ナワリヌイ氏の妻が闘争宣言

 死亡が伝えられたナワリヌイ氏の妻、ユリアさんがナワリヌイ氏のyoutubeプーチン体制に対して闘い続けようと訴えた。

闘い続けよう・・とユリアさん。英訳のキャプション付き。

 プーチンは夫を殺すことで、私たちの希望と自由と未来を抹殺することをねらったのだ・・
 闘い続けよう、諦めないで。私は恐れない。あなた方も何ものをも恐れないようでほしい

 8分半の映像はユリアさんの語りに、過去のナワリヌイ氏の言動や家族写真なども挟み込んまれている。感動した。

ナワリヌイ氏の独房の見取り図。ベッドは壁につけられたままだったので、ベッドで寝ることさえできなかったという。

www.youtube.com

 

 また暗殺か?

《去年、ヘリコプターを操縦してウクライナに亡命したロシア軍兵士の遺体がスペインで発見されました

 ロイター通信によりますと、去年8月、軍用ヘリを操縦してロシア西部クルスク州からウクライナに亡命した操縦士、マクシム・クズミノフさんの遺体が、今月13日にスペイン南部の地下駐車場で発見されました。

 スペイン当局は、遺体は銃弾で蜂の巣状になっていたとしていて、死亡した経緯を調べています。

 タス通信によりますと、これについてSVR=ロシア対外情報庁のナルイシキン長官は、「この裏切り者の犯罪者は汚く恐ろしい犯罪を計画した瞬間から道徳的にはすでに死んでいた」と話したということです。》TBSニュース

 外国まで追いかけて主権侵害しても暗殺することを繰り返してきたプーチン政権。まさにスターリン時代だな。

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 「マスゴミ」などと侮蔑されることもあるマスメディアだが、その影響力で原発の「安全基準」という表現を「規制基準」に変えた例がある。

 私の大学時代からの友人で東京新聞の記者だった鈴木賀津彦さんJCJ(日本ジャーナリスト会議)会員向けに送ったメールを紹介したい。

《もう10年前になりますが、鈴木は、原発の「安全基準」という言い方の変更に関わりました。その時のことを振り返って、「実質的負担はゼロ」などと気軽に政府が詭弁を使い横行する今、問題を曖昧にする言葉のトリックを許さず、不正確なものは訂正していくことが求まられていると思います。

 原発事故後、規制委が「安全基準の見直し」をしていたことに対し、東京新聞の読者から

「安全基準という言い方は、それを守れば安全だということになり問題だ」という疑問が寄せられ、東京新聞の取材班は「規制基準」という言葉に改めました。

 この東京新聞の変更が、規制委の田中委員長らも動かし、規制委員会が「規制基準」と言い換えることにしたのです。田中委員長の時の規制委員会は当時、このようにまともな感覚だったのです。

 また、当時は「汚染水」という言葉は誤解を生むので、「ヒバク水」にしてはどうかという意見もありました。それが今や、汚染水も使わなくなり、「処理水」という表現がまかり通っています。》

2013年2月14日付『東京新聞

2013年4月11日付


 『東京新聞』よくやったな。読者の疑問を大事にしてここまでやったという実践は、これから新聞が活性化していく方法をも示唆していると思う。

 ジャーナリスト青木理さんが、18日放送の「サンデーモーニング」で「今回の自民党の調査報告書でキックバックされた、僕らが『裏金』と言っているのを何て書いているかご存じですか。『還付金』なんですよ!」と語っていた。激怒すべき話なのだが、あまりのばかばかしさに笑ってしまった。

 自民党は15日、安倍派や二階派の議員ら計91人に聞き取り調査した報告書を発表。派閥のパーティー券販売でノルマ超過分が派閥からキックバックされたものを「還付方式」、ノルマ分超過分を中抜きしたものを「留保方式」と表現しているという。

 正確に表現する言葉は大事だ。とりわけ今の自公政権のごまかし体質をしっかり追求するために。

 

 

イスラエルはラファへの攻撃をやめよ

 盛山文科相「交代させるべきだ」78% 毎日新聞調査

 当然だ。どいつもこいつも・・・。

 ここまでくるともう岸田総理が一番悪いということになる。

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 ナワリヌイ氏(47)が亡くなったとの報に驚く。

 プーチン政権への批判を続け、刑務所に収監されていたナワリヌイ氏が「散歩のあと気分が悪くなり、医師が蘇生措置を行ったものの死亡が確認された」と16日、当局が発表した。

 ナワリヌイ氏は2020年、毒殺未遂でドイツで治療を受けたあと、過去の経済事件を理由に逮捕され、北極圏にあるヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に収監されていた。

「もしあなたが殺されたら」との問いにナワリヌイ氏はこう答えた。まるで遺言のように(映画『ナワリヌイ』より)

 ロシアでは来月、大統領選挙が行われるが、ナワリヌイ氏は支援団体を通じて、プーチン氏以外の候補者に投票するよう呼びかけるなど、収監後も反政権の活動を続けていた。追悼の動きがロシア各地で起きたが、人権団体OVDインフォによると36都市で計401人に上る市民が拘束されたという。

 彼を描いた映画『ナワリヌイ』はロシアの暗部をえぐる素晴らしい出来だった。

takase.hatenablog.jp


 ナワリヌイ氏については、ドイツのメルケル首相プーチン大統領を同じ壇上に置いて、「ナワリヌイ氏の釈放を要求する」と言ったのが忘れがたい。日本の政治家にはこの度胸はないだろう。そもそも彼の死亡の報に日本政府は何もコメントしていない。

takase.hatenablog.jp


 政権批判をするだけで命を奪われ、その死を追悼するだけで警察に捕まるロシアの体制。戦時下でも大っぴらに政権批判できるウクライナとの違いは際立つ。

 このままではプーチン政権の暴走に歯止めをかけようとする人は出てこないのではないか。どこへ行くのかロシア。
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 イスラエルはガザ最南部ラファへの攻撃をやめろ、との声が世界中で高まっている。

18日新宿でガザへの攻撃をやめよと声をあげる人々(毎日新聞

 ガザの人口220万人のうち半数以上の140万人がここに避難しているが、イスラエル空爆をすでに始め、地上部隊を投入しようとしている。北から避難してきてどん詰まりの場所に溜まった100万人超の大集団に地上軍が襲いかかれば、どんな悲惨な事態になるか想像もつかない。まるで羊かなにかを追い込むように人々を移動させて、大虐殺を行おうとするのか。

 南部ハンユニスでは15日、南部最大のナセル病院がイスラエル軍に攻撃された

 ナセル病院はガザ地区でなお機能している最大の病院。国際的な非政府組織(NGO)の国境なき医師団(MSF)によると、イスラエル軍は未明にナセル病院に対する攻撃を開始。イスラエル軍から医療スタッフは避難する義務はないと伝えられていたにもかかわらず、患者を残して病院から退避しなければならなかったとしている。襲撃で患者・医師らが数人死傷、停電で酸素が供給できず、患者5人が死亡したという。

病院への攻撃で煙に包まれる院内。(サンデーモーニングより)

この子は「家族全員がテントにいたとき砲弾が降ってきた」という。犠牲者の半数近くが子どもだ。(サンデーモーニングより)

ラファでは空爆による虐殺がすでに始まっている(サンデーモーニング

ガザ北部から追い立てられるように南部へと着の身着のまま逃れた人々。ガソリンが不足するので馬車が重宝されるという(サンデーモーニング

南部のどん詰まりラファは超巨大キャンプに。ここに地上軍が攻撃すれば過去に例を見ない惨劇になると多くのNGOが憂慮する(サンデーモーニング

 どこに逃げても砲爆撃が襲ってくる。避難した先では寝るところも水さえない極限の暮らし。逃げ場のない4カ月の末、故郷の実家(もし破壊されていなかったら)に戻ろうとする人も出ている。
 そうした人たちも次々に無差別攻撃で命を落としている。

6歳のヒンド・ラジャブちゃんから赤新月社に助けを求める電話がかかってきた。イスラエル軍から攻撃を受けているらしい。電話がつながっている3時間ずっと救援を訴え、赤新月社イスラエル軍と救急隊の安全を保障するよう調整したという(サンモニ)

電話口から銃声と爆発音が聞こえ通信が途絶えた。ヒンドちゃんはこの車から親族5人とともに遺体で発見された。避難生活を送っていた一家が故郷のガザ市に戻ろうとしていた(サンモニ)

近くに破壊された救急車と隊員2人の遺体が発見された(サンモニ)

 国際人道法は、軍事攻撃に際しては、民間人と戦闘員を区別すること、民間人への被害を最小限に抑えるために実行可能なあらゆる予防措置を講じることを求めている.

 それをあからさまに無視して、医療機関、救急車まで攻撃するイスラエル軍。正気なのか?

 国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)は18日までに、昨年10月7日から始まった戦闘でガザにある医療関連施設の84%が何らかの被害を被ったと報告した。

 国連人道問題調整事務所(OCHA)は15日に、損傷を受けた学校は総数の79%に当たる約392校とし、重大な被害を受けたり、破壊されたりした学校は141校と伝えた。

 各国政府首脳は相次いでイスラエルのネタニヤフ首相に直接電話でラファ攻撃をやめるよう談判したり、戦闘を糾弾する厳しいメッセージを発したりしている。

 わが岸田総理はといえば、ヨルダンのハサウネ首相と会談し、「ガザ地区での危機的な人道状況や、事態が周辺地域に波及することで情勢がいっそう不安定化することに深刻な懸念を示しました」だと。なにをおいてもイスラエルの攻撃をやめさせるための断固とした行動と発信を。

プーチンの戦争目的は変わっていない

 近所の白梅が開いた。春の訪れが近く感じられる。

 焼酎を吞む日々なれど燗酒を今宵は飲まん「舟唄」思い (観音寺市 篠原俊則)

 コンビニでするめを買ってワンカップ今日はそれだけ亜紀さんしのぶ (大和郡山市 四方 護)

 舟唄を聴くしんしんと冬があり (越谷市 新井高四郎)

 11日の朝日歌壇、俳壇とも八代亜紀追悼の作が多かった。八代亜紀はとくにファンというほどではなかったが、音程が私にはちょうど合っていて、カラオケでは「もう一度会いたい」と「舟唄」を歌っていた。

 訃報におどろき彼女の歌をあらためて聴いてみた。弱い女が、すがって、捨てられて、泣いて、、というド演歌も多いが、「故郷へ・・」、「昭和の歌でも聴きながら」、「心をつなぐ10円玉」など色恋からは離れた歌にほろりとさせられた。

 八代亜紀追悼と並んで、こんな短歌も。

 「この下に人間がいます」と張紙し倒壊家屋の側で待つ家族 (防府市 山口正子)

 戦禍にて生後三日で逝きし子のたった三日も人生と呼ぶのか アメリカ 大竹幾久子)

 これが悲喜こもごもの世の中というものか。
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 ウクライナ戦争をめぐって動きがあった。

 まずゼレンスキー大統領が軍幹部を刷新するとして、ザルジニー総司令官を更迭した。いま内外の問題が山積しているなか、国民から最も信頼されるリーダーをはずすというのはかなりリスクがあり、今後が心配だ。

 ロシアではプーチン大統領に、トランプ氏の「同志」とされる米FOXニュースの元キャスター、タッカー・カールソン氏が2時間にわたってインタビューした。米欧や日本を含む「非友好国」からの単独取材は初めて。

 ここでプーチン氏は余裕たっぷりに2時間自説を語った。
 ウクライナ侵攻の「目的」は「あらゆる種類のネオナチの動きを禁止する」ことで、それは「まだ達成されていない」。「(欧米は)戦場でロシアに戦略的敗北を与えようとしてきたが、実現は難しいと理解しつつあるようだ」。「それに気づいたなら、彼らは次に何をすべきか考えねばならない。我々は対話の準備が出来ている」。そして米国に対して「本当に戦闘をやめさせたいのなら、武器の供給をやめる必要がある。そうすれば数週間で終わるだろう」と述べた。

 カールソン氏はFOXニュースの自分の番組で「米国はウクライナではなくロシアの側につくべきだ」などとロシア寄りの発言を繰り返し、トランプ大統領への支持を前面に打ち出してきたことでも知られる。プーチンの「数週間で・・・」の言葉は、トランプ氏の「大統領になれば24時間で戦争を終わらせられる」などという主張と響き合う。

 米上院では7日、ウクライナ支援を盛り込んだ法案の審議を始めるための採決が否決された。これはウクライナイスラエルへの追加支援とメキシコ国境からの不法移民対策を抱き合わせで盛り込み、妥協の末できた法案で、事前に与野党の交渉で合意していた。ところがトランプ氏が強く反対したため、当初賛成していた多くの共和党議員が反対に回って否決された。トランプ氏はウクライナ支援だけは認めないので、もめ続けることになる。

 カールソン氏のインタビューは、プーチン氏とトランプ氏の思惑が一致して西側のウクライナ支援の世論を掘り崩そうという意図だろう。ますますトランプに注意しなければならない状況だ。なにか謀略が裏で進行しているような、気持ち悪い気配。
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 6日の『朝日新聞』のオピニオン&フォーラム「戦争の語られ方」に作家の佐藤優が登場しておかしなことを語っている。プーチンの戦争目的が変わったし、ウクライナが負けるのは自明のことだから即時停戦すべしというのだ。

6日の朝日新聞朝刊

「(略)ウクライナが目標を達成できないことは相当の人がわかってきている。ならば一刻も早くこの戦争をやめるところにいくべきですが、そこはなかなかメディアが踏み込まない。今までさんざんあおってきたからです」

「これ(戦争)は2期に分かれると思います。境目は2022年9月30日にロシアがウクライナ東部ドネツク州など4州の併合を宣言したこと。それまでロシア側は、ウクライナ東部に住むロシア系住民の処遇をめぐる地域紛争との主張でした。他方、西側連合の考え方は民主主義対独裁。その意味で非対称な戦争でした」

「ところが4州併合によってロシアの目標があいまいになってしまった。と同時に双方が価値観戦争にしてしまった。終わりなき戦いです。価値観戦争は」

「一方で、プーチン大統領は勝敗ラインを明確にしなくなった。実効支配の領域が少しでも多ければ、当初目的は達成できたという形でいつでも停戦できるということです。(略)」

 

 私は年末のプーチン演説について

「14日に開かれたプーチン大統領の年末恒例の大記者会見では、笑顔でジョークをまじえ余裕しゃくしゃくの姿があった。ウクライナ侵攻の目的を聴かれたプーチンは、「我々の目的は変わらない。ウクライナの非ナチ化、非軍事化、中立化だ」と答えたが、これは侵攻時の「目的」そのまま。ロシアは侵攻をやめる気がまったくない。」と書いた。

takase.hatenablog.jp


 先のカールソン氏とのインタビューでも、戦争目的が変わっていないことは明白だ。

 この佐藤氏の妄論について東野篤子氏が一刀両断。

東野氏のXより

《この産経新聞の記事(https://sankei.com/article/20240205-P6NE46NBKVPZFFG3WWLBKUPQDQ/)と、朝日新聞佐藤優氏のインタビュー(https://digital.asahi.com/articles/ASS254H0PS25UPQJ004.html)がほぼ時を同じくして掲載されていますが、両記事を並べて佐藤氏とプーチンの実際の発言とを比較すると、

 プーチン氏(産経記事)は「戦争目的は変っていない(非ナチ化、非軍事化、中立化)」であると明言し、佐藤氏(朝日記事)は「実効支配の領域が開戦時より少しでも多ければ、当初目的は達成できたという形でいつでも停戦できるということです」と述べています。

 佐藤氏はこれまで「一般人には読み解けないロシアの意図を、独自の情報源を通じて受取り日本に伝達する」役割を自認してきた方です。プーチンの意図が読めていないわけはないでしょう。プーチンが停戦の意図を持っているかのような主張は、コメントプラスで駒木さんが指摘なさっているように、控えめに言ってもミスリーディングです
そうであればこの佐藤氏の主張は、侵略の成果をなにひとつ損なうことなくロシアに与えるようウクライナに迫ること、そしてさらにロシアの意向に沿った停戦の許容を日本の言論空間に浸透させることが趣旨とみるのが自然でしょう。》

駒木明義氏のコメント


 そのとおり。そして佐藤氏の意見は、小泉悠氏のいう「が」の出てくる議論の典型だろう。

 なお、産経新聞の記事には以下のような記述がある。

《(前略)プーチン氏は先月16日、ウクライナのゼレンスキー政権が対露交渉を否定していることについて「彼らが交渉したくないならそれでいい。だが、ウクライナ軍の反攻は失敗し、主導権は完全に露軍に移った」と主張。「このままではウクライナは取り返しのつかない深刻な打撃を受けるだろうが、それは彼らの責任だ」と述べ、ウクライナは早期に降伏すべきだとの考えを示した。

 さらにウクライナ全土からの露軍の撤退を前提とするウクライナの停戦条件を「法外な要求だ」と批判。「戦利品をロシアに放棄させようとする試みは不可能だ」とし、占領地域を返還しない意思を明確にした。

 プーチン氏は同1日にも「紛争をできるだけ早く終わらせることを望んでいるが、それはロシアの条件に従う限りでだ」と譲歩に応じない考えを強調した。

 プーチン氏はこの日、ロシアの考える停戦条件には言及しなかった。ただ、プーチン氏は昨年12月、侵攻当初からロシアの目標は「変わっていない」とし、具体的にはウクライナの親欧米派勢力の排除を意味する「非ナチス化」や、北大西洋条約機構NATO)加盟断念を指す「非軍事化」「中立化」だと説明。停戦にはウクライナがこれらの要求に応じることが必要だとプーチン氏が考えていることは明白だ。

 米シンクタンク「戦争研究所」も、プーチン氏の最終目標はウクライナを欧米から引き離し、ロシアの勢力圏下に置くことだと一貫して分析している。(以下略)》

 侵略戦争で獲得した領土は「戦利品」だというプーチン氏は、いったいいつの時代の頭を持っているのか。

 東野篤子氏の4原則、支持します。

ウクライナにいかなる問題があろうとも、軍事侵攻という手段を用いたロシアに明らかな非がある」

「侵略を受けたウクライナは支援されて然るべし」

「非難は侵略された側ではなく、侵略した側に対して行うべき」

「すべてはウクライナ国民の主権と意思と選択の問題」

小泉悠氏「ウクライナ戦争をめぐる『が』について」3

 5日は東京でもかなりの雪が降り、7日朝、畑に出ると一面の雪景色。雪をのけると下にはホトケノザがびっしり生えていた。立春である。

雪の下にはホトケノザ

寒さのなかブロッコリーが育ってきている

 最近の新聞から。

 米軍基地がPFAS(有機フッ素化合物)汚染をもたらしているが、在日米軍は県の立入調査に応じないなど植民地のような屈辱的な扱い。本国や欧州では対策費まで米軍が持って積極的に対応しているというのに。私が住む東京・国分寺市の住民のPFASの血中濃度は高く、このあたりではこの問題への関心が高い。横田基地でもPFAS漏れ事故があったので、その影響ではと推測されている。

6日の朝日新聞朝刊

 先日本ブログに書いた、ジャーナリスト安田純平さんの旅券発給を外務省が拒否したことをめぐる裁判について、朝日新聞の社説が載った。外相が裁量権を逸脱した点だけに絞っているのは問題を狭めているが、社説で取り上げたことは画期的。政府が立場の弱いフリーランスを狙って報道を封じようとしていることに対して、新聞、テレビなどの企業メディアはジャーナリズム全体への攻撃とみなして闘う必要がある。これを機にもっと声を上げてほしい。

朝日6日社説

 松元ヒロが夕刊に大きく出ていた。天皇家を揶揄するなど、ネタが危なすぎて「テレビで会えない芸人」と呼ばれる。私は4回ライブに行ったが毎回捧腹絶倒、また見たくなる。立川談志の言葉がいい。「俺はテレビに出てる芸人をサラリーマン芸人と呼ぶ。テレビの仕事をクビになるようなことは言わないからだ。昔の芸人は、他の人が言えないことでも言った。松元ヒロは芸人です。お前を芸人と認めます」。

朝日8日の夕刊

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 小泉悠氏が、雑誌『世界』23年10月号への寄稿の続き。なおこの論考執筆時は肩書が「東大先端科学技術センター講師」となっていたが、12月1日めでたく昇格して現在は准教授である。

類型3 2014年以降のウクライナを取り巻く状況に関する「複雑さ」

《マイダン革命において暴力的な事態が発生したこと、これがウクライナ東部ドンバス地方のロシア系住民に脅威感を与えたことなどについては、さまざまな立場から議論の対象とする余地がある。 

 しかし、この種の議論はしばしば「マイダン革命はアメリカが扇動した人為的なクーデターであった」、「マイダン革命の結果として成立したポロシェンコ政権や後任のゼレンスキー政権はネオナチ思想に毒されている」、「ゼレンスキー政権がドンバスのロシア系住民を虐殺している」といったロシア側のナラティブと容易に結びつく。これらは「ウクライナの非ナチ化」を戦争の大義として掲げたロシア側の言い分をほぼ無条件に肯定するものとなりがちであるが、そもそもこれらの主張はほぼ事実無根である。ゼレンスキー大統領やその閣僚たちにネオナチ思想の影響を見出すことは現実的に極めて困難であるし、ドンバスの紛争地域における民間人の死者数は開戦直前の2021年時点で25人と過去最低に過ぎなかった(国連人権高等弁務官事務所のデータに基づく)。しかも、このうち13人は地雷に関連する死である上、残る12人がなんらかの意図的な「虐殺」であるという客観的な証拠はない。マイダン革命でロシアの意にそわない政権が成立した結果、ロシアがドンバスに軍隊や武器を送り込んで戦闘が発生し、人々が巻き添えになっているというごくシンプルな事実が存在するだけである。

 公正を期すために述べると、2014-15年のドンバス紛争ではウクライナが極右勢力を取り込んで親露派武装勢力との戦いに投入し、その間に民間人や捕虜に対する残虐行為が行われたことは客観的事実である。ただ、残虐行為の報告件数は新露派武装勢力側のほうが多い。また、これらの事例は2014-15年に集中して発生しているものであり、2022年にロシアがウクライナに攻め込むことをなんら正当化するものではない。》

 ロシアはウクライナへの軍事侵攻の理由づけの一つに、ウクライナ在住のロシア系住民の保護を挙げており、この議論に関係する。

 ついで小泉氏は、類型2の議論で出ていた、侵攻の最大の理由づけであるNATOの東方拡大への懸念」も、「客観的事実としては大変に怪しい」と疑問を呈する。

《2008年にウクライナジョージアNATO加盟問題が持ち上がった際、ロシアが抱いたであろう懸念は理解できるものの、現実には欧州諸国はロシアの懸念を受け入れて加盟行動計画(MAP)の発出を思いとどまるよう当時のブッシュ政権を説得していたからである。その後、ジョージアウクライナNATO加盟問題は事実上棚上げされたままであって、2021年に成立したバイデン米政権も頑なにウクライナNATO加盟の言質を与えてこなかった。開戦前のウクライナアメリカの極超音速ミサイルが配備されてモスクワを脅かすような状況が存在していなかったことは明らかである。

 また、ロシアのウクライナ侵略が始まると、それまで中立を貫いてきた北欧のフィンランドスウェーデンNATOに加盟申請を行ったが、これに対してロシアはほとんど目立った対応を行っていない。1340キロメートルに及ぶフィンランドとロシアの陸上国境には北方艦隊軍管区の2個旅団が配備されているだけというガラ空き状態であり、フィンランド国境から弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)の母港であるセヴェロモルスクからも、160キロメートルほどでしかない。そもそも実現の目処さえ立っていなかったウクライナNATO加盟がロシアを侵略に駆り立てたというなら、今頃ロシアが北欧に侵攻していてもおかしくないということになろう。

 にもかかわらず、プーチン大統領は「二国がNATOに加盟してもアメリカの戦闘部隊が常駐しなければとよい」という極めて真っ当な対応で済ませているのだから、安全保障をめぐる「複雑さ」を受け入れるにしても、どうもチグハグの感が拭えない。
 北欧へのNATO拡大という事態に対してロシアが何もしていないわけではない。2022年12月、ロシアのショイグ国防相は、「ロシア北西部の軍事的安全保障を強化するため」として兵力を開戦前の1,5倍にあたる150万人に強化することを提案し、翌2023年3月にはプーチン大統領ベラルーシへの戦術核兵器配備の意向を表明した(今年7月には実際に核弾頭を搬入したとされている)。これはまさに前述した「抑止の信憑性を高めるように自国の軍事態勢を改善」する行いであり、ロシアに認められた正当な自衛権の範囲内と捉えられよう。別の言い方をすれば、ウクライナNATO加盟をロシアが真に恐れていたのだとしても(実際、恐れていただろう)、許されるのはここまでである。》

 以上、類型3におけるロシアの「ナラティブ」も片付き、いよいよ結論に向かう。
(つづく)

小泉悠氏「ウクライナ戦争をめぐる『が』について」2

 ウクライナの海軍の司令官が、欧米諸国が供与する射程の長いミサイルをロシア領内に向けた攻撃に使うことができれば、軍事侵攻を続けるロシアとの戦いに早期に勝利できると述べ、柔軟な運用を認めるよう訴えた

ウクライナ海軍のネイジュパパ司令官がイギリスのテレビ局、スカイニュースとのインタビューで述べた(NHK国際報道より)

 これだけだと意味が分からないだろう。

 ウクライナは連日、ミサイルや無人機で全土を攻撃されているが、それらはロシア本土の基地から発射される。だからロシアにある基地を叩く(敵基地攻撃)ことが必要になるのだが、それができない

 欧米からロシア本土への攻撃を止められているからだ欧米は、核戦争あるいは第三次世界大戦になるから「ロシアを刺激するな」ウクライナに言い渡し、長距離ミサイルなど本当に効果的な兵器を供与しないできた。つまりウクライナは相手を殴れないボクサーの如く、手足を縛られたままロシアと戦っているのだ。

 しかし、発射基地、または兵站基地などロシア本土の軍事施設を攻撃できなければ、防衛一方の不利な戦いを強いられ、兵士と市民の犠牲が増えるばかりだ。

 去年からようやくアメリカが射程の長い地対地ミサイルATACMSを供与しているが、供与されたのは最大射程が半分近く(モスクワにはとうてい届かない程度)に抑えられたものだった。

 司令官は、欧米諸国が供与する射程の長いミサイルを使った攻撃についての質問に軍が必要な戦闘能力を持ち、敵のインフラ施設を破壊する能力を持つほど、勝利は近くなる」と答え、ロシア領内の拠点を攻撃できれば早期に勝利できると主張し、柔軟な運用を認めるよう訴えた。手足を縛らないでくれとアピールしたのだ。

 去年6月に開始されたウクライナの反転攻勢が「不成功」に終わったとされているが、ウクライナの人々は、その責任はタイムリーに必要な兵器をウクライナに供与することを渋った欧米にあるととらえている。私も同意見で、現地を取材して、欧米はウクライナを勝たせようとしていないと感じた。「核を使うぞ」とロシアは脅すが、それにおびえることがむしろロシアをつけあがらせることになる。

Don't escalate. Time was lost and the lives of our most experienced warriors was lost 欧米の「ロシアを刺激するな」「戦闘をエスカレートさせるな」が大きな足枷になって、ウクライナの犠牲を増やしているとゼレンスキー大統領(国際報道1月17日放送より)。これはウクライナ国民の共通の思いだ。

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 類型2冷戦後の歴史に関する「複雑さ」について。

 ここでは「安全保障屋」、「軍事屋」としての小泉悠氏の面目躍如といった感じで論が進んでいく。

《仮に筆者がロシア軍参謀本部に勤務する軍人であるなら、NATOの東方拡大は到底受け入れ難いと考えるだろう。ことにウクライナはロシアと長大な国境を接し、しかもモスクワまでの最短地点は450キロメートルほどでしかない。開戦当時、プーチン大統領はこのような地政学的観点から「ウクライナアメリカの極超音速ミサイルが配備されればモスクワまで数分で届いてしまう」と訴えた。だが、それでも予防攻撃は許されないというのが現在の世界の秩序を基礎づけるルール、人類の叡智が産んだ秩序である。

 ならばアメリカのイラク戦争はどうだったのだ、という反論もあろうが、筆者はこのアメリカによる戦争にも明確に反対である。たとえイラク大量破壊兵器開発計画が事実であったとしても許されないものであったと考えるし、そもそも大量破壊兵器自体が存在していなかった。またイランや北朝鮮はほぼ間違いなく大量破壊兵器保有ないしその前段階にあるが、これに対して米国やイスラエル予防攻撃を仕掛けることには反対である。ロシアとの原子力協定で核分裂物質の生産を増強している中国は、今後10年ほどで核弾頭の配備数を2倍(中国の自己申告)から3倍(アメリカの見積もり)に増やそうとしているが、これも先手を打って中国を叩くべしという論拠にはならない。

 もちろん、この種の軍事的な論理はわからないではない。というよりも、筆者は基本的に「そちら側」の人間ではあるのだが、実力行使に至るまでには何段階もの手段を講じうる。核兵器が問題であるというならば核軍備管理を模索できないのか。それもダメならば抑止の信憑性を高めるように自国の軍事態勢を改善したり同盟を強化したりすることはできないか。せめて危機事態において核使用を回避しうるホットラインを設けられないか。こうした手を尽くした上で自国が真に存亡の危機に立ったとき、初めて軍事力を用いるという選択肢が真剣に考慮されるべきである。ロシア自身も、イラク、イラン、北朝鮮等の大量破壊兵器開発問題に関しては対話による解決策を訴えてきた側であった。

 ところが、今回の戦争において、ロシアはこのような努力を払っていない。ウクライナ周辺に軍隊を集結させて圧力をかける一方、開戦前年の12月になって「NATO旧ソ連諸国には拡大させない」との要求を米国に突きつけたが、拒絶にあったという経緯である。それからおよそわずか2カ月でロシアはウクライナへの侵略に及んだのであって、戦争回避のためにあらゆる努力を払ったとは到底言い難い。

 また、ウクライナが第二次ミンスク合意(ドンバス紛争解決のために2015年に結ばれた合意)を履行しようとしないことにロシアが不満を持っていたことも事実ではあるが、それではロシアが合意履行のための交渉に真摯に取り組んでいたかと言えばやはりそうでもない。開戦直前には、ウクライナのゼレンスキー政権が第二次ミンスク合意履行に向けた妥協姿勢をドイツのショルツ首相に伝達し、ロシアのラヴロフ外相も交渉継続の余地ありと主張したにもかかわらず、プーチンが一顧だにしなかったことからもこの点は明らかであろう。

 一人の安全保障屋として言わせていただくならば、ロシアは自国の安全を保障するための手を尽くさず、いきなり暴力を振るうという「手抜き」で今回の戦争に及んだというふうに見えるのである。》

 小泉氏の専門分野だけに、極力抑えた筆致で書いている。実力行使の前に対話などの手を尽くせという指摘は、日本の安全保障論議のときにも重要な点である。

小泉悠氏「ウクライナ戦争をめぐる『が』について」

 宗教法人を所管する盛山正仁文部科学相が、統一協会側との事実上の「政策協定」にあたる推薦確認書に署名していた!! 朝日新聞のスクープ。

NHKより

 盛山文科相は「十分に内容をよく読むことなくサインをしたのかもしれません」などととんでもない答弁をしたが、世間では、連帯保証人の書類であっても署名したあとで「十分に内容を読むことなく・・」と釈明しても許されない。万が一それが本当だとしても、政策協定をいいかげんな気持ちで結んで政治家がつとまるのか。嘘をつき続けてきたこともあわせ、どこからみても大罪。大臣だけでなく議員も辞任するしかない。

 今回の「裏金」問題でも、自民党統一協会の時と同じく、所属議員へのアンケートと内部調査ですますのだという。しかも質問は2問だけ。

 岸田内閣はもう政府の体をなしていない。総辞職相当だ。

 

 朝日川柳から

やっている振りにもならぬアンケート 京都府 小林茂

「裏金は?」「ありません」「はい次の人」 神奈川県 山本晴男

調査って壺(つぼ)のときにもやったけど 栃木県 森島彰

計ったような適材適所文科相 山形県 大森志津

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 政治的には「保守」に分類されるはずの小泉悠氏が、去年、岩波書店の雑誌『世界』に論考を載せたときにはさすがに驚いた。メディア関係者の間ではちょっとした話題になった。

 このウクライナ戦争をめぐる『が』について」(『世界』10月号)ウクライナ戦争をめぐる議論の核心をついているだけでなく、彼の人柄も出ていてとても興味深い。読んでいない人も多いと思うので、抜粋で紹介したい。

《この間、日本でも多くの論考が世に出たが、そのうちの少なからぬものが「ロシアの侵略は許されるものではないが」という枕詞で始まっていた。これがどうもひっかかる、というのが本稿の根柢にある問題意識である。

 この枕詞は、ロシアの行為が「侵略」であり「許されるものではない」という前提を置いている。したがって、ロシアがウクライナに攻め込んで破壊と殺戮の限りを尽くしていることを決して肯定するものではないだろう。》

《一方、この枕詞で始まる言説自体に改めて注目してみると、その多くは、戦争の背後にある「複雑さ」を見落としてはならないと指摘する点で共通するようだ。》と論考は始まる。

 私もウクライナ問題をいろいろな人と議論するなかで、この枕詞に何度も出会った。たいていは、「ロシアだけを批判してはならない」という結論に持っていくのだが、なかにはこの戦争はアメリカの軍事産業が主導しておりウクライナはそれに踊らされているに過ぎないとまで主張するむきもあった。ただ、ロシアの所業はあまりに酷すぎるので、まずは一応批判しておかないといけない。そういう「が」を枕詞にする議論を小泉氏はつぶしにかかる。

《大掴みに眺めてみると、ここでいう「複雑さ」は概ね次のように分類することができよう。

類型1 ウクライナという国家に関する「複雑さ」

 ウクライナは歴史的に現在のような形で存在したことがなく、それぞれに異なった文化・宗教・言語を包含しているという点がこの種の議論では強調される。また、ウクライナ汚職をはじめとする深刻なコンプライアンスの問題を抱えた国家であることもここでは指摘されることが多い。

類型2 冷戦後の歴史に関する「複雑さ」

 冷戦後、NATOがロシアの反対にもかかわらず拡大されてきたというのがここで強調される点である。したがって、ロシアが抱いてきた安全保障上の懸念に言及することなくしてこの戦争を語ることはできないというのがこの類型における重要な論点となる。

類型3 2014年以降のウクライナを取り巻く状況に関する「複雑さ」

 現在の事態は2014年のウクライナにおける政変(マイダン革命)の延長上にある。したがって、この戦争に関してはマイダン革命とこれに続いて2014-15年に発生した一連の軍事的事態の性質に関する評価を踏まえなければならないとするのがこの立場である。》

 こう三つの「複雑さ」を挙げた上で、小泉氏はこれらをいったん認める。

《結論から言えば、筆者は以上のいずれの主張に関しても原則的には反対ではない。複雑なものは複雑に語らねばならないのであって、これを捨象してしまえば「正義と悪の戦い」といった過度に単純化された理解でしか世界を見ることができなくなってしまう。(略)

 ただ、問題としたいのは、このような「複雑さ」を受け入れた上でも尚、「ロシアの侵略は許されるものではないが」という逆接辞を付す余地はあるのかどうかである。この「が」というたった一文字はなかなかに厄介なものであって、よほど慎重に用いるのでない限り、我々が生きる世界の秩序を容易に掘り崩しかねない危険性を孕んでいる。》

 そこでまず「類型1」を考えてみる。

ウクライナが歴史的に現在のような形では存在してこなかったこと、多様なアイデンティティを抱える国家であること、多くのコンプライアンス問題を持つこと。これらは基本的に客観的な事実である。プーチン大統領が2021年7月に公表した論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」で強調したのも、まさにこの点であった。

 しかし、これらの「複雑さ」は逆説の「が」を導かない。この種の「複雑さ」に関する議論が主張できるのは「ウクライナは複雑である」ということまでであって、それ以上の何かに関する根拠とは一切ならない。

 なんとなれば、この程度のことが戦争の理由たり得るならば、この世の中は戦争を仕掛けられても仕方がない国だらけであることになってしまうからである。ウクライナを侵略した当のロシア自身、歴史的には今のような形をとるようになったのは近代になってからであり、多様なアイデンティティを持ち、汚職と経済的不平等と権威主義的抑圧で問題視されている国でもある。だが、それを理由にロシアへの侵略を正当化する声があるならば筆者は断固反対したい。

 もっと言えば、国家であるとか、その基礎となる国民という概念自体が近代になって生まれた虚構(フィクション)なわけである。(略)ただ、フィクションは解体されねばならないのだと主張するにしても、その手段は非暴力的なものでなければならない、という点は言えるのではないだろうか。》

 小泉氏、なかなかの論客、というかケンカ(論争)が強い。

 さらに、国連が明らかにした戦争の犠牲者の数を挙げつつ、これはあくまで確認できただけの数であるとして—

《ロシア軍占領地域においてどれだけの死者が出ているのかは全く明らかでない。実際には万の単位で無辜の一般市民が殺害され、あるいは障害にわたって回復不能な障害を負っているはずであるし、その中にはロシア軍兵士が行った住民殺害・虐待行為、治安機関による組織的な拷問・レイプ・処刑によるものも相当含まれていると考えられる。

 どのような「複雑さ」を考慮したとしても、これほどの破壊と殺戮をもたらす権利はどの国家にもあるはずがない。人々が平穏な生活を営む都市にクラスタ―爆弾やサーモバリック弾を打ち込んで吹き飛ばす権利が誰にあるというのか。》

 このあたり、熱のこもった踏み込みでまず類型1を「論破」している。

(つづく)

ウクライナで軍総司令官解任の可能性

 ウクライナで政権と軍のトップの間で意見の相違が大きくなっているとの報道が数日前から出てきた。

 ゼレンスキー大統領が、軍のトップ、ザルジニー総司令官を解任する方向で動いていることを4日、イタリアの公共放送RAIとのインタビューで認めた。ゼレンスキー大統領は、「リセットと新たな出発が必要です。軍だけでなく、複数の政権幹部の交代を考えています」と語ったという。

日テレのニュースより

 去年秋、私がウクライナに行って、ゼレンスキー氏にあまり人気がない一方で、ザルジニー氏が国民に圧倒的に支持されているのを知った。もしザルジニー氏が大統領選に出たら間違いなく当選すると私の通訳は自信ありげに言ったものである。

 去年12月に発表された世論調査ではザルジニー氏を「信頼している」と回答した人が88%にのぼり、ゼレンスキー大統領の62%を大きく上回り、今も国民からの人気が高いことがうかがえる。

 ゼレンスキー氏とザルジニー氏は以前から戦況の見方や戦闘の進め方をめぐって意見の相違があったという。ザルジニー氏は軍人らしく見方がリアルで、去年秋には外国プレスに両軍が「膠着状態」だと認め、このままだとロシア軍に有利な情勢になると語った。これにゼレンスキー氏がすぐ反論、「膠着状態」ではなくウクライナが攻勢にあると主張。作戦がうまくいっていないとなれば、欧米からの軍事支援をつなぎとめられないと見たゼレンスキー氏の強がりだったと見られている。

 年末には、ザルジニー氏が前線の兵員不足が深刻で50万人の追加動員が必要と政府に対策を要求したが、国民からの反発が強いとみたゼレンスキー氏が「慎重に検討」すると応じた。ゼレンスキー氏はやはり政治家なのである。

 もし本当にザルジニー氏を解任するなら、国民にも現場の軍部隊にも大きな衝撃を与えるだろう。ちょっとこわい。

 動員年齢を現在の27歳以上から25歳以上に下げるなどの軍への追加動員案だが、年明けから国会で審議入りする予定だった。ところが今になっても、まだ審議が始まっていない。 

 ロシアが刑務所の受刑者までをも兵士として動員し、消耗品として戦場に投入するのに対して、民主国家ウクライナでは、兵士の追加動員は世論を二分するデリケートなテーマである。

 首都キーウでは、昨年10月以降、前線にいる兵士の妻や母親たちが、「夫や子どもが無期限で戦地に派遣されている。兵士の除隊時期をはっきり示せ」と政府に不満をぶつけるデモを定期的に行っている戒厳令でデモが禁止されているにもかかわらず、この抗議行動が弾圧されたり逮捕者が出たりすることはない。また、汚職をはじめとする政府の不祥事は容赦なく庶民に批判され、公然とジョークのネタにされている。

戦争のなかスタンダップコメディ(即興話芸)がさかんで、人気急上昇のアーニャ・コチュグーラは、プーチンからNATO、国連までこき下ろし笑いを誘う。政府の汚職も格好のネタになる。
https://www.youtube.com/watch?v=4XGXsQBwxx4より)

 戦時下でも人権が尊重されるウクライナ社会の雰囲気にはほっとさせられる。

 民主主義はたしかに非効率かもしれないが、これこそが国民の強靭な抵抗を支えているのだろう。
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 ウクライナの軍事情勢については、私は小泉悠東京大学先端科学技術研究センター准教授の分析を信頼している。

 先日、「BSフジLIVEプライムニュース」で「小泉氏・兵頭氏と検証 “兵器不足”ウクライナは守り切れるか…米露大統領選の影響は?」で小泉氏が戦争の現状と今後の見通しを語っていたので抜粋で紹介したい。

「BSフジLIVEプライムニュース」1月30日放送

Q:今後1年の戦況はどう展開するか。

小泉悠 :ウクライナは持ちこたえるだけではダメで、負けない程度に後退しながら後方では2025年以降の反転攻勢のための予備戦力を作らねばならない。相当厳しい1年になることは間違いない。

Q:米ニューズウィーク誌によれば、1日あたりの砲弾発射数はロシアが2万発以上、ウクライナは約2000発。10対1の火力差がある。

小泉悠:塹壕戦かつドローンの戦争であり、お互い砲兵戦で叩き合う状況でこの火力差は相当厳しいと思う。攻勢をかけようとしているロシアがより火力を必要とするのは確かだが、ウクライナも火力が足りなければ局所的な逆襲も難しい。発射数が落ちているのはアメリカから弾が来なくなり、ヨーロッパにも弾を作る能力が不足していたため。ドイツやフランスが増産に入っているが、攻勢に出るためにはヨーロッパの弾薬生産を抜本的に増やすか、アメリカの軍事支援を再開させるしか選択肢がない。

Q:ウクライナの戦力立て直しの肝は西側諸国の支援。NATOは155ミリ砲弾22万発ほどを生産する契約を締結したと発表したが、納品は24~36カ月後としている。

小泉悠:ウクライナ向けの砲弾供与プログラムは複数走っており、2~3年後まで一切来ないという話ではない。だが、30年間基本的に大規模戦争は起こらない前提でいたヨーロッパの国々の、しかも多くは国営ではない軍需産業がすぐ増産に転じることは難しい。プーチンの命令でいきなり増産ができてしまうロシアとの差は歴然で、間違いなく今後1~2年、時間はロシアに味方する。だがその後、ヨーロッパ諸国の本来の経済力と産業能力が発揮された場合、今度は時間がロシアの負担になる可能性もある。

Q:アメリカでは今後、予備選挙でトランプが共和党の候補として確定する可能性が高い。その後、ウクライナ支援はどうなるのか。

小泉悠:アメリカの軍事支援が2024年中には再開しないことは考えておいた方がいい。年内はヨーロッパの軍事支援だけでもウクライナをもたせられると思うが、問題は2025年以降にトランプが、アメリカとして一切ウクライナ支援はしないと本格的に言い出した場合。だがトランプ政権のときにも、蓋を開けてみればそこまでロシアに甘かったわけではなかった。対ロシアの制裁強化法案まで通った。「アメリカの支援が来ない」=「ウクライナは全く手も足も出ない」では決してない。ウクライナは、すぐには勝てないが負けない期間を引き延ばす長期戦略を確保するのでは。

Q*日本は武器の支援をしていない。「サハリン2」から天然ガスを入れているが、この問題にどう向き合うべきか。

小泉悠:ロシアの天然ガスへの依存を減らす方針は日欧共通で出しており、私は賛成。ではウクライナに対しどこまでやるか。現状の資金援助や民生支援は評価されるべきだが、侵略を受け弾もなくなって非常に厳しい状況の国に対しては殺傷性装備の供与を考えていいと思う。道義的なこと云々というより、ここでロシアの侵略が成功することは日本の安全保障にとって非常にまずい前例を作る。日本の安全保障問題として考えてもいいのでは、と一軍事屋として思う。

Q:先日、ロシア軍に受刑者で構成される突撃部隊が編成されていると報じられた。戦闘が激化する東部アウディイウカでは繰り返し投入され、1日300~400人喪失している。

小泉悠:ものすごく嫌な言い方をすると「死なせてもいい兵隊を使ってウクライナ軍に損害を強要している」。守りを強要し弾も人間も消耗させていく間、正規軍の損害は比較的抑えられる。もう一つ私が非常に嫌だと思うのは、占領されているウクライナの4州はロシアの言い分としてはもうロシアであり徴兵をしていて、今後この兵士をウクライナ人と戦わせることがロシアの法律上に可能となる可能性があること。プーチンはこれらにより、支持基盤にあまり影響させず戦争を長期継続する目算なのでは。

Q:2023年末から続くロシアのミサイル攻撃は北朝鮮の兵器を使用しているのでは、との話が出ている。ウクライナ国防省情報総局のブダノフ局長は「北朝鮮はロシアへの最大の兵器供給国。北朝鮮の支援がなければ、ロシア軍は破滅的な状況になっていただろう」。

小泉悠:ミサイル技術の流出や場合によっては原子力潜水艦用の技術など、ロシアの技術者が指導するという枠組みは大いにありうる。我々にとって全く縁遠い話ではない。

(「BSフジLIVEプライムニュース」1月30日放送)
https://tver.jp/episodes/epschannq3

 

 小泉氏は、「殺傷性装備の供与を考えていいと思う。道義的なこと云々というより、ここでロシアの侵略が成功することは日本の安全保障にとって非常にまずい前例を作る。日本の安全保障問題として考えてもいいのでは」と踏み込んでいる。日本は今はウクライナ軍に関する支援としては、金属探知機や防弾チョッキ、ヘルメットなどまでだが、ウクライナが追い詰められている現状では、銃器やミサイルなども支援すべきでは、という提言だ。小泉氏ならたぶんこうくるだろうと予想していたが、これは議論する意味があると思う。

 今月19日には、「日ウクライナ経済復興推進会議」が東京都内で開かれる。

ウクライナは日本の企業進出や技術協力のほか、財政援助にも期待を寄せているとみられる。ウクライナは今年の国家予算3兆3500億フリブナ(13兆円超)のうち半分近くの1兆5700億フリブナを支援国からの援助などで補う計画だ。しかし、最大の後ろ盾である米国からの支援の先行きは不透明な状態が続き、当面の資金確保が急務となっている。

 ウクライナは同会議を通じ、電力・住宅・交通インフラの再建や地雷除去技術、無人機(ドローン)探知技術などで日本との協力を進めたい考えだとみられている。

 会議では財政援助も議題に上る可能性がある。ウクライナのゼレンスキー大統領は1月11日、訪問先のラトビア「支援国の財政援助がなければ、われわれは1100万人の年金受給者に年金を支払えない」と訴えた。」(産経新聞5日)

 日本は今後、一般的にウクライナの人々を支援しましょうというのではなく、何をどう支援するのか、その内容を戦略的にかつ具体的に考えなくてはならない。