前回、チェルノブイリ原発事故による死者の数を取り上げた。
福島の事故への対処を考えるうえで、最も切実な情報なのだが、評価が大きく分かれている。チェルノブイリ・フォーラム(IAEAやWHO、ウクライナ政府などが主催)など、将来がん死する人も含めた死者を数千人と推定するが、これに対して、百万人単位になるという見方もある。
京都大学の小出裕章助教は、セシウム汚染だけで100万人、他の放射性核種を考慮に入れると「たぶん200万人というような人たちが死ぬことになるだろうと思っています」と言う。(小出『放射能汚染の現実を超えて』P49)
小出氏の同僚で、いわゆる「熊取六人衆」の一人に、チェルノブイリの事故を長年研究してきた今中哲二助教がいる。今中氏はこういう。
「“私の勘”では、最終的な死者の数は10 万人から20 万人くらい、そのうち半分が放射線被曝によるもので、残りは事故の間接的な影響でしょう」と見る。(「チェルノブイリ事故による死者の数」http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf)
内部被曝の問題に入る前に、ここで今中氏が言う「残り」の「間接的な影響」について触れておきたい。
つまり、原発事故の「犠牲者」とは何かという問題である。
今中氏は、別の論考で、こう書いている。
「筆者としては、全世界で2万〜6万件というのがチェルノブイリ事故によるガン死見積もりとして妥当なところかと考えている。
チェルノブイリ事故による被害について指摘しておきたいのは、放射線被曝を直接の原因としない『間接的な死者』についてである。田舎暮らしをしてきた老人が、突然に都会に避難させられアパート暮らしを余儀なくされたなら『どんなに健康に悪いか』容易に想像されよう。また、移住によって職を失い、『アル中になって病気になった』例も数多いことだろう。こうした健康影響は、もちろん被曝影響ではないが、チェルノブイリ事故の影響であることは確かである。チェルノブイリ事故が人々にもたらした災厄全体を議論しようとするなら、こうした『間接的影響』を無視することはできない」
(チェルノブイリ原発事故:何が起きたのか)http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/kek07-1.pdf
この今中氏の問題提起には、大いに同感する。
原発事故は、生活環境全般を激変させる、巨大な衝撃力を持つからである。
私は、チェルノブイリ取材で、「放射能リスク」より「移住リスク」の方がはるかに高い場合があることを知った。そこで、生活の質全体のバランスを考えて、移住するかしないかを決めるべきだと思った。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110612
放射能の影響だけに目を向けるのではなく、今中氏のいう「事故がもたらした災厄全体」を総合的に見るという視点が大事だと思う。(つづく)