テレ朝「サンデーフロントライン」のスタジオで「砲撃事件の背景」について解説した。
VTRでは、石丸次郎さんのもとに届いた北朝鮮からの最新の内部映像を、石丸さんのインタビューとともに紹介した。
今回伝えたかったのは、延坪島砲撃事件の背景には、北朝鮮国内の末期的な危機状況があるということだ。経済は大混乱し餓死者も出て、人々は金正日政権に強い反発を抱くまでになっている。
国内のこうした危機状況は、外に緊張を作り出そうという誘因となる。今後もさまざまな挑発行動があるだろうと予想できる―というようなことをスタジオで話した。
石丸さんによると、北朝鮮の人々に、90年代の大量餓死時代に次ぐ窮状が襲いかかっているという。それは、以前からあった「社会への不満」という段階を超えて、明確な「政権への敵意」が蔓延するまでになっているようだ。
直接のきっかけは、去年11月の「通貨改革」=デノミだった。ウォンの単位を100分の1に切り下げ、新紙幣に交換する措置である。
石丸次郎さんが新紙幣を持ってきたので写真に撮った。5000ウォン札には金日成の肖像を配してある。北朝鮮とはあくまで首領様の国なのだなあ。新紙幣には小さく「2008年」印刷とある。デノミは以前から準備していたのだ。
今回の北朝鮮のデノミは単なる貨幣単位切下げではなかった。
まず予告もなくいきなり通知され、新旧貨幣の交換期間をわずか1週間に限った。最も問題だったのは、交換できる額を旧貨幣で10万ウォンまでと上限を設けたことだった。10万旧ウォンは石丸さんによれば、平均的労働者四人家族の一ヶ月分の生活費にしかならない額だという。交換できない通貨は紙くずになるのだ。異様な措置である。
北朝鮮の国民は銀行など信用していないから、みなタンス預金だ。こつこつ貯めたお金が、まさに一夜にして消えてしまった。国民はパニックに陥った。デノミ実施直後、人々が道路に座り込んで泣く姿が見られたとの内部情報もあった。
北朝鮮当局のデノミの狙いは、市場経済の拡大で生じた格差を是正するため、富裕層を叩くためなどと推測されているが、根本的なことを言えば、金正日・金正恩指導部は市場経済を体制の敵とみなしている。
デノミの影響で餓死する人が出ているとの情報が、北朝鮮内部からぞくぞく石丸さんに届いている。なぜ、そうなるのか。
北朝鮮では今、ごく一部を除いて配給はない。企業や工場の多くは稼動していないから給与ももらえない。人々は市場で商売をして金を稼ぎ、その金で食べ物を得てなんとか生き延びている。
今回のデノミは、国民から商売の元手までを奪うもので、まさに致命的な措置だったのである。
(つづく)