨を忘れないようにしたいという思いが強かったのだろう。

f:id:takase22:20190817154427j:plain

 向かって左が「平和祈念碑」で、引揚に伴う死没者に哀悼の意を表するものだ。終戦の大混乱のなか、引き揚げ途中に20万人もが犠牲になった。いかに酷い極限的な状況であったかが偲ばれる。
 右は「追悼慰霊碑」で、強制抑留者の犠牲者を哀悼するもの。旧ソ連は約57万5千人の日本の軍人・軍属・民間人をシベリアや中央アジアに強制抑留し、過酷な強制労働に従事させた。極寒の劣悪な環境、栄養失調などで約5万5千人が犠牲になっている。
人々は戦場でだけ犠牲になったのではない。
 この墓苑をめぐると、「先の大戦」がもたらしたさまざまな側面の悲劇を知り、考えることができる。

 まだ参拝したことがない人はぜひ一度行ってみてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・
 千鳥ヶ淵墓苑から帰ろうと歩いて行ったら靖国神社に通じる通りで、黒服の集団が歩道に長い列を作っている。何だろうと近づいて話しかけたら、在日香港人たちだった。

f:id:takase22:20190817160148j:plain

 この近くに香港経済貿易代表部があり、香港警察の暴力行為に抗議しに行くと言う。日本人も加わっており、「ご一緒にどうですか」と声をかけられた。

f:id:takase22:20190817160344j:plain

 みなマスクをしているのは、中国当局による顔認証を怖れているのか。プラカードには「日本の若い人たちが花火を見ている時に、香港の若者は」「私たちの香港を応援してください」とある。
 応援します。