持続可能な町は・・・5スモールイズビューティフル

共著者の佐藤由美さんは、尊敬する環境ジャーナリストで、日本だけでなく、世界中の現場を歩き、会議に参加している。実に広く深い知見を持っていて、上勝町のユニークな町づくりだけでなく、シリアの古い揚水水車の話も、彼女に教わってテレビ番組にした。http://www.tv-asahi.co.jp/earth/midokoro/2005/20050724/index.html
私と同じ山形県出身で、農家に育ったので、頭でっかちのその辺の環境活動家とは違い、足が地についた論をはる。数年前出した『自然エネルギーが地域を変える』もとてもいい本だ。
この本タイトルが『持続可能なまちは小さく、美しい』に決まったと聞いたとき、これは佐藤由美さんの命名に違いないと思った。実際そうだった。数年前、佐藤さんに環境問題のレクチャーを受けていたころ、必読文献としてシューマッハーの『スモール イズ ビューティフル』(講談社学術文庫に邦訳がある)を読まされたのを思い出したからだ。
すごい本だった。72年に出版されたこの本は、世界が進んでいる「破局への道」から脱出し、すぐに方向転換して「永続性」を保証する「新しい生活様式」を作り出そうと訴える。すでに「持続可能性」の思想がこの本には貫かれていた。私は邦訳しか読んでいないので、「永続性」という原語が何か知らないが、"sustainability"(持続可能性)とほぼ同義で使われている。
シューマッハーの叙述は哲学的な趣にあふれている。
《経済の観点からすると、英知の中心概念は永続性である。不合理な事態に陥ることなしに、長期間続くことが確かでない限り、なにごとも経済的に意味がない。限定された目標に向かっての「成長」はあってもよいが、全面的な成長というものはありえない。》
《欲望をかきたてたり、増長させたりすることは、英知の正反対である。》欲望をベースにした成長は破綻への道だというのである。
シューマッハーの射程は非常に遠大で、平和論、さらには宇宙論にまでおよぶ。
例えば、《平和の礎(いしずえ)を現代的な意味での繁栄を行きわたらせることで築くことはできない》と断言している。ところが我々はいまだに、技術移転で後進国を豊かにすれば紛争が起きないようになる・・・などという「迷信」を実践していたりする。
また、シューマッハーは、宇宙の秩序の中に人間を定義づけるべきだと説く。
《(宇宙の)階層秩序の観念はものごとを理解するには欠かせない道具である。》
《世界を一つの階段と見、その上での人間の位置を見きわめえたとき、はじめてわれわれは人生には意味深い仕事のあることがわかるのである。》
脇道にそれたが、大事なことはシューマッハーが新しい生活様式を作るうえで、「小さな地域社会」の重要性を説いたことだ。
だから、スモール イズ ビューティフルなのだ。
『持続可能なまちは小さく、美しい』は、思想的に『スモール イズ ビューティフル』に連なっている。