甲状腺がんに脅えすぎないで

takase222011-11-19

駅への途中、白い野菊が咲いている。
ぐっと冷え込んできた。
脚がむずがゆいなと思ったら、もう寒冷ジンマシンが出ている。十数年前から急に出てくるようになった。雪国生まれなのに不思議だ。
きのう、東大(駒場)のあるゼミで「チェルノブイリとフクシマ」の講義をした。1時間半近い講義を30人の学生が居眠りをする人もなく熱心に聴いてくれた。
このところ、DVD「チェルノブイリの今 フクシマへの教訓」を上映し話をする形式の講演を依頼されることが多い。
DVDは5話から成っているが、甲状腺がんの女性が登場する第3話がよく観られているようだ。ビクトリアさんというこの女性は、キエフで生まれてすぐにチェルノブイリ事故に遭った。11歳でのどの異常が判明、がんの摘出手術をしたのが13歳のときだった。
甲状腺がんは、いま関心が高まっている内部被曝が原因のがんだ。
チェルノブイリ事故で放出された放射性ヨウ素によるとされる「小児甲状腺がん」の増加が認められたのは、1996年4月の国際会議でだった。これは、ウィーンのIAEA国際原子力機関)の本部で開かれた「チェルノブイリ事故から10年/事故影響の総括」という会議。
ベラルーシウクライナ、ロシアの被災3ヶ国から、1995年末までに約800件の小児甲状腺がんが報告されている。がんの増加傾向、地域分布、年令分布を考えると、甲状腺がんと事故との間に明らかな相関性が認められ、甲状腺がん増加の原因は放射性ヨウ素による甲状腺被曝と考えられる。しかし、甲状腺がんで死亡した子供はわずか3名である」。
事故から10年以上たって、ようやく、内部被曝の影響が認められたわけだ。
認定された小児甲状腺がんの数は、96年の800人から2005年のチェルノブイリ・フォーラムでは4000人、2008年の国連科学委員会では6000人と増えている。
「日本でも、子どもの甲状腺がんが激増するのでしょうか?」
よくこう聞かれる。
おそらく日本ではそうはならないだろう。
というのは、日本は海草などからヨウ素をたくさん摂取できる環境にあるからだ。ヨウ素が十分に摂取されていると、放射性ヨウ素が入ってこられない。予防にヨウ素剤を飲むのも同じ原理で、先にヨウ素をいわば「満タン」にして、放射性ヨウ素の採り込みをブロックするためである。
ウクライナ甲状腺がんの研究で知られる「内分泌研究所」の医師を取材したさい、「あなたがた日本人はラッキーだ。ヨウ素不足の人はいないから、甲状腺がんの多発は避けられるだろう」と言われた。
実は、チェルノブイリ周辺の地域は、もともとヨウ素の摂取量が不足する土地で、原発事故以前から甲状腺異常がとても多かった。
そこに原発事故で放出された放射性ヨウ素が降り注ぎ、牧草から牛乳へと入りこんで、ヨウ素が不足気味の子どもたちの甲状腺に採り込まれたわけである。
これを説明すると、みなほっとした顔になる。
危ないという情報とともに、こういう知識もちゃんとお知らせしないといけないなと思った次第である。
なお、甲状腺がんは、致死率の低いがんとして知られる。早期発見できれば完治する可能性が非常に高い。
放射性ヨウ素半減期は8日と短く、今から心配してももう遅い。ここまで来たら、過剰に脅えるのはやめて、子どもの健康診断をしっかりと行なう態勢をつくることにつとめよう。