映画『ナワリヌイ』を観てきた。去年6月公開なので、遅ればせながら、なのだが、衝撃のドキュメンタリーだった。すばらしい。
以下は作品オフィシャルサイトの解説―
《ロシア反体制派のカリスマ、アレクセイ・ナワリヌイを追ったドキュメンタリー。
プーチン政権への批判で国内外から注目を集め、若年層を中心とする反体制派から支持を集める政治活動家ナワリヌイ。政権にとって最大の敵と見なされた彼は不当な逮捕を繰り返され、巨大な力に追い詰められていく。そして2020年8月、ナワリヌイは移動中の飛行機内で何者かに毒物を盛られ、昏睡状態に陥る。ベルリンの病院に避難し奇跡的に一命を取り留めた彼は、自ら調査チームを結成して真相究明に乗り出す。「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」のダニエル・ロアーが監督を務め、暗殺未遂事件直後からナワリヌイや家族、調査チームに密着。事件の裏に潜む勢力を驚きの手法で暴いていくナワリヌイの姿を捉え、ロシア政府の暗部に切り込んでいく。
サンダンス映画祭2022でシークレット作品として上映され、観客賞とフェスティバル・フェイバリット賞をダブル受賞。第95回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した。》https://eiga.com/movie/97181/
この映画では、プーチン政権の極悪非道が次つぎに明らかにされるのだが、そのプロセスがあまりに劇的で、まさに「事実は小説よりも奇なり」を地で行く展開をする。
ナワリヌイはもとは投資家だったが、ロシアでは汚職がはびこり、政権とオリガルヒ(財閥)が経済を好きなように支配しており、まともな投資ができないと政治の世界に飛び込んだ。汚職を暴露しプーチン体制に反対する運動で頭角を現わす。13年にはモスクワ市長選挙に立候補するが、完全な濡れ衣の詐欺罪で逮捕される。その後もプーチン政権からの弾圧、妨害が続くが、人気はどんどん高まり、プーチンを脅かす大物政治家とみなされていく。
20年8月、ナワリヌイはシベリアのトムスクからモスクワに向かう飛行機の中で呼吸困難に襲われる。飛行機はオムスク空港に緊急着陸。その後、現地の病院に入院するが重篤な状態が続き、家族の要請でドイツに搬送され一命をとりとめる。
ドイツ政府は、毒物「ノビチョク」が検出されたと発表、ロシア政府に説明を求める。というのは、ノビチョクはロシアが開発した神経毒で、呼吸困難などを起こし自然死のような死に方をする。
病床で、ノビチョクが検出されたと告げられたナワリヌイは喜ぶ。これを使用したことで、ロシア政権が犯人であることがはっきりしたからだ。プーチンはバカだなとナワリヌイ。英国で18年3月、元ロシアのスパイとその娘がノビチョクを浴びて重体となり、英国政府がロシアの関与と結論づけていた。
ナワリヌイに何が起きたのか、事実究明する活動が始まる。大きな役割を果たすのが「ベリングキャット」という調査チーム。ベリングはベルをつけるという意味で、猫に鈴をつけようというネーミングだ。ウソの情報やフェイクニュースを暴くことを使命としており、そのためにインターネットで寄せられるエキスパートや様々な人たちの協力を得ながら調査を進めていく「オープンソース・ジャーナリズム」だ。
このベリングキャットは、2014年ウクライナ上空でマレーシア航空機が撃墜され乗員乗客298人が死亡した事件で、ロシア側のミサイルが発射されて命中した情報を明らかにした。また、ロシアのウクライナ侵攻では、劇場が爆撃され、中に避難していた多くの人たちが亡くなった事件や、産院への爆撃など、ロシアが関与を否定する惨劇が実際にロシアによるものであることを暴露している。
ベリングキャットは、ナワリヌイを殺害しようとした諜報機関FSB(ロシア連邦保安局)の殺人グループを特定。さらに彼らの携帯電話番号も入手した。ここからがすごい。
ナワリヌイが自ら彼らの携帯に電話するのだ。ナワリヌイはロシア国家安全保障会議(NSC)の高官と身分を偽り、殺人グループの一人、コンスタンティン・クドリャフツェフに、なぜナワリヌイの殺人に失敗したのかと尋ねる。するとクドリャフツェフは、飛行機が緊急着陸して解毒剤を注射したから死ななかったが、あのままもう少し飛んでいれば死んでいた筈だと釈明。そして、ホテルのナワリヌイの部屋に忍び込んで、ノビチョクをパンツの縫い目に仕込んだこと、さらに入院した病院から毒物の痕跡をなくすためにナワリヌイの衣類を回収したことまでしゃべってしまう。まさか、まさか・・と目を離せない、まるでミステリーのような展開が圧巻だ。
プーチンは出身母体のFSBを手足のように使って、これまでも政敵やリトビネンコ(元FSB工作員でプーチンの謀略を暴いた)を暗殺してきた。
そもそもプーチンが権力を掌握する過程がすべて謀略だった。
映画ではナワリヌイの殺人未遂を追う中で、プーチンがいかに腹黒い指導者であるかが明らかになっていく。そしてプーチンが記者からナワリヌイについて質問されたときの不快感と不安を隠せない表情が見ものだった。
また、ナワリヌイが命を狙われながらも闘いをやめず、ドイツからロシアに帰る選択をする豪胆さに感銘を受けた。彼の冗談を連発して皆を笑わせる姿、家族ぐるみで闘う妻と二人の子どものようすも印象に残る。案の定、21年1月17日、モスクワに飛行機が着くと、その場で逮捕された。現在懲役9年の判決を受けて刑務所に入れられている。
本人は獄中にありながらも、ナワリヌイの調査チームは、プーチンが黒海のリゾートに1400億円の豪華な〝お城“をこっそりと造っていたことをドローン映像で暴露し、大きな反響があった。
https://www.youtube.com/watch?v=MAPkNRmXQvc
なお、ナワリヌイは、ロシアのウクライナ侵攻がはじまった去年2月24日、仮設の刑務所内裁判所で「私はこの戦争に反対です」「この戦争は、ロシアの問題から注意をそらすように設計されていると思う。それは、より大きな貧困につながるだけだ」と意見を表明し、「この戦争を引き起こしたのは盗賊や泥棒だと思います。私は、この泥棒の犯罪政権と戦うために政界に入りました」と付け加えたという。(wikipediaより)
ナワリヌイは、ロシアとロシア人の希望である。
一日も早い解放を!