人生を変えた「ザ・スクープ」

takase222009-10-09

きょう、テレビ朝日の『ザ・スクープ』20周年の夕べがあった。
写真は、鳥越俊太郎氏を囲む歴代女性キャスター6人のうち4人。右から田丸美寿々、畑恵、麻木久仁子長野智子の各氏。(鳥越氏が持っている遺影は、初代プロデューサーの故日下雄一氏)
毎日新聞の朝比奈社長、産経新聞の住田社長らが挨拶に立ったが、89年に番組がはじまったころのブレーンだったという。ブレーンには作家の西木正明氏もいた。多士済々のメンバーが立ち上げた番組なのだなあ。
この番組、途中で打ち切りになりそうになって、存続を求める市民運動まで起きた。結果、存続が決まり、年5回に回数を減らして放送されている。
私にとっては思い出の多い番組だ。
97年2月4日、私はソウルでインタビューした北朝鮮の元工作員から、横田めぐみさんらしい女性が平壌のスパイ学校の教官だったの証言を得た。これは急遽2月8日(土)の『ザ・スクープ』で放送されたが、初めての目撃証言であり、拉致問題がクローズアップされるきっかけの一つになった。
この証言者が安明進(アンミョンジン)だった。後に頻繁に日本のマスコミに登場するようになったが、このインタビューのときは、人物が特定されるのを警戒しており、顔にはモザイクを入れ「元工作員A」として放送した。一昨年、覚醒剤で逮捕され、彼の証言自体が疑問視されるが、私は、97年当時の証言は非常に信憑性が高いと今も思っている。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20070813
また、同じ頃、北朝鮮の偽ドル事件を放送した。実は、偽ドル事件と横田めぐみさん目撃は繋がっている。
96年3月、カンボジアベトナムの国境で、「よど号」ハイジャック犯が偽ドル容疑で身柄拘束されるという事件が起きた。カンボジアでハイジャック犯の周辺にいた北朝鮮人数人の映像を入手し『サンプロ』で放送した。その放送素材を韓国KBSテレビが購入して放送したところ、番組を安明進はたまたま見ていた。そしてその中にスパイ学校「金正日政治軍事大学」の先輩がいることに気がついた。さらに、ハイジャック犯の顔にも見覚えがあった。私はこれをすでに前年に聞いていた。
実は97年2月4日のインタビューは、安明進に「よど号」についての情報をきちんと確認するために設定された。ところが前日、ソウル行きに乗る直前、成田空港の売店で『産経新聞』と『アエラ』が横田めぐみさんの顔写真を載せていたのを見つける。ちょうどその日が、めぐみさん拉致疑惑の破裂した日だったのだ。私は新聞と雑誌を買い込んで飛行機に乗り、翌日、安明進にぶつけた。
安明進は、めぐみさんらしい女性を見たことがあると答える。それは「よど号」メンバーを見たのと同じ日時、同じ場所だった。
スパイ学校では、労働党創立記念日など年に数回、講堂で集会が開かれ、ハイジャック犯もそこに参加していたという。「日本から来た革命家」として学生たちにも「よど号」メンバーの存在は知られていたという。その同じ集会に学校の日本語教官も参加しており、その中に「横田めぐみ」らしい日本女性もいたというのだ。
話を複雑にしないために、「よど号」感連部分はカットして放送したのだが、もともとは、「よど号」メンバーと拉致被害者が、スパイ学校で同席していたという証言だったのである。
3日にめぐみさん事件の報道、そして翌4日の初めての目撃者による証言。あまりにもタイミングが良すぎると訝しがるむきもあったが、本当に偶然だったのだ。《めぐり合わせ》としか言いようがない。
偽ドル事件の放送がもとで、私は獄中の「よど号」ハイジャック犯本人から名誉毀損で訴えられ、2年におよぶ裁判を闘うことにもなった。この間、偽ドルから拉致、不審船、核・ミサイル、脱北者強制収容所、さらには後継者問題まで北朝鮮に関わる取材に没頭していく。こうして私は、朝鮮語もできないのに北朝鮮問題にのめりこんでいった。
私は『ザ・スクープ』という番組で、人生を大きく変えられたのだった。