文春スクープに見る検察と新聞のなれ合い

 黒川弘務・東京高検検事長が、新型コロナで緊急事態宣言が出されている今月、全国紙記者らと賭け麻雀をした疑いがあると報じた『週刊文春』を買ってきた。

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 同誌によると、黒川氏は今月1日と13日、産経新聞社会部記者Aが所有する部屋で、同社の別の社会部記者Bおよび朝日新聞の元記者とも一緒に賭け麻雀をした。三名の記者は元検察担当で、黒川氏らは両日とも翌日未明まで滞在した。賭け麻雀は刑法の賭博罪に問われる可能性がある。
 また、麻雀をした際の黒川氏のハイヤー代は産経記者側が負担した。これは国家公務員倫理規定に抵触する可能性がある。

 

 この報道で、黒川氏は辞任に追い込まれた。
 これまでの法解釈を無理やり変更してまで定年延長を閣議決定した安倍首相は赤っ恥をかくことになった。
 文春の見事なスクープである。

 

 ところで、この報道を知って、検察と新聞との関係に驚いた人が多いのではないだろうか。そんなにズブズブの関係なのか!と。

 記事によると―
《黒川氏は昔から、産経や朝日はもちろん、他メディアの記者ともしばしば賭けマージャンに興じてきた。その際には必ず各社がハイヤーを用意する「接待マージャン」が通例だった。
「だいたいどの社も、仕事終わりの夜六~七時ごろからスタート。記者二人と黒川氏が連れてきた法曹関係者や検察の後輩の四人でやることが多かった」(司法関係者)》

 日本の検察や警察と記者クラブとの関係はきわめて独特で、「なれあい」といってもよい伝統的体質がある。

 

 以前、北海道警の「裏金」問題を取材したとき、ジャーナリストの大谷昭宏さんと元北海道釧路方面本部長の原田宏二さんに対談してもらった。そのとき、裏金の使途についてびっくりするような証言があった。

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原田「もちろん飲み食いもありましたが、裏金のなかで一番大きな額を占めたのは、年に2回の異動のさいの餞別だと思います。上は道警本部長から下は駐在所の巡査まで、おそらく一人残らず餞別システムの恩恵を受けていたんですよ。
 僕が総務課長だったときのこと。本部長室で辞令交付やるんですが、警視以上の所属長クラスがズラッと来ますね。本部長室に入りきれないくらいです。本部長が一人ひとり、辞令を渡すとき、その横に僕が立ってるんです。本部長の机の上に、辞令の順番通りに餞別の入った袋が、ダーっと並んでいるんです。そして、本部長が辞令を読み上げるときに、こちらに手を出すので、私がのし袋を手渡すんですよ。」

 階級が上に行くほど、餞別の額は大きくなり、本部長3年やれば家が建つなどと言われるそうだ。
 すると大谷さんがこういった。

大谷「だけどね、新聞記者もね、本部長とか課長クラスから餞別もらってましたから」

原田「我々だって、渡してました」

大谷「そうでしょ。ということは、俺らもかなり裏金もらってるよ。僕の場合は、本部長、刑事部長、捜査一課長、みなくれましたからね」

 硬派ジャーナリストとして知られる大谷さんでも、警察から「かなり」の裏金をもらっていたとは。 

 現金でもらう以外に、記者クラブと警察との定例の野球大会などのレクリエーション、飲み会などさまざまな機会に「裏金」で便宜がはかられたという。
 警察と記者クラブとが異様な癒着関係にあることを示している。

 裏金は公金であり、国民の税金を山分けしているということだから、とんでもない話だ。

 検察にも裏金の慣習がある。警察と同じように、捜査費が裏金になって、ゴルフや飲食費などに使われていた。

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 かつて、検察の裏金システムを実名で内部告発する決意をした大阪高検公安部長の三井環氏は、テレビ朝日週刊朝日とのインタビューを予定していたちょうどその日に、詐欺罪で逮捕され、懲戒免職になった。
 裏金は触れてはならない存在なのだ。恐ろしい話である。

 今回の文春のスクープは、検察においても警察の場合と同様、記者らとのなれ合いの構造が続いていることを推測させる。

 新聞、テレビなどのメディアが、こうした関係を清算しないと、権力の闇に関するスクープはもっぱら雑誌からという情けない、そして民主主義にとって危うい事態が続くのではないか。