統一教会と北朝鮮 蜜月の背景

 京セラとKDDIの創業者、稲盛和夫が8月24日、老衰のため京都市内の自宅で90歳で亡くなった。“経営の神様”として知られ、倒産した日本航空JAL)を再上場させた。

NHKニュースより

 稲盛氏とはちょっとしたご縁がある。

 私はカンボジアシェムリアップにあるシルクの村「伝統の森」を応援しているが、稲盛氏はそこを訪ねていた。アンコールワットから田舎道を車で1時間近くかかる辺鄙な場所に多忙な稲森氏が訪ねていたのだった。

 「伝統の森」を荒地からつくり上げた森本喜久男さんの「遺言」を私がまとめた『自由に生きていいんだよ~お金にしばられずに生きる“奇跡の村”へようこそ』旬報社、2017)にこのエピソードが出てくる。

takase.hatenablog.jp

 森本さんが点から面へと展開していくという社会改革論を語った第4章「「点」からはじめよう」。

 「伝統の森」ではお母さんたちが子どもを作業場に連れてきている。この村には当時、年間2千人近い見学者が来たが、子連れの作業風景に感銘を受ける人が多かった。

 ある美容院のチェーン店のオーナーは、日本に帰国してから、自分の店に子連れのお母さんが働ける環境をつくった。美容室の隣に、お母さんたちが交代で自分と仲間の子どもたちの面倒をみる部屋を設置したのだった。

 役所にやってもらうのではなく、まずやれることを自分たちでやっていく、それがやがて行政を動かしていくと森本さんは語る。点が面を動かしていくという。

森本
「実は、数年前、稲盛和夫さんがここに来た。ここに何かビジネスの展開にヒントになるものがあるのでは、と見学に来たらしい。すごいなと思ったのが、あれだけ忙しい人が、わざわざ時間をとって、この田舎までやってきたこと。現状維持ではなくて、常に次の進化を求めている人たちは、自分が何か気になることがあれば、それをすぐに確かめるんだね。その行動力がビジネスにとって大切なネクストを生み出すものだと思う。

 その後、しばらくすると稲盛さんに心酔している若い経営者たちが「どんな村かちょっと様子を見に行こうよ」とここに来るようになった。稲盛効果というのかな。

 で、実際に来た人がね、「やっぱりあそこ、おもしろい、どこか違うぞ」と感じてくれて、ほかの人たちにそれを伝えていく。それがいま、広がりはじめている。(略)」

高世:日本で経営者の考え方が変われば、社会の変化ははやいでしょうね。

森本
「そうだよ。子どもを預ける場所がないから働けない、というお母さんたちがいるのなら、子どもを職場に連れてきて働けばいいじゃないか。経営者の考え一つで、そういう職場は実現する。これからもっと増えていく。間違いなく。

 でも、通勤ラッシュで子どもを連れて通うの大変だ。そしたら1時間遅く出勤してもいいことにしよう。会社を退けるのも1時間早くして、ほかの人が1日7時間働くところを、そのお母さんは5時間働くだけでいいとなれば、通勤の環境もよくなるし、働きやすい環境になる。」(P148-149)

 

 この村は電気が通っていないし、もちろんコンビニもない、自給自足に近い村だったが、私たちに人の幸せとは何かを考えさせた。

 いま日本社会はボロボロだが。経営者たちにはもっとドラスティックな発想の転換を期待したい。
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 「反共」を旗印に掲げた統一教会(通称)の文鮮明が、一転して北朝鮮金日成にすり寄っていったときには私も驚いた。北の共産政権を叩き潰せ!と言っていたはずなのに・・・

文鮮明(左)と金日成(TBS報道特集より)


 この「転換」には統一教会の本質が出ていると思うので、9年前の記事統一教会が貪る『2018年平昌五輪』」(『新潮45』2013年11月号)から引用する。

 記事を執筆したのは裵淵弘(べ・よのん)さんで私の古い友人だ。朝鮮半島の闇を取材しつづけてきたジャーナリストである。

(前略)
 統一教会北朝鮮の因縁は古く、教団草創期にまで遡る。

 平安北道定州郡生まれの文鮮明は、1948年、女性信者に対し性的に淫らな儀式を行っていたとして朝鮮労働党当局に拘束され、収容所送りとなるが、朝鮮戦争のどさくさで脱獄。避難先の釜山で布教活動に入り、戦後ソウルで「世界基督教統一神霊会」を立ち上げた。その時掲げた教義が共産主義に勝つという「勝共」だった。68年には「国際勝共連合」を結成して本格的な勝共運動を始め、日本でも信者を議員秘書として送り込むなど政界に深く入り込んだ。

 一方で、70年代から90年代はじめにかけ、日本で大理石の壺や多宝塔を使った霊感商法で荒稼ぎをし、現在の経済基盤を築いたとされる。

 だが、共産圏国家の連鎖崩壊が現実となり、「勝共」が色褪せてしまうと、文鮮明は教義を「統一」に修正し始める。北朝鮮との接点を模索するうち、マダム朴の異名を持つ在米韓国人女性実業家の朴敬允(パクキョンユン)と知り合い、水面下の交渉が始まった。こうして実現したのが91年11月の文鮮明金日成会談で、意気投合した二人は〝義兄弟の契り〟まで結んだ。

 この時の会談で、金主席が「世界的な組織網を持つ文総裁が金剛山開発をしてくれることを望む」と語ったことが、教団が北朝鮮の観光事業をてがけるきっかけとなった。統一教会と朴敬允は、北朝鮮の「アジア太平洋平和委員会」(対韓国戦略を担う労働党統一戦線部傘下の機関)と共同出資して「金剛山国際グループ」を設立し、金剛山観光事業が動き出した。社長に就任したのは朴相権だった。

 94年1月、文鮮明側近の朴普熙(パクポヒ)が、霊感商法で訴えられた日本の統一教会系企業「ハッピーワールド」幹部を連れ金日成を表敬訪問し、金剛山観光の妥当性調査報告書を提出。2日後、内閣に相当する政務院が、金剛山開発予定地の50年間の土地利用権、第三者との合弁権などを金剛山国際グループに与える委任状を出す。この合意のため巨額の裏金が北朝鮮に渡ったと、後に朴敬允は明らかにしている。

 だが、事業は思うように進まなかった。北朝鮮で核開発疑惑が発覚し、クリントン政権が核施設の限定爆撃を計画するなど、観光どころではない。状況に変化が生まれるのは、98年初めに太陽政策を掲げる金大中政権が発足してからだ。同年六月、韓国最大の財閥、現代グループ創業者の鄭周永が訪朝を果たし、11月から「現代峨山」による金剛山観光が始まるのである。

 契約を反故にされた統一教会は、それでも北に貢ぎ続けた。同時期に教団の平和自動車が北朝鮮国営の「朝鮮連峰(リョンボン)総会社」と7対3の比率で出資し、南北合弁の「平和自動車総会社」の設立に合意。理事長(社長)に朴相権、副理事長にハッピーワールド幹部の小柳定夫を就任させた。初期5年間の投資額は3億ドルに達し、日米の教団資金がつぎ込まれたと考えられている。

 平安南道南浦市に工場を建設した平和自動車総会社は、イタリアのフィアット社の部品をノックダウン生産で売り出し、08年から黒字を出し続けている。乗用車の「フィパラン(口笛)」やミニバスの「三千里」は今まで約一万台を売りさばいた。教団はこの他にも、自動車部品会社や注油所、平壌市内の普通江ホテルなどの現地法人も運営することになる。

 昨年末、朴社長はその平和自動車総会社を含むすべての株を、北朝鮮に無償で譲渡してしまう。教団の説明によれば、株譲渡は生前の文鮮明の意思を尊重し、総裁に就任した韓鶴子が朴社長に指示したのだという。

 先述の戦勝節式典で金正恩が朴社長を厚遇した背景には、こうした事情があり、その見返りが馬息嶺スキー場の利権である可能性は十分にある。

 同舟相救う統一教会北朝鮮。彼らの当面の目標は金剛山観光の再開だ。08年に韓国人女性観光客が北朝鮮兵士に射殺された事件を機に、観光は中断されたままになっている。続く10年に発生した韓国海哨戒艦沈没事件により、韓国政府は開城工業団地を除く南北の人的・物的交流を全面的に中断する「5・24措置」を発表した。

 2年前の金正日誕生パーティーに朴敬允とともに参加した朴社長は、朝鮮労働党統一戦線部長の金養建(キムヤンゴン)書記に、「現代グループに与えた金剛山観光の独占権を破棄しようと思います。その仕事を手伝ってもらいたい」と相談されていた。だが、同措置が解除されない限り、馬息嶺スキー場どころか金剛山観光にも目途がたたない。

 北朝鮮は9月25日に予定されていた南北離散家族の再会事業をテコに、同措置を解除させようとしたが、韓国側の消極的な態度に業を煮やし、強硬姿勢に逆戻りしている。挑発は宥和を引き出す常套手段なので、韓国政府が無条件で措置解除のカードを切ることはないが、五輪開催中に軍事挑発でもされたらたまったものではない。遠からず朴槿恵(パククネ)政権は観光再開に踏み切るしかなさそうだ。

 金剛山観光は04年に陸路ツアーが始まってから観光客が増え始め、現代峨山の売り上げも年間200万ドル以上に達したことがあった。統一教会がスキー観光を独占すれば、同規模の利益がもたらされ、瀕死の教団が息を吹き返すことになりかねない。(終)

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 記事に指摘されているのはこの当時の動きだが、統一教会北朝鮮の関係性がよく出ている。

 ちなみに、ここ数日、テレビのワイドショーなどで、米国の統一教会系企業「トゥルー・ワールド・フーズ」が多くの寿司店に鮮魚を卸していることなどを報じているが、ネタ元は裵淵弘さんの昔の記事だろう。

裵淵弘さんのスクープ記事 SAPIO 08年3月12日号 

 これはブックレットにもなっている。

www.shinchosha.co.jp

 以前からコツコツと統一教会の取材をしていたジャーナリストたちのお陰で我々はより深い情報を得ることができている。今回の統一教会をめぐる事態で、調査報道の重要性を感じる。