分かれる放射能の影響評価2

日記で「つづく」と書いておきながら、翌日には別の気になったことを書いて、元の話を忘れてしまうことがよくある。
きょうは、21日の「分かれる放射能の影響評価」のつづき。
2005年、IAEA国際原子力機関)本部で開かれたチェルノブイリ・フォーラム(以下、フォーラム)が、「放射線被曝にともなう死者の数は、将来がんで亡くなる人を含めて4000 人」だけと結論づけた。
マスコミは「チェルノブイリ事故の影響は実はずっと小さかった」と報じたが、この報告は、今も主流の国際的知見とされ、原発を推進するロシアなどもこれに依拠している。
4000人の内訳は;
A.これまでに確認された死者:約60 人
1)放射線急性性障害 134 人のうちの死亡・・・・28 人
2)急性障害回復者 106 人のその後の死亡・・・・19 人
3)小児甲状腺ガン約 4000 人のうちの死亡・・・・9 人

B.ガン死者:3940 人

1)1986-87 年のリクビダートル20 万人から・・2200 人
2)事故直後 30km 圏避難民11.6 万人から・・・・140 人
3)高汚染地域居住者 27 万人から・・・・・・・1600 人

ちなみに他の「死者の見積もり」と比べると;
評価者/がん死数/対象集団/被曝1シーベルト当りがん死確率
フォーラム      2940件    60万人      0.11
WHO(06)      9000件  被災3カ国740万人   0.11
IARC報告(06) 1万6000件 欧州全域5.7億人    0.1
キエフ会議(06) 3〜6万件     全世界    0.05〜0.1
グリーンピース 9万3000人   全世界      ―

IARCは「国際がん研究機関」でWHOの下部機関だが、同じ国連のなかでも、IAEAとは多少違う報告がなされている。
グリーンピースを除くと、違うのは、対象集団、つまり分母をどれだけ多くとるか、そして対象集団の推定被曝量をどれくらいに見積もるかで、係数(がん死確率)は0.1〜0.11とほぼ同じだ。
(今中哲二京大助教の「チェルノブイリ事故による死者の数」を参照した。http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf)
一般的には、致死がん係数としては0.05が使われる。
これは広島、長崎の被爆者から得られたデータから割り出されたもので、ICRP(国際放射線防護委員会)も採用している。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110619
「係数」というのは、将来がんで死ぬ確率が被曝量に比例して増えるという考え方が基本になっている。
「0.05」という係数の場合、1シーベルト被曝するとがん死する確率は0.05つまり1万人中500人。
100ミリシーベルトでは、係数は一桁下って0.005となり、1万人の集団で50人が、いま議論されている20ミリシーベルトで10人が、1ミリシーベルトでは0.5人ががんで死ぬと推定される。
チェルノブイリ事故による健康被害は、実はよく分かっていない。
その一つの理由は、がんがありふれた病気であることによる。
いまの日本では、二人に一人ががんになり、三人に一人ががんで死ぬといわれる。ある人ががんになったとして、それが放射線によるものかどうかを見分けることは難しい。喫煙や紫外線暴露、野菜の不摂取などの方が、はるかに発ガンリスクが高い。
子どもの甲状腺がんは、百万人に一人という非常にまれに発症するがんなのだが、事故後5年経つころから、汚染地で異常な増加をみせる。ヨウ素131が甲状腺に集まるメカニズムもすでに知られており、立場を超えて、チェルノブイリ事故が原因だと例外的に認定されたのだった。
(つづく)