30日、午前は雨がパラついたが、雨がやんだ昼ごろに畑にいった。
作業は白菜の頭縛り。白菜の葉っぱをまとめて閉じてヒモで結ぶ。葉に霜がおりて傷まないようにとするためと、白菜の糖度をアップさせるためだという。
今年最後の収穫は、大根、人参、蕪。それに間引きした白菜とブロッコリーを持ちかえった。
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大晦日のきょうは夕焼け。元旦も晴れそうだ。
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一年を締めくくるにあたって、今年読んだ本の中から私にとってのベスト10を挙げてみよう。
私にとっての一番はこれですね。資本主義をやめて「低成長のコミュニズム」を説くこの本は再び私を「革命」へと誘った。
本のカバーに推薦者として坂本龍一、白井聡、松岡正剛、水野和夫の名が記してあり、売れ行きもいいらしい。12月あたまで6万部を超えたそうで、多くの人に読まれていることにも勇気づけられる。ノンポリの友人が読んでも説得力があったとのこと。問題はどう実践に移すかだ。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20201125
白井聡『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社2020)もよかった。あらためて、しっかり資本主義を見つめなければと思わせる。
コロナ禍のなか、格差を含めた世の中の基本的な「構図」が丸見えになり、資本主義のままでいいのかという疑問が保守派の中からも出てくるご時世。
これらの本は出るべくして出たのかもしれない。
2.鬼海弘雄『Tokyo View』(かぜたび舎2016)。
今年10月19日、尊敬する写真家の鬼海弘雄さんが亡くなった。あんな人はもう出ないだろう。これは弔いの意味もあって購入した。
鬼海さんが、ハッセルブラッドで40年以上にわたって撮り続けてきた東京の街角の写真が120点掲載されている。懐かしい街の一角からその場の匂いがただよってきそうで、シーンと悲しくなる。
鬼海さんの東京の街角写真集は他に『東京夢譚』や『東京迷路』などが出ているが、本書はクオリティにこだわり、高精密印刷機で丁寧に印刷され、サイズも一番大きな写真集だ。
「鬼海弘雄が撮る東京のモノクローム写真は、狭く限定されたフレームのなかに、終わりのない奥行をもっている。視えないものとなって静まりかえる街の奥行は、そのまま時間の膨大な堆積に結びつき、その場所が含む過去の全体に通じていいる」と批評家の前田英樹氏は評している。
鬼海さんから薦められて読んだのが幸田文『台所のおと』だった。よかった!
かつての日本人は、深い人情の機微を生きていたのだなあ。こういう人々が暮らす街はそれぞれの味わい深い「肖像」を持つ。それを鬼海さんが写しとった。
生前、鬼海さんが、最近の街はおもしろくない、ショートケーキみたいな家ばかり建って・・と嘆いていた。「ショートケーキのような家」というたとえに思わず笑ってしまった。
もうあの「哲学」は聞けない。
3.上杉一紀『ロマノフの消えた金塊』(東洋書店新社2019)
ボリシェヴィキが旧政権から奪った金塊500トンを白軍が急襲して盗んだ。金塊500トンとは、いまの欧州中央銀行の金準備高に匹敵する量。レーニン政権はこの奪還に必死になった。
この金塊の行方は世界史上のミステリーだったが、本書で初めて、金塊の流れを跡づけることに成功している。その意味では歴史的スクープと言ってよい。
たった一人でここまで調べ上げたことに驚くが、それが可能になったのは、金塊の運命に日本が深く関わっていたからだ。
大陸に進出していた日本は、1917年のロシア革命後の情勢から大きな影響を受ける。この要素なしには1920年前後の日本政治史を理解することはできない。そして、この時期にこそ、大東亜戦争以外の日本近代が選択しえたもう一つの道があったのでは、と思わせる。
この本は、金塊の行方を追いながら、日本近代を照射している。
上杉さんは、私と同年の友人で、テレ朝系「北海道テレビ」の報道を支えた記者だ。この本の前に上杉さんは『ロシアにアメリカを建てた男』(旬報社 1998)を出版している。ロシア革命後、アメリカのシカゴにいたクラスノシチョーコフとう男が、極東に飛び、アメリカ型の民主主義憲法を備えた「極東共和国」を建国し、大統領になった。その後、この歴史的実験はあえなくつぶされる。
権力によって「消された」この歴史的大事件を、埋もれたピースをたんねんに掘り起こしながらよみがえらせた名著だ。
思い立ってパステルナーク『ドクトル・ジヴァゴ』を読みなおした。赤軍に追われるジヴァゴたちが極東に逃げようとする。そこで「極東共和国」に関する以下の台詞が。
「太平洋側の沿海地方でだが、打倒された臨時政府と解散させられた憲法制定議会に忠実だった政治勢力の結集がなされている。国会議員、社会活動家、旧地方自治体議員のもっとも著名な議員、実業の敏腕家、企業主たちが集まっている。白衛軍の義勇兵将軍たちがここに自軍の残りを終結させている。
ソヴィエト政権はこの極東共和国の成立を見て見ぬふりをしているわけだ。辺境にこうした共和国が出来ることは、政権にとっては赤化シベリアと外の世界との間の緩衝地帯になるので好都合だ。この共和国は混成の構成だ。モスクワが閣僚ポストの半分以上をコミュニストに回す取り決めになった。それは、よきおりが来れば、彼らの力でクーデターを起こして共和国を我がものにするためだ。」(工藤正廣訳)
彼らにとって逃げることのできる場所は極東共和国しかなかったのだ。
極東史の闇に光を当てる上杉さんの2冊は歴史好きの方におすすめです。
4.松井孝典『宇宙人としての生き方―アストロバイオロジーへの招待』(岩波新書2003)
宇宙史の解明は近年すさまじい勢いで進み、解説本は増えているが、そこから今の私たち人間の立ち位置を考えさせる本は意外に少ない。
《環境、人口、食糧問題など、文明の成立基盤を揺るがす現代の深刻な課題を地球システムの問題ととらえ、宇宙の知的生命体の一つ、「宇宙人」として我々人類が目を向けた時、新たに見えてくるのは何だろうか。》(Bookデータベース)
松井氏は地球惑星科学の権威だが、これはある意味、哲学書で、所有を否定して「レンタルの思想」を説いたりもしている。
また、「我々とは何か、何のために存在するのか」についてこう語る。
「私は個人的には、我々は宇宙を認識するために人間圏を築いたと考えています。単に、生き延びるために生きているわけではないと思っています」と。狩猟採集から農耕牧畜へと進み文明を作って生きる人間の地球システムにおける位置を示すのが「人間圏」だ。
松井先生は宇宙史の中で、我々人類がどう生きるべきかを正面から問うている。
宇宙が自らの中に「宇宙の歴史は138億年だ」などと自らを認識する「ヒト」という存在を生み出した。私は、人間の使命は宇宙を認識することだと思う。だから松井先生の結論には同意する。
そのほか、今年読んだ本に、リーヴズ他『世界でいちばん美しい物語―「宇宙・生命・人類」』(筑摩書房1998)がある。4人のフランスの研究者が、宇宙史を「美しい物語」として語っていく。古典として読み継がれるべき本だと思った。
5.リサ・ランドール『ワープする宇宙 5次元時空の謎を解く 』(NHK出版2007)
何年も積ん読状態になっていた本だが、時間ができたので取り掛かった。
素粒子論は日本のお家芸で、日本のノーベル賞第1号の湯川秀樹博士から朝永振一郎博士、先日亡くなった小柴昌俊博士と世界の最先端にある。それでもこの方面は私には苦手な分野だった。
素粒子という極微の世界の研究がなぜ宇宙の誕生の解明につながるのか、「ひも理論」が提唱される背景など、知っているようであいまいにしてきたことがこの本でようやくわかった。ただ、たくさんの「次元」の存在を説く難しい話なので、もう一回読まないと・・。
「ひも理論」は、アインシュタインの一般相対性理論が素粒子の極微の世界では破綻するように見えることから南部陽一郎博士などが1970年ごろ提唱した。一本のひもが、振動の仕方で様々な素粒子になるという理論で、80年代に「超ひも理論」も登場する。
宇宙論に「宇宙は人間を生み出すようにデザインされている」とする「人間原理」がある。私もその傾向に近いが、ひも理論の研究者なども「人間原理」の支持者は多い。
これに対し、佐藤勝彦氏は『相対性理論から100年でわかったこと』(PHP2010)で、「宇宙論が抱えている問題に対して人間原理を安易に適用することは、物理学の放棄だと思います」と語る。佐藤博士は「インフレーション理論」の提唱者として世界に知られる宇宙物理学者だ。この本も今年読んだが、これまでの理論史を深く、しかも俯瞰的にまとめていてとても勉強になった。
いろんな人が「ナウシカは深い」という。
今年、『風の谷のナウシカ』の研究会に顔を出したら、真剣に議論していてちょっと驚いた。漫画をバカにするわけではないが、そんなにすごいの?と興味がわいて、友人に借りて全巻を読んでみた。
ストーリーはおもしろく、複合的で分厚い。出てくる人物もみな魅力的ですばらしい。生態系や戦闘のディテールもよく調べられている。すごい傑作だと思う。
人間が生きていけない「腐海」、そこに住む「王蟲」(オーム)など、「悪」と思われるものが、ナウシカによって、ほんとうはこの世界を浄化し人間を救う存在であることが明らかになる。善と悪、浄と不浄がひっくり返りながら認識が高まっていく。この展開に、「弁証法」という言葉を思い浮かべた。
ただ、細切れの空き時間に2ページ、3ページと小刻みに読んでいったので、壮大な話だけに全体が見えなくなり、恥ずかしながら3回通して読んで、何とか見えてきた感じ。
これは世界的な名作だ。民族や宗教の異なる人々がどう読むのか、興味がある。ともかく、とてもいい漫画作品に出合えてよかった。
ついでに、アニメ映画の「風の谷のナウシカ」を再度観た。これは7巻本のうち2巻目までしかカバーしていないが、それでもおもしろい。
今年最も話題になったノンフィクション。3年半かけて100人に話を聞いたという。取材力とは持続力であるということを見せつけた。
小池氏の仮面を一枚一枚剥いでいく展開は、まさに読みだしたら止まらないおもしろさ。
5月29日の発売から約2週間に15万部を突破し、ノンフィクション作品としては記録的な売り上げとなったという。
もっとも、この本がベストセラーになっても、小池氏は都知事選で圧勝。ペンの力は及ばなかったとしょげた。だが、この本を読んだ人は、小池都知事の異様な発想を理解できるので、騙されなくなっているはずだ。「3密」が今年の流行語大賞に選ばれたのもむべなるかな・・。
大晦日のきょう、東京のコロナ感染者は最多を更新。一気に千人台を突破して1337人!!だ。こういうとき、小池氏は我々とは違ったことを考えているんだろうな・・・。
8.小川善照『香港デモ戦記』(集英社新書 2020)
香港は去年から世界の注目を浴びている。香港に関する本がたくさん出版されたが、この新書を1冊読めば、あの若者たちの運動を正しく理解できると思う。
筆者は私も知るジャーナリストで、香港の現場に何度も足を運んで地道な取材を繰りかえした。大企業のメディア社員では書けない内容だ。読み進むにつれ、香港の若者への連帯感が沸きあがってくる。
9.車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』
鬼海弘雄さんが繰り返し読んでいる小説だそうで、これは読みなさいと薦められて読んだ。私は、尊敬する人の言うことには犬のように素直に従うたちなのだ。(笑)
いやあ、強烈でした。「どないなと、なるようになったらええが」という絶望の中に生きる男が、かつて自ら堕ちていった尼崎の、裏社会と接点のある暮らしをふり返る話だ。
《文壇を騒然とさせた第119回直木賞受賞作。
アパートの一室で、「私」は来る日も来る日も、モツを串に刺し続けた。尼ヶ崎のはずれにある、吹き溜まりの町。向いの部屋に住む女「アヤちゃん」の背中一面には、迦陵頻伽(かりょうびんが)の刺青があった。ある日、女は私の部屋の戸を開けた。「うちを連れて逃げてッ」―。二人の逃避行が始まる。》(出版社の紹介文)
作者の実体験をもとに書いているのだろう。「業」(ごう)といえばいいのか、救いようがない人生が異様な文体で迫ってくる。
車谷氏がかなり変わった人であることは確かだ。
車谷氏が直木賞を受賞した後、高校時代の級友が出版社を通じて「同級生仲間で祝杯の機会があれば」とのメッセージを託したところ、車谷氏は、文芸春秋誌のコラムにその旧友の実名を記してこう書いた。
「8月20日・木曜日。手紙が3通。高等学校時代の同級生G氏(実名)からの手紙は不快だった。『親しくすること』と『狎れ狎れしくすること』とを履き違えている。親しくするとは、持続することだ。35年間1度も逢ったことがないのにどうしていっしょに酒など呑めるものか。こちらが困惑するだけだ」。
おいおい、昔の仲間が会いたいと言っているのに、なんて嫌なやつ・・。
車谷氏は「赤目四十八滝心中未遂」のテーマは「この世の外」で、自分は「世間の外で生きてきた」自信があると、あるところで語っている。まあ、そういうことなら一貫しているということか。
こんな作者に興味がわく。車谷氏と結婚した高橋順子氏はどう夫を見ていたのか。彼女が書いた『夫・車谷長吉』(2018)を新年に読んでみようと思う。
10.山田ズーニー『大人の進路教室』(河出文庫 2012)
会社が倒産して失業し、さあ、これから何をしようか、と思った。
自分らしい進路を切り拓くにはどうすればいいか。この本は、答えを押し付けるのではなく、こんな考え方もあるよとヒントをくれる。
彼女にはすぐれた文章指南本『伝わる・揺さぶる! 文章を書く』 (PHP新書)もある。
番外.火野葦平『花と龍』、『糞尿譚』
去年末に中村哲先生がアフガニスタンで殺害された。
それで中村哲という人間をつくったものを知りたいと、先生の母方の祖父母の一代記の実録小説である『花と龍』を再読した。手に汗握るおもしろさ。一気に読み終えた。
著者は哲先生の母の兄にあたる火野葦平。
火野が芥川賞をとった1937年発表の『糞尿譚』を初めて読んだが、かなりひっかかる小説だった。社会の不条理をぶちまけた、骨太で異色の作品。彼が労働運動にのめり込んだのが分かる。
また、盧溝橋事件勃発の年の日本で、強い社会批判の小説が受賞していることに驚く。まともな批判精神も生きていたのか。当時の日本の実情にも関心を持った。
ちゃらんぽらんな青年が、親友が介護業界に就職するというのでつられてこの業界に入って奮闘する話。実によく取材してあり、筋がおもしろいだけでなく、勉強になる。
私は介護関係の番組企画をつくるために読み始め、あまりのおもしろさに27巻まで読んだ。(「鬼滅の刃」などと違って)絵がとてもきれいだ。
かなり前だが、作者のくさか里樹さんを主人公にした番組企画を立てていたので、彼女ともお会いしてお話したうえ、活動を取材させていただいた。
高知県の田舎でたしか4人の息子さんを育てながら漫画を描いているユニークな方で、余計な情報ですが、美人ですてきでした。
今回、ふたたび介護関係の取材をやるので、思いだして1巻を手に取ったら、やめられずに一気に4巻まで読んでしまった。自信を持ってお薦めできる漫画だ。
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来年もおもしろい本をたくさん読みたい。
今年お付き合いくださったみなさん、ありがとうございました。
よいお年を。