ロッキード世代からの「検察庁法改正案」批判

 空地を占拠した赤クローバー=ムラサキツメクサ

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 日本には牧草として明治時代に入ってきたという。当時はハイカラな草だったのだろう。植物の素性、日本に入ってきた歴史を知るのもたのしい。

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 こちらは園芸種でバラのカクテル。
 遠くからも目立つ快活な花で、思わず自転車を停めて見入った。
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 自粛期間を利用して、ツンドクだった本を読み始めた。

 以前からイリヤ・プリゴジン(プリゴジーヌとも、1977年ノーベル化学賞受賞)の「散逸構造」の理論を勉強したいと思っていた。生命だけでなく物質も自己組織化、自己複雑化するとなると、宇宙の歴史が一変する。

 エリッヒ・ヤンツ『自己組織化する宇宙』(工作舎)(600頁を超す分厚い本!)にとりかかったが、熱力学第二法則やらエントロピーがどうしたという話やら出てきてすぐにつまづいた。
 そこで、Youtubeの「ヨビノリ」(予備校のノリで学ぶ)の講座で熱力学をにわか勉強。その後も量子論など、未知の話が出るたびにネットで調べ物をしてなんとか本にくらいついていったら、40頁目あたりから俄然面白くなって、きょう300頁を超えた。

 さらに勉学意欲が沸いてきて、佐藤勝彦相対性理論から100年でわかったこと』(PHP)とリサ・ランドール『ワープする宇宙~五次元時空の謎を解く』(NHK出版、これも600頁超)、スチュアート・カウフマン『カウフマン、生命と宇宙を語る~複雑系からみた進化の仕組み』(日本経済新聞社)を並行読みしている。

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 いま好奇心が爆発している状態で、こんなに勉強意欲が出てくるのは人生初めてかもしれない。どうしたことだろう。
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 「検察庁法改正案」が衆議院内閣委員会で審議入りしたが、ネットでは「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグで、今日までに900万件以上のツイートがあったという。
 15日には、松尾邦弘・元検事総長ら検察OB14人が法案に反対する意見書を法務大臣に提出し記者会見した。異例のことである。

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意見書提出後に記者会見する清水勇男・元最高検検事(手前)。奥は松尾邦弘・元検事総長

 この意見書には、「フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる」など痛烈な批判の言葉が連ねられている。

 ここまでの行動に出るには、このままでは亡国への道になるとの危機感、悲壮な覚悟があったのではないか。

 意見書には、「今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺ぐことを意図していると考えられる」とした上で、最後にロッキード事件の捜査について触れている。

 私もロッキード事件当時の記憶を呼び起され、モリカケはじめ今の腐敗臭ただよう政治が正されずにいることに感慨を覚えた。その部分を紹介したい。

 かつてロッキード世代と呼ばれる世代があったように思われる。ロッキード事件の捜査、公判に関与した検察官や検察事務官ばかりでなく、捜査、公判の推移に一喜一憂しつつ見守っていた多くの関係者、広くは国民大多数であった。

 振り返ると、昭和51年(1976年)2月5日、某紙夕刊1面トップに「ロッキード社がワイロ商法 エアバスにからみ48億円 児玉誉士夫氏に21億円 日本政府にも流れる」との記事が掲載され、翌日から新聞もテレビもロッキード関連の報道一色に塗りつぶされて日本列島は興奮の渦に巻き込まれた。

 当時特捜部にいた若手検事の間では、この降って湧いたような事件に対して、特捜部として必ず捜査に着手するという積極派や、着手すると言っても贈賄の被疑者は国外在往のロッキード社の幹部が中心だし、証拠もほとんど海外にある、いくら特捜部でも手が届かないではないかという懐疑派、苦労して捜査しても造船疑獄事件のように指揮権発動でおしまいだという悲観派が入り乱れていた。

 事件の第一報が掲載されてから13日目の2月18日検察首脳会議が開かれ、席上、東京高検検事長の神谷尚男氏が「いまこの事件の疑惑解明に着手しなければ検察は今後20年間国民の信頼を失う」と発言したことが報道されるやロッキード世代は歓喜した。後日談だが事件終了後しばらくして若手検事何名かで神谷氏のご自宅にお邪魔したときにこの発言をされた時の神谷氏の心境を聞いた。「(八方塞がりの中で)進むも地獄、退くも地獄なら、進むしかないではないか」という答えであった。

 この神谷検事長の国民信頼発言でロッキード事件の方針が決定し、あとは田中角栄氏ら政財界の大物逮捕に至るご存じの展開となった。時の検事総長は布施健氏、法務大臣は稲葉修氏、法務事務次官は盬野宜慶氏(後に最高裁判事)、内閣総理大臣三木武夫氏であった。

 特捜部が造船疑獄事件の時のように指揮権発動に怯えることなくのびのびと事件の解明に全力を傾注できたのは検察上層部の不退転の姿勢、それに国民の熱い支持と、捜査への政治的介入に抑制的な政治家たちの存在であった。

 国会で捜査の進展状況や疑惑を持たれている政治家の名前を明らかにせよと迫る国会議員に対して捜査の秘密を楯に断固拒否し続けた安原美穂刑事局長の姿が思い出される。

 しかし検察の歴史には、捜査幹部が押収資料を改ざんするという天を仰ぎたくなるような恥ずべき事件もあった。後輩たちがこの事件がトラウマとなって弱体化し、きちんと育っていないのではないかという思いもある。それが今回のように政治権力につけ込まれる隙を与えてしまったのではないかとの懸念もある。検察は強い権力を持つ組織としてあくまで謙虚でなくてはならない。

 しかしながら、検察が萎縮して人事権まで政権側に握られ、起訴・不起訴の決定など公訴権の行使にまで掣肘を受けるようになったら検察は国民の信託に応えられない。

 正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない。

 黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。関係者がこの検察庁法改正の問題を賢察され、内閣が潔くこの改正法案中、検察幹部の定年延長を認める規定は撤回することを期待し、あくまで維持するというのであれば、与党野党の境界を超えて多くの国会議員と法曹人、そして心ある国民すべてがこの検察庁法改正案に断固反対の声を上げてこれを阻止する行動に出ることを期待してやまない。

[追記]この意見書は、本来は広く心ある元検察官多数に呼びかけて協議を重ねてまとめ上げるべきところ、既に問題の検察庁法一部改正法案が国会に提出され審議が開始されるという差し迫った状況下にあり、意見のとりまとめに当たる私(清水勇男)は既に85歳の高齢に加えて疾病により身体の自由を大きく失っている事情にあることから思うに任せず、やむなくごく少数の親しい先輩知友にのみ呼びかけて起案したものであり、更に広く呼びかければ賛同者も多く参集し連名者も多岐に上るものと確実に予想されるので、残念の極みであるが、上記のような事情を了とせられ、意のあるところを何卒お酌み取り頂きたい。