将軍様は早く死んでほしい

サンプロで特集「緊急追跡、北朝鮮で何が?―核施設“復旧宣言”の真相」を放送する。
昨夜は、夜9時半ごろからボイスオーバー(外国人のインタビューの日本語吹き替えなど)の収録、10時からナレーション収録と効果音(サウンド・エフェクト)を録音。そのあと全体を清音し、テロップ修正してから、サイドテロップという画面の右上に出る小さなキャッチフレーズを入れ、VTRがほぼ完成したのが午前3時ごろだった。これが普通の進行だ。
そのあと、まだ作業はあるのだが、私はスタジオ出演なので先にオフィスに帰って寝た。オフィスには折りたたみのベッドの他、ソファが二つあるが、年の功で寝心地のいいベッドに寝かせてもらう。
こうして、朝は寝不足のまま、髪はぼさぼさでテレビ局に行くことになる。メイクルームで髭を剃り、ドーランで肌荒れを隠してもらってスタジオに出る。いつも準備不足で、ちゃんとしゃべれるかドキドキする。
きょうは、元日朝正常化交渉・日本政府代表の遠藤哲也さんと一緒だった。スタジオは3分しかないのだが、遠藤さんはたくさん話したいことがあるので時間がなくなっていく。「あと30秒」、「あと20秒」とサインが送られこっちがはらはらしてくる。エンディングの音楽が流れても、お構いなく遠藤さんは話し続ける。番組が終わったあと、「いつ終わったんですか」と遠藤さん。まあ、生番組はこういうのがあっていい。
きょうの特集は、金正日重病説が流れるなか、北朝鮮が、いったんは進めてきた寧辺(ニョンビョン)の核施設の「無能力化」を中断し、再稼動に向けて復旧作業をはじめている。その背景を北朝鮮アメリカ両側から見ていくという趣向だ。
北朝鮮のパートは、アジアプレスの石丸次郎さんの全面協力をいただき、中朝国境からの最新映像を流した。
石丸さんは今月はじめから中旬にかけて国境地帯に滞在し、北朝鮮から中国に出てきたばかりの人々にインタビューした。
9日の建国60周年に金正日が出てこなかったことは北朝鮮人民の間でもいぶかしく思われているという。今年はじめからこの節目の記念日を盛大に祝おうとキャンペーンがはられていたからだ。
金正日に重大な異変が起きていることは疑いないが、北朝鮮の外貨稼ぎ会社で働く労働者の口から出てきたのは、びっくりするような言葉だった。
将軍様が死なないと、豊かになれない。どうせ死ぬなら、早く死んでほしい」。
この発言は衝撃的だ。しかもこの人、気軽にせせら笑うように語っている。北朝鮮もここまで来たのか、と感慨深かった。
姜哲煥・安赫『北朝鮮脱出』(文春文庫)は、私が薦める北朝鮮本の一つだが、安赫が90年ごろ中国に密出国したとき、中国の朝鮮族が、金日成金正日を非難したことに大ショックを受けたエピソードが書いてある。また、10年ほど前、中朝国境で会った脱北したばかりの人が、金正日について話すとき思わず「親愛なる指導者」と形容詞をつけて呼んでいたことを思い出した。
それが今、いくら顔を隠してとは言え、外国人のビデオカメラの前で、将軍様の早い死を願う言葉を吐くとは・・・。
全体主義支配の中核としての政治犯収容所は、目を背けたくなるような非人間性をもっていまも存在し続けている一方で、指導者の無謬性を疑い、体制への忠誠は確実に掘り崩されている。北朝鮮はすでに堅牢な全体主義体制とは言えなくなっているようだ。
北朝鮮という国家のメカニズムをもう一度あらためて研究してみたくなった。