統一教会と北朝鮮 蜜月の背景

 京セラとKDDIの創業者、稲盛和夫が8月24日、老衰のため京都市内の自宅で90歳で亡くなった。“経営の神様”として知られ、倒産した日本航空JAL)を再上場させた。

NHKニュースより

 稲盛氏とはちょっとしたご縁がある。

 私はカンボジアシェムリアップにあるシルクの村「伝統の森」を応援しているが、稲盛氏はそこを訪ねていた。アンコールワットから田舎道を車で1時間近くかかる辺鄙な場所に多忙な稲森氏が訪ねていたのだった。

 「伝統の森」を荒地からつくり上げた森本喜久男さんの「遺言」を私がまとめた『自由に生きていいんだよ~お金にしばられずに生きる“奇跡の村”へようこそ』旬報社、2017)にこのエピソードが出てくる。

takase.hatenablog.jp

 森本さんが点から面へと展開していくという社会改革論を語った第4章「「点」からはじめよう」。

 「伝統の森」ではお母さんたちが子どもを作業場に連れてきている。この村には当時、年間2千人近い見学者が来たが、子連れの作業風景に感銘を受ける人が多かった。

 ある美容院のチェーン店のオーナーは、日本に帰国してから、自分の店に子連れのお母さんが働ける環境をつくった。美容室の隣に、お母さんたちが交代で自分と仲間の子どもたちの面倒をみる部屋を設置したのだった。

 役所にやってもらうのではなく、まずやれることを自分たちでやっていく、それがやがて行政を動かしていくと森本さんは語る。点が面を動かしていくという。

森本
「実は、数年前、稲盛和夫さんがここに来た。ここに何かビジネスの展開にヒントになるものがあるのでは、と見学に来たらしい。すごいなと思ったのが、あれだけ忙しい人が、わざわざ時間をとって、この田舎までやってきたこと。現状維持ではなくて、常に次の進化を求めている人たちは、自分が何か気になることがあれば、それをすぐに確かめるんだね。その行動力がビジネスにとって大切なネクストを生み出すものだと思う。

 その後、しばらくすると稲盛さんに心酔している若い経営者たちが「どんな村かちょっと様子を見に行こうよ」とここに来るようになった。稲盛効果というのかな。

 で、実際に来た人がね、「やっぱりあそこ、おもしろい、どこか違うぞ」と感じてくれて、ほかの人たちにそれを伝えていく。それがいま、広がりはじめている。(略)」

高世:日本で経営者の考え方が変われば、社会の変化ははやいでしょうね。

森本
「そうだよ。子どもを預ける場所がないから働けない、というお母さんたちがいるのなら、子どもを職場に連れてきて働けばいいじゃないか。経営者の考え一つで、そういう職場は実現する。これからもっと増えていく。間違いなく。

 でも、通勤ラッシュで子どもを連れて通うの大変だ。そしたら1時間遅く出勤してもいいことにしよう。会社を退けるのも1時間早くして、ほかの人が1日7時間働くところを、そのお母さんは5時間働くだけでいいとなれば、通勤の環境もよくなるし、働きやすい環境になる。」(P148-149)

 

 この村は電気が通っていないし、もちろんコンビニもない、自給自足に近い村だったが、私たちに人の幸せとは何かを考えさせた。

 いま日本社会はボロボロだが。経営者たちにはもっとドラスティックな発想の転換を期待したい。
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 「反共」を旗印に掲げた統一教会(通称)の文鮮明が、一転して北朝鮮金日成にすり寄っていったときには私も驚いた。北の共産政権を叩き潰せ!と言っていたはずなのに・・・

文鮮明(左)と金日成(TBS報道特集より)


 この「転換」には統一教会の本質が出ていると思うので、9年前の記事統一教会が貪る『2018年平昌五輪』」(『新潮45』2013年11月号)から引用する。

 記事を執筆したのは裵淵弘(べ・よのん)さんで私の古い友人だ。朝鮮半島の闇を取材しつづけてきたジャーナリストである。

(前略)
 統一教会北朝鮮の因縁は古く、教団草創期にまで遡る。

 平安北道定州郡生まれの文鮮明は、1948年、女性信者に対し性的に淫らな儀式を行っていたとして朝鮮労働党当局に拘束され、収容所送りとなるが、朝鮮戦争のどさくさで脱獄。避難先の釜山で布教活動に入り、戦後ソウルで「世界基督教統一神霊会」を立ち上げた。その時掲げた教義が共産主義に勝つという「勝共」だった。68年には「国際勝共連合」を結成して本格的な勝共運動を始め、日本でも信者を議員秘書として送り込むなど政界に深く入り込んだ。

 一方で、70年代から90年代はじめにかけ、日本で大理石の壺や多宝塔を使った霊感商法で荒稼ぎをし、現在の経済基盤を築いたとされる。

 だが、共産圏国家の連鎖崩壊が現実となり、「勝共」が色褪せてしまうと、文鮮明は教義を「統一」に修正し始める。北朝鮮との接点を模索するうち、マダム朴の異名を持つ在米韓国人女性実業家の朴敬允(パクキョンユン)と知り合い、水面下の交渉が始まった。こうして実現したのが91年11月の文鮮明金日成会談で、意気投合した二人は〝義兄弟の契り〟まで結んだ。

 この時の会談で、金主席が「世界的な組織網を持つ文総裁が金剛山開発をしてくれることを望む」と語ったことが、教団が北朝鮮の観光事業をてがけるきっかけとなった。統一教会と朴敬允は、北朝鮮の「アジア太平洋平和委員会」(対韓国戦略を担う労働党統一戦線部傘下の機関)と共同出資して「金剛山国際グループ」を設立し、金剛山観光事業が動き出した。社長に就任したのは朴相権だった。

 94年1月、文鮮明側近の朴普熙(パクポヒ)が、霊感商法で訴えられた日本の統一教会系企業「ハッピーワールド」幹部を連れ金日成を表敬訪問し、金剛山観光の妥当性調査報告書を提出。2日後、内閣に相当する政務院が、金剛山開発予定地の50年間の土地利用権、第三者との合弁権などを金剛山国際グループに与える委任状を出す。この合意のため巨額の裏金が北朝鮮に渡ったと、後に朴敬允は明らかにしている。

 だが、事業は思うように進まなかった。北朝鮮で核開発疑惑が発覚し、クリントン政権が核施設の限定爆撃を計画するなど、観光どころではない。状況に変化が生まれるのは、98年初めに太陽政策を掲げる金大中政権が発足してからだ。同年六月、韓国最大の財閥、現代グループ創業者の鄭周永が訪朝を果たし、11月から「現代峨山」による金剛山観光が始まるのである。

 契約を反故にされた統一教会は、それでも北に貢ぎ続けた。同時期に教団の平和自動車が北朝鮮国営の「朝鮮連峰(リョンボン)総会社」と7対3の比率で出資し、南北合弁の「平和自動車総会社」の設立に合意。理事長(社長)に朴相権、副理事長にハッピーワールド幹部の小柳定夫を就任させた。初期5年間の投資額は3億ドルに達し、日米の教団資金がつぎ込まれたと考えられている。

 平安南道南浦市に工場を建設した平和自動車総会社は、イタリアのフィアット社の部品をノックダウン生産で売り出し、08年から黒字を出し続けている。乗用車の「フィパラン(口笛)」やミニバスの「三千里」は今まで約一万台を売りさばいた。教団はこの他にも、自動車部品会社や注油所、平壌市内の普通江ホテルなどの現地法人も運営することになる。

 昨年末、朴社長はその平和自動車総会社を含むすべての株を、北朝鮮に無償で譲渡してしまう。教団の説明によれば、株譲渡は生前の文鮮明の意思を尊重し、総裁に就任した韓鶴子が朴社長に指示したのだという。

 先述の戦勝節式典で金正恩が朴社長を厚遇した背景には、こうした事情があり、その見返りが馬息嶺スキー場の利権である可能性は十分にある。

 同舟相救う統一教会北朝鮮。彼らの当面の目標は金剛山観光の再開だ。08年に韓国人女性観光客が北朝鮮兵士に射殺された事件を機に、観光は中断されたままになっている。続く10年に発生した韓国海哨戒艦沈没事件により、韓国政府は開城工業団地を除く南北の人的・物的交流を全面的に中断する「5・24措置」を発表した。

 2年前の金正日誕生パーティーに朴敬允とともに参加した朴社長は、朝鮮労働党統一戦線部長の金養建(キムヤンゴン)書記に、「現代グループに与えた金剛山観光の独占権を破棄しようと思います。その仕事を手伝ってもらいたい」と相談されていた。だが、同措置が解除されない限り、馬息嶺スキー場どころか金剛山観光にも目途がたたない。

 北朝鮮は9月25日に予定されていた南北離散家族の再会事業をテコに、同措置を解除させようとしたが、韓国側の消極的な態度に業を煮やし、強硬姿勢に逆戻りしている。挑発は宥和を引き出す常套手段なので、韓国政府が無条件で措置解除のカードを切ることはないが、五輪開催中に軍事挑発でもされたらたまったものではない。遠からず朴槿恵(パククネ)政権は観光再開に踏み切るしかなさそうだ。

 金剛山観光は04年に陸路ツアーが始まってから観光客が増え始め、現代峨山の売り上げも年間200万ドル以上に達したことがあった。統一教会がスキー観光を独占すれば、同規模の利益がもたらされ、瀕死の教団が息を吹き返すことになりかねない。(終)

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 記事に指摘されているのはこの当時の動きだが、統一教会北朝鮮の関係性がよく出ている。

 ちなみに、ここ数日、テレビのワイドショーなどで、米国の統一教会系企業「トゥルー・ワールド・フーズ」が多くの寿司店に鮮魚を卸していることなどを報じているが、ネタ元は裵淵弘さんの昔の記事だろう。

裵淵弘さんのスクープ記事 SAPIO 08年3月12日号 

 これはブックレットにもなっている。

www.shinchosha.co.jp

 以前からコツコツと統一教会の取材をしていたジャーナリストたちのお陰で我々はより深い情報を得ることができている。今回の統一教会をめぐる事態で、調査報道の重要性を感じる。

いま学ぶべき日朝秘密交渉の舞台裏

 ロシアのウクライナ侵攻は、新聞の歌壇でも戦争を否定する歌によく詠まれている。

 若い世代はどうなのかと、歌人今野寿美氏が文芸授創作の授業で題「ウクライナ」としてみた。以下、女子大生の2首。

勝ち負けをジャンケンで決める僕たちはキエフがキーウとなったと知らず (堀川珠璃依)

明日があることに苦しむ僕たちと明日を生きたいと祈る彼ら (吉井万由子)

 今野寿美氏は、「この二首の社会意識、表現の喚起力の感心してしまった」という。前者が能天気な若者に、後者が厭世観に浸りがちな若者に成り代わって詠みつつ、それでいいのかと問いかけ、また戦争の理不尽さを浮かばせていると評価する。(朝日新聞8月7日付「朝日歌壇」より)

 若者の感性とかみ合った問題提起ができれば、何か大きな動きが起きる予感がした。

 ところで、いま若い女性は一人称に「僕」を使うのが当たり前だそうだ。若い女性のシンガーソングライターが、「ぼくは~」と歌うのはそのまま女性の自分を歌っているのか・・。
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 来月は日朝平壌宣言拉致被害者5人の帰国から20年になる。

 小泉純一郎総理の訪朝を実現させたのは、田中均アジア大洋州局長(当時)による1年におよぶ秘密交渉だった。その舞台裏をNHKに語った。

 この経緯は、田中氏自身の著書や対談などで明らかにされているが、それらに出ていないことも語っており、ここに紹介したい。北朝鮮との外交を進める上で教訓に富む内容が語られている。《》は私の感想。

 

 2001年9月、小泉訪朝の1年前、田中氏は小泉総理に北朝鮮との交渉を提案した。

 北朝鮮との懸案を解決し、半島に平和を作ることこそが日本の国益につながると考えていたからだ。

(総理に)朝鮮半島で何としてでも活路を開きたい。交渉してもいいですか」という話をしたら、小泉さんは「いや田中さん、それやってくれ。だけど絶対秘密だ。というのは人の命がかかってるから秘密だ」といった。

NHK国際報道より

《田中氏の方から交渉しましょうと総理に提案したという。当時は官僚がイニシアチブをとることがあったのかと感慨深い。官僚にも「サムライ」がいたんだな。それに小泉総理が即座に決断して「やってくれ」と乗る。情景が目に浮かぶようだ。

 安倍総理が官邸主導の態勢に変えてから、官僚発のアイディアで新たな施策がとられることは激減したのでは、と推測する。》

 政府内で当初、交渉の存在を知らされていた人は片手で数えられるほどだった

この中に当時官房副長官だった安倍氏は入っていない

 安倍氏は小泉訪朝で大きな存在感をアピールし、人気を得ていくのだが、実は北朝鮮との交渉を進めるにあたって、小泉総理から信頼される間柄ではなかったのである》

 秘密を守るため、交渉は第三国で週末に行われた。舞台は主に中国の大連や北京のホテルだった。

 01年秋、姿を現した北朝鮮の交渉相手は、キムチョルと名乗った。後に日本で「ミスターX」として知られるようになる男性だ。

 雰囲気から軍や諜報機関の幹部に違いないと田中氏は感じた。オーバーを脱ぐと勲章のついた黒い軍服姿だった。自分は命を懸けているという意思表示だったのかもしれないと田中氏は思った。

 自分は交渉がうまくいかなかったら責任をとらなければいけないと言っていた。北朝鮮の場合はそれは往々にして「死」なのだと言う。

 田中氏はミスターXにあることを要求した。

北朝鮮にスパイ容疑で拘束されている日本人の元記者を無条件で解放してほしい」。

 ミスターXが、北朝鮮で実力がある人物かを見極めようとしたのだった。要求をして間もない02年2月、2年以上拘束されていた元記者が無条件で解放された。

元記者は解放された

「名前がどうあれ、どこの所属であれ、北朝鮮と交渉するにあたって、信頼できる人物であるということは、私には確信ができた、ということですね」(田中氏)

北朝鮮では政府機関、例えば外務省などは力を持たない。「指導者」と直に連絡でき権限を与えられている人物かどうかが交渉の成否を分ける。適切な交渉のルート、交渉者を選ばなければならないのだ。田中氏はその見極めのための「テスト」をしたわけである。

 ミスターXは秘密警察の「国家安全保衛部」の幹部だったようだ。
 相手が北朝鮮ならではやり取りで、今後への教訓になる。
 なお「元記者」は日経新聞の元記者、杉嶋氏のこと。wikipedia日経新聞記者北朝鮮拘束事件」参照。》

 ミスタ―Xは交渉当初から「過去の清算」と日本からの資金を得ることにこだわった。
 これに対し田中氏は、拉致問題、核ミサイル問題、国交正常化とその後の経済協力などを包括的に解決して朝鮮半島に「大きな平和」をつくろうと呼びかけ続けたという。

「日本からの資金の提供も、拉致とか核の問題を解決しないで進むことはできません、と。だからその『大きな道筋』をつくるということを自分はやりたいんだ、と(呼びかけた)」(田中氏)

 しかし、02年初夏、交渉は厳しい局面を迎える。

 小泉総理が訪朝する場合、それより前に拉致被害者の安否情報を明らかにすべきだと要求したとき、「その瞬間に、北朝鮮は完全に交渉を切るということになった。単に拉致の問題を世の中に明らかにして、総理は来ないということなんじゃないか、と(北朝鮮が思った)。私は、これもうダメかなと思いましたね」(田中氏)

 交渉決裂の危機を乗り越えたのは小泉総理の一言だった。厳しい交渉の状況を報告した時のこと。総理が行くまで拉致被害者の安否は分からないということになる、

「答えは、『田中さん、それでいつ行くんだ』っていう話だったんですよね。もう行くのは当然だと総理は当時思ったんでしょうね。『もし、自分が行かなければ、拉致の話は全部闇に葬られてしまう』と。だから、あーそうなんだ。これが政治家なんだというふうに思った」(田中氏)

 交渉が煮詰まったり、デッドロックに乗り上げたときに「政治判断」で打開する。小泉総理と田中氏がそれぞれの役割を存分に発揮して進んでいくさまは、対北朝鮮外交のあり方として学ぶところが多い。

 拉致問題は扱いを間違えたら、内閣が二つも三つも吹っ飛ぶテーマである。ここに思い切って踏み込んで切り拓いていった小泉氏の度胸はすごいと今でも感心する。小泉改革など酷い施策もたくさんやったが、拉致問題での身の処し方は高く評価している》

30回核の交渉の末、首脳会談への道が開かれた。

 9月17日、金正日総書記はこれまで否定し続けてきた北朝鮮による拉致を認め謝罪。両首脳は日朝平壌宣言に署名した。日本が過去の植民地支配によって朝鮮の人々に与えた損害や苦痛への反省とお詫びを表明する一方、北朝鮮は日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題、すなわち拉致問題が再び生じることがないよう適切な措置をとるとした。

 さらに核ミサイル問題を包括的に解決し、国交正常化の早期実現に向けてあらゆる努力を傾注することが合意された。

平壌での首脳会談。右端が田中均氏、左端が安倍氏

 しかし、拉致被害者の安否情報として告げられたのは5人は生きているものの8人はすでに死亡しているということだった。拉致被害者家族の怒りと悲しみが連日大きく報道された。

 10月、5人の拉致被害者たちが一時帰国を果たす。その際、約束通り再び北朝鮮に戻すか、日本に永住帰国させるかどうかが大きな議論になった。

「私が言ったのは、『(北朝鮮に)帰さないとどういうことになるかは政治的判断をされる前に考えてください』と。一つは私はこれまでやってきた交渉のルートは、きっとつぶれるでしょうということと、場合によっては、(拉致被害者の)子どもたちを帰すまでに相当長い時間がかかるかもしれません、と。」(田中氏)

国際報道より

 政府の判断によって5人は日本に永住帰国させることが決まる。

 こうした経緯から田中氏は北朝鮮よりではないかと、激しいバッシングを受けるようになった。

「最初から最後まで秘密でやれと言われ、秘密の交渉だったけど、家族会の人とか、国内メディアに対してよく説明をする余地はなかったかと思う時はある。やっぱり秘密でやったことに対するツケが来たのかもしれないですね」(田中氏)

 官僚としてできることに限界を感じたと言う田中氏はやがて外務省をやめた。
今でも20年前の交渉の影響や今後の日本外交のため何が必要かを考え続けているという。

《私は当時、5人は絶対に北朝鮮に戻すべきではないとして、田中氏を批判した。もしあそこで5人を戻したら、寺越ケース(「拉致」ではないという前提で親と子が北朝鮮と日本に別れ別れに暮らすことを認めさせられる)のようになるのは目に見えていたからだ。ただ100%の正解はないので、田中氏の発言にも交渉当事者としての論理があると今は思う。5人が永住帰国してよかったと今でも思うが⦆
https://takase.hatenablog.jp/entry/20161115


 田中さんが担った秘密交渉ににはさまざまな評価があると思うが、20年間一人も新たな拉致被害者を救出できていない現状を打破する上でも、田中均氏の体験を教訓化してほしい。

ヒトラー暗殺計画とロシア

断捨離ができるのは今後もっと良い思い出が増える自信ある人 (東京都 上田結香)

 きょうの「朝日歌壇」。いつもの結香流に「あるある」と納得。

年配の詠み人の生死の歌が多い。

死にたしと言うておりしが癌をえてつくづく生きたしと言うて果てしと (オランダ モーレンカンプふゆこ)

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立憲民主党が、統一教会(通称)と接点をもった所属国会議員が14人いると発表

 14人の中に、26日に発足した新執行部の岡田克也幹事長安住淳国対委員長大串博志選対委員長の3人がいる。

 岡田氏は過去に『世界日報』に座談会記事が3回、安住氏は『世界日報』にインタビュー記事が掲載された。大串氏は地元の関連の会合に秘書が3回代理出席した他、祝電も打っていた。

 岡田氏は会見で「当時、世界日報と旧統一教会との関係は承知していなかった。特定の団体に偏った記述は見られなかったので、一般のメディアの一つと思った」と語っているが、これには驚いた。

 『世界日報』が「そのスジ」の新聞だということは、政治家であれば常識だと思うのだが。立憲はあの有田芳生さんが所属していた党だろう?こういうのを平和ボケじゃなくて何ボケっていうんだろう。政治家として緊張感が足りないと言わせてもらおう。

 もう一つ驚いたのが日テレの「24時間愛は地球を救う」に統一教会の信徒がボランティアスタッフとして参加していたとの暴露だ。

anonymous-post.mobi

 

 2022年8月25日、報道機関に「世界平和統一家庭連合広報部」が送ったものだ。

《前回の注意喚起文において、今後、当法人ないし友好団体等に関わってきた報道機関に対して、順次公開させていただく旨を申し上げましたが、以下、その一例をお伝えします。

 現在、民放の雄と言われる日本テレビが、同社ネットワークの総力を挙げて毎年取り組んでいる「24時間テレビ」ですが、当法人の女性信徒がボランティアスタッフとして7年間にもわたって関わり、番組ボランティアをまとめる中心的な立場で活躍していたことが分かりました。》として日本テレビ24時間テレビ」2014年番組テロップの写真を出した。

 これは関連団体ではなくモロの統一教会(名称変更の1年前)だ。

 さっそく「24時間テレビ」をやっているディレクターに尋ねてみると、若いプロデューサーだと統一教会を知らないからチェックもできなかったのではないか,という。

 コンプライアンスの強化を叫んでも、モノを知らないテレビマンが増えているのではザルになってしまう。

 統一教会は報道機関への脅しとしてこれを公開したのだろうが、ぜひどんどん公開してもらいたい。そしてその結果をメディアは総括してほしい。
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 ロシアのウクライナ侵攻。プーチンはまだまだやる気らしい。ロシアでは、制裁にもかかわらず、極端なモノ不足や物価の高騰も見られない。国民生活が目に見えて滞っている状況にはない。

 プーチンが自らこの戦争から手を引くことは当分考えられない。戦争をやめさせられるのは、プーチンを長期に権力につかせ、クリミア併合に喜んだロシア国民しかいない。

 だが、今のロシアは専制的な体制で、野党は沈黙させられ、メディアはがんじがらめに規制されている。ロシア国民が近い将来に選挙などの民主的手段でプーチンを引きずり下ろすのは考えにくい。
 
 NHKBSでヒトラー暗殺計画を紐解く番組があった。

 ヒトラーは熱狂的な支持を得て選挙で政権についた。そしてナチ党が権力を握ってからは、国会の承認なしでも政府が勝手に法律を制定できるようになり、民主的な政権交代は無理になった。

 ヒトラーユダヤ人虐待や東部戦線での民間人の虐殺、強引な戦争指揮による膨大なドイツ兵の犠牲などを憂うる人たちはヒトラーを排除しようとする。独裁者を倒すには暴力しかないと彼らは暗殺を企てた。分かっているだけで40件以上のヒトラー暗殺の計画があったという。

 興味深かったのは、ヘニング・フォン・トレスコウ国防軍首席作戦参謀(41)。

トレスコウ(NHKBSより)

 先祖代々軍人のエリートで優秀な将校だったというトレスコウは、ソ連を攻撃するヒトラーの強引で稚拙な作戦に不信感をもった。ソ連軍の猛反撃にも退却を認めず多くの兵士が絶望のなか犠牲になっていった。

 さらにドイツ占領地域では、ユダヤ人や抵抗勢力共産主義者と疑われたロシア人などを次々に虐殺。1000万人以上の民間人が殺されたとされる。

1千万人以上の民間人が殺されたという

ナチスは多くの民間人を殺りくしていった(NHKBSより)

 トレスコウは、これを止めるにはヒトラー排除しかないと決意する。

 彼は反ヒトラーの軍人グループを作り、総統専用機に時限爆弾を仕掛けたり、同志に自爆テロをさせようとしたが、いずれも失敗に終わる。

 トレスコウは、ドイツ人としての責任感を強く自覚していた。

 「行動に出るものがいたと世界と歴史に示すことが重要なのだ」(同志への手紙)

 「この残虐行為は百年経っても悪影響を残すだろう。その責めを負うべきはヒトラーだけでなく、むしろ君や私であり、君の子どもや私の子どもでもあり、通りを横切っているあの女性でもあり、あそこでボールを蹴っている若者でもある(トレスコウの言葉)

 ナチの蛮行は一般の市民も加担したドイツ人全体の責任だと考えていたのだ

 この番組を観ながら、ロシアではどうなんだろうと思わずにはいられなかった。

 私たちはロシア人に届くよう、粘り強くウクライナ侵攻をやめよと声を上げ続けていくしかない。それがさまざまな経路や機会によってロシア国民の「責任感」の琴線に触れ、行動につながっていくことを期待して。

ウクライナ軍を支える子どもたちの愛国心

 処暑(しょしょ)になった。処とは止まるという意味で、そう言われれば、いま秋の虫が鳴いている。

 きょう、友人がこの夏最後の東京の盆踊りに浜町公園に行ったそうだ。夏も終わりか。

 23日から初候「綿柎開(わたのはなしべ ひらく)」。28日からが次候「天地始粛(てんち はじめてさむし)。9月2日からが末候「禾乃登(こくのもの すなわちみのる)」。

 穀物が実るこの時期に、大きな自然災害が起こりませんように。
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 統一教会自民党との関係について、岸田首相が「もう一段踏み込んだ実効的な体制整備をはじめ国民の不安を払拭するための方策」を言い出した。

このくらいのこと、初めから言ってればよかったのに(NHI)


 この人、世論の反発などで追い込まれてちびちび手直しすることしかできないのか。リーダーシップとか信念とかを全く感じさせない。
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 24日はロシアのウクライナ侵攻から半年だった。ウクライナでは、UNHCR(国連人権高等弁務官事務所)調べでこれまで(8月14日まで)市民5,514人の死亡が確認され、ウクライナ政府によれば7,000人近くの行方不明者が出ているという。

 当日はウクライナ独立記念日でもあった。都内では在日ウクライナ人らが犠牲者を悼み、平和をアピールした。

渋谷にて(NHK


 ウクライナ人の戦争への向き合い方は、日本人にはにわかに理解しがたいが、それだけに私にとって「国」とは、平和とは、と突き付けられるものがある。

 先日ニュースで観た11歳のウクライナの少女の活動にも考えさせられた。

 ワレリヤ・エジョワさん(11歳)は、ボードゲーム「チェッカー」が特技で、去年、世界チャンピオンになった。

世界チャンピオンになったワレリヤさん(中央)

 虐殺で知られたキーウ近郊のブチャに暮らしていたワレリヤさんの祖父母が、ウクライナ軍に助けられたことを知り、軍を支援したいと思ったという。

家族と

 そこで大きなスーパーマーケットの前でチェッカーの対戦をして寄付をつのることにした。挑戦する買い物客は簡単に負かされては微笑みながら寄付をしていく。

対戦が始まると真剣な表情になっていた

 ワレリヤさんは、これまで日本円で35万円を集め、軍の関係者に届けた。

 

軍に寄付金を届けたワレリヤさん

 「大人も子どももみんな今はウクライナを支えるべきです。だから私は私なりのやり方で支えようと決めました」と言うワレリヤさん。

 子どももできることをして、国を、軍を支えようというワレリヤさんたちの行動に、私は、日本にはない「健全な」愛国心を感じる。

 読者はどう思うだろうか。

ロシア軍の戦車(上)が街に入ってきて、いきなりウクライナの民間人の自動車(右端)に砲撃し破壊した瞬間。車は大破し激しく燃え上がった。キーウ近郊のマカリウでの出来事。マカリウでは240人の市民が殺害されている。

 

支持率急落の岸田首相に統一教会疑惑

 

 明日発売の週刊文春有田芳生さんのツイートより。

 【岸田首相の後援会長は統一教会系団体の議長だった】

 


 絶句・・

 岸田首相が統一教会問題であまりにも腰の引けた対応をしていたが、本人がどっぷり浸かっていたからだったのか。

 メディアの世論調査(20、21日実施)で内閣支持率が急落と伝えられる最中に、まさか岸田氏自身の深い関与が暴露されるとはなんというタイミング。
 
 毎日新聞によると、支持率が7月の52%から16ポイントダウンの36%と、発足以来最低を記録。37%だった不支持率が54%となり「支持と不支持が逆転」した。

 ANNでは支持率は9.9ポイントダウンの43.7%に

 産経新聞社とFNNの合同調査では支持率は8.1ポイント下落して54,3%

 この支持率下落に、統一教会との関係を調査、清算できない内閣の姿勢が大きく与ったことはもちろんだ。改造内閣のメンツの酷さも。

 岸田内閣が逃げの姿勢をとるなか、統一教会との関係が発覚して「知らなかった」で逃げる卑怯な政治家が続々。

 高市早苗・経済安全保障担当相もその一人で、01年、世界日報社発行の月刊誌「ビューポイント」で対談を行っていたが、「企画や出版社をチェックしなかった。本当に深くおわび申し上げる」と語る。

 自民党と「教会」との関係については、「統一教会イコール世界平和家庭連合であるとか、イコール勝共連合であるということを、8月になって報道がなされるまで分からなかった」「とても不勉強なのかもしれない」と語っている。(19日、読売テレビの番組で)

 しかし、高市氏はメディアの出身で、飯干景子氏の統一教会入信。脱会騒動もよく知っていたはず。

町田智浩氏のツイート(当時は飯干恵子の本名で出ていた➡後に景子に)。蓮舫と並んでいるのが興味深い


 維新の会は13議員が関係を持っていたことを認めたが、代表の松井一郎大阪市長が「今回、統一教会というのも、僕もはじめて、そういう、その、勝共連合という、そういう団体があったことをはじめて知った」だと。

 「松井氏の父で大阪府議会議長まで務めた松井良夫氏はかつて、国際勝共連合の名誉会長だった笹川良一氏の運転手を務めていた」。それほどの深い関係があるのに、しらじらしく「勝共連合をはじめて知った」というとは。(Lite-raより)

 公明党高木陽介選対委員長と佐藤茂樹国対委員長も、「ビューポイント」のインタビューを受け、記事に掲載されていたことが発覚。党はコメントで「両名とも当時、旧統一教会系の雑誌だとの認識はなかったとはいえ、接点も持ったことを反省している」と謝罪した。

 創価学会を支持母体とする公明党まで「知らなかった」か・・・。

 政治家として、素性を調べずに雑誌や団体にかかわるとは想像できないが、とにかく「私はおバカさんでした」と言いながら嵐が吹き抜けるのを待つ構えか。

 なさけない。
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 きのう、写真展&トークウクライナの今〜 香港人ジャーナリストKaoruさんが見た戦場 〜」(主催アムネスティインターナショナル)へ。

www.amnesty.or.jp

 クレ・カオル(Kaoru Ng)さんの名を知ったのは、5月29日に撮影されたすさまじい映像をテレビで観たときだ。

写真について語るカオルさん

 最前線リシチャンスクで、取材者からわずか5mの地点にロシア軍の砲弾が着弾。目の前で砲弾が破裂し通訳がケガを負い、取材者たちがころがるさまをカメラがとらえていた。

ケガをした通訳にウクライナ兵が近づいてきて・・

 こんなに危ない取材をしているのは誰かとみると、香港出身のジャーナリストだというではないか。

 そのクレ・カオルさんの写真展ときき、ぜひにと観に行ったのだった。とても落ち着いたフレンドリーな若者だった。

 カオルさんは香港では主に『リンゴ日報』に寄稿していたという。しかし、国家安全法が施行され、メディアが弾圧されるなか、去年夏、英国に移住した。2年前、ベラルーシ民主化運動を取材し、東欧の民主化が香港の自分たちの運動に重なったという。今回はそのとき知り合ったウクライナ人を頼って取材したそうだ。

 彼に通訳さんはどうなったのか聞くと、砲弾の破片が腕を貫通する重傷で、神経が破損して自由に腕を動かせず、リハビリを続けているという。ドネツ川の対岸セベロドネツクがロシア軍の手に落ちる前後で、戦線が入り組んでおり、ロシア軍支配下に迷い込んで捕まったこともあったという。ほんとに危ないところを取材していたわけである。

 カオルさんがウクライナ入りしたのはロシアの侵攻が始まった2月24日より1週間近く前の2月18日とはやく、6月13日までほぼ4カ月滞在して取材を続けた。侵攻の開始前からの戦争の移り変わりを全体として語ることができる貴重なジャーナリストである。

 トークでは、アットホームな雰囲気で参加者とやり取りしながらカオルさんが写真を解説していく。

 負傷したウクライナ兵に「あなたにとって平和とは何か?」と問うと「ペレモハ!(勝利!)」と答えたとのエピソードに、15歳と12歳の娘さんを連れてきたお母さんが質問。

写真の下にカオルさんの手書きのキャプション


 「私は、娘には「国のことなんかどうでもいいから、自分だけ逃げて良い」と言うのですが、ウクライナの人は勝利を望むんですか?」と。

 カオルさんは、私も香港人としてアイデンティティを奪われるとなれば抵抗します、ウクライナ人と共通するものがありますと答える。これがカオルさんのウクライナ取材の動機の一つだ。今回のロシア侵攻を取材している香港出身ジャーナリストはカオルさんの他にも何人もいるという。

 「それぞれの国の事情を知ることが大事ですね、勉強になります」とお母さん。真を見ながらのトークにはたくさんの学びがある。

 写真展、東京は明日まで。その後大阪、名古屋、徳島など各地を回る。

 カオルさんは再びウクライナに行くという。お気をつけて!

在日外国人が「故郷」と呼べる日本に

 2019年に香港で盛り上がった民主化運動を記録したドキュメンタリー映画『時代革命』を観てきた。

 私はこの運動を取材しに3回香港を訪れた。

渋谷ユーロスペースで上映中

 デモに制服で参加する中高生、遺書を書きのこす若者たち、デモ隊に飲み物やハンバーガーを差し入れる市民の姿に大きな感動をおぼえた。これはひょっとすると「革命」が成功するかも、と感じたのだが、運動は中国共産党の力で無慈悲にも粉々に粉砕されてしまった。

 映画はあの運動のまぶしいほどの輝きを活動家の立場から再現し、香港人の魂は死んでいない!と訴えてくる。取材当時を思い出し、感慨深かった。

 主人公の選び方が適切で、運動の節目もしっかり押さえており、資料的価値もある。

ロビーにはミニ・レノンウォールも

 上映後のロビーでは抱き合って泣く女性たちの姿もあった。香港人がたくさん観に来ているようだ。香港ではもちろん上映禁止。「時代革命」というスローガンを掲げただけで逮捕された人もいる。今も香港にとどまるキウィ・チョウ監督の勇気をたたえたい。

christianpress.jp


 渋谷ユーロスペースで上映中。
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 最近、ウクライナってこんな国だったのか!と新たに学ぶことが多く、自分がいかに無知だったかに気づかされている。

 Eテレで「Where We Call Home」というシリーズが放送された。もともとNHK Worldで英語放送として製作された番組で、在日外国人の暮らしぶりを描いている。この間、ウクライナを取り上げた2回の番組を観て、意外なお国ぶりを知った。

 例えばウクライナでは日本の武道がとても盛んだということ。

彼女の型の演武は実に美しい。Eテレより

 14歳から21歳までウクライナの空手の型の代表として国際大会でも活躍したアンナ・クレシェンコさんは、2017年に日本に留学してきて、今は大阪の大学院で女性の体調管理アプリを開発している。

思春期、妊活、妊娠、育児、各ステージに合わせたデジタルソリューションの開発をやっているという。横文字と漢語まじりの日本語をアンナさんは完璧に発音していた。次は更年期の女性の体調管理の「デジタルソリューション」(私にはよく理解できないが)を開発する予定だという。


 開発にあたってはウクライナIT技術者と協力することで、祖国で仕事を失った人々への支援にもなっている。

 ウクライナが豊富なIT人材を持っている事実も最近知った。

 彼女が日本の仕事を紹介したウクライナ人男性は、侵攻への抗議としてロシアやベラルーシの仕事を断ったので、日本の仕事ができるのはうれしいという。つまり、対ロ制裁に一役買っているというわけだ。

 武道でいえばもう一人、日本の空手の道場主がウクライナの弟子である少年たちに避難の手を差し伸べているケースもあった。

空手が縁で日本に避難してきたウクライナの少年たち

 禅道会という長野県に本部がある流派で、小沢隆首席師範が呼びかけて9人のウクライナの少年と親を日本に招いた。その一人アルチョムさんが練習を重ねて大会で優勝するというストーリーだ。彼はスマホウクライナで戦う父親に優勝を報告していた。

大会で優勝したアルチョムさんとお母さん

 なかでも印象的だったのは、本間カタリンさんという女性のエンジニア。

 日本人男性と結婚して来日したが離婚。2年前、沖縄の糸満市に移住し、そこで建設図面のソフト作成や顧客サポートを行っている。

 その傍ら、ウクライナ製のラジコンの販売も行っている。ウクライナがラジコン大国とは意外だった。いまその技術を対ロシア戦の無人飛行機制作に使っているという。

ウクライナのラジコン飛行機は日本にも輸出されている

 カタリナさんは形が不ぞろいだったり、ほんの少し傷んでいるだけで捨てられるニンジンを利用してニンジンパンを作り、バザーなどで売っている。

バザーでニンジンパンを売るカタリンさん。これを糸満市の名物にしたいという。

カタリンさん(右)が沖縄はいいところだからと移住を勧めた二人のロシア女性(パン屋を開業)と。侵攻のあとも3人の信頼関係は揺るがない


 カタリンさんを受け入れた近所の人が「沖縄の精神は、イチャリバチョーデーだよ」という。会えばみんな兄弟という意味だそうだ。暖かい人間関係に包まれて、カタリナさんはここが私の故郷で離れたくないと語る。

上手に三線をひき、唄っていた。すっかりなじんでいる様子に私も嬉しくなった

 こういう個々人の生き方を見てはじめて、多様な人々との共生を応援したくなる。

 多くの外国人がためらいなく日本を「故郷」と呼んでくれる社会にしたいと強く思う。

 サヘル・ローズさんのナレーションもいい。

番組にはバレエダンサーのカップルも登場した。長澤美絵さんとエフゲニー・ペトレンコさん。美絵さんはウクライナの名門バレー団のプリンシパルに抜擢されたバレリーナ

2人は初孫を美絵さんの親に見せようと来日。直後にロシアの侵攻があり、そのまま日本にとどまっている。今は地元のバレー教室で教え、ウクライナ支援公演で踊ったりしている

 

ロシア軍の実態が説得力を失わせる「即時停戦」論

孔明のように安倍氏が動かして (徳島県 井村晃)

 20日の朝日川柳より。
 「死せる孔明、生ける仲達を走らす」。岸田文雄総理のやる事なす事、安倍元総理の背後霊がついているのではないかと思わせる。

 杉田水脈衆院議員総務省政務官への起用には、多くの人があきれている。

 彼女の非常識な言動は多々指摘されているとおりだが、かつて私が驚いたのが、「安倍首相ヨイショ記者」山口敬之氏が伊藤詩織さんをレイプした事件への言及だった。

またウソばっかり・・・TBSニュースより

 数人の女性が事件を論評するネット動画のなかで、詩織さんを「枕営業大失敗」と嘲笑、杉田水脈氏が「女性に落ち度がある、詩織さんは嘘を言っている」とコメントした。こういう人物を、言葉の真の意味で「恥知らず」という。

takase.hatenablog.jp


 「枕営業」というのは、伊藤詩織さんが、TBSワシントン支局長だった山口氏に仕事をもらいたいとの思惑で自分から近づいていったということで、詩織さんを侮辱する許せない暴言だ。

 杉田氏は一昨年、自民党の性暴力対策の予算などを議論した会議で「女性はいくらでもウソをつけますから」と発言して物議をかもしたが、こういう言動は、右とか左とか政治的な立場の問題ではなく、人格の低俗さを露呈するものだ。

 安倍元総理のお気に入りということだけで議員になれたこういう人物を取り立てるとは、岸田政権は亡き安倍氏の傀儡政権と言われても文句は言えまい。
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 ロシアのウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「和平派」と「正義派」の論争があった。

 3月と5月にロシアとウクライナ双方に即時停戦を呼びかける声明を出した「憂慮する日本の歴史家の会」(代表・和田春樹東京大名誉教授)は、「和平派」の動きだったが、侵略した側とされた側を同列に扱うのはおかしい、などと批判された

takase.hatenablog.jp


 私もこれを批判した一人だが、その会に参加した富田武・成蹊大学名誉教授が、軌道修正ともいえる論説毎日新聞(12日朝刊)に出した。

 ロシアの一方的で残忍な侵略の実態が明らかになるにつれ、即時停戦論は説得力を失ってきたように見える。
 
《ブチャなど各地でロシア軍による虐殺が明るみに出た。(略)ドンバス地方で、マリウポリをはじめ破壊の限りを尽くした。

 この段階で、会の内部に「即時停戦一本やりではロシアを利する」「戦争の行く末を見すえた公正な講和」を提示すべきだという意見が出た。ベトナム反戦運動の先例が想起された。

 「ベトナムに平和を!」は、侵略国アメリカに北爆(北ベトナムへの爆撃)中止や米軍の撤退を要求し、日本政府には戦争協力=「侵略加担」をやめよと訴えるスローガンだった。米本土を含む全世界の反戦運動は米軍と戦うベトナム人民と連帯し、パリ和平交渉も支持しつつ、ついに米軍をベトナムから撤退させた。》

 ここはベトナムウクライナを並べて侵略された側の抵抗を支援すべしとする私の考えと重なる。さらに富田氏はこう続ける。

 《私たちは、国際的な反戦世論でウクライナの抵抗を支援して交渉のテーブルを設け、早急な停戦と公正な(両成敗ではない)講和を目指す。「年内に戦争を終わらせたい」とするウクライナのゼレンスキー大統領を支持》する。

 はっきりと「とにかく停戦を」という即時停戦論から転換している。

 

 同じ紙面に、東野篤子・筑波大教授の「ウクライナだけに決定権」と題する論考が載っている。

 説得力ある(もっというと常識的で分かりやすい)議論なので紹介したい。

毎日新聞17日朝刊

 まず東野氏は冒頭《即時停戦論は現実から乖離している》とズバリ指摘する。

《日本には、ロシアに停戦を呼びかければ、戦闘がきっちりやんで平和が訪れると信じる人もいるが、これまでロシアに攻撃されてきた国や地域は、むしろ停戦・休戦後、悲惨な事態に直面している。》

 チェチェンの悲劇がその代表だが、かつての共産圏の国々が懸命にウクライナの抵抗戦争を後押しするのは、その恐怖をよく知っているからだ。

《ロシアに(領土などの)「お土産」を渡さないと戦争は終わらないとする論者もいる。なぜ「お土産」でロシアが満足すると言い切れるのか。1938年のミュンヘン会談で、英仏などはナチス・ドイツチェコスロバキア領の一部割譲を許した。これでドイツは増長し、第二次大戦を招いた。

 おお、東野氏はロシアを1938年のナチスと同列に論じている。

 今のロシアはそのくらい悪質な侵略者だと見ているわけだが、今の世界ではこの見方は受け入れられるだろう。

《いずれにせよ、戦争を継続するか否かを決定できるのはウクライナだけだ。他国に「戦争をやめろ」という権利はない。その後に起こりうる殺りくや破壊も受け入れろと言うのと同義だからだ。こう主張するだけで、「徹底抗戦させる気か」と非難する人もいるが、その人たちは停戦を強制された後の事態に責任が取れるのか。

 東野氏、かなりのファイティングポーズで論じているが、ロシア軍占領下の地域で起きている残酷な事件の数々を見れば、戦闘停止が住民の安寧を保障しないことは明らかだ。

 日本でロシアを信用しすぎたり融和的な意見が出たりする背景には「根強い反米意識」があると東野氏は指摘する。

《米国への反感のあまり、極端に言えばウクライナが米国に操られていると思い込み、結果としてロシアの肩を持つ。

 この思考は、ウクライナの主体性を軽視していないか。(略)小国の行動原理の根底には、恐怖と安全の希求がある。ロシアから見ればNATOの東方拡大は約束破りだろうが、欧州の小国はそのロシアを恐れるからこそ、米国との軍事同盟であるNATO加入を求めた。》

 《日本外交は「中小国が大国に脅かされない秩序を守るには、武力による現状変更を黙認してはならない」と、愚直に説き続けるべきだ。》との東野氏の結論に賛成する。

 自分に都合のよいイメージで論じるのではなく、ウクライナの現実にもとづいた議論を深めていきたい。